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6 Heaven&Hellのエデン
私はESP。 人間。 真頼 マリア。 ただ、それだけ。 Dollの味方になるって決めて、それを貫いてるだけ。 それを除いたら、もう私には何も無い。 もう私には誰もいない。 昼間だというのに日の当らない廃墟。 ジュリに付いて来て、たどり着いたのはそんな所。 何があるって言う訳ではない、ただ薄気味悪いだけの廃墟。 この世界に置き去りにされた、止まった空間。 『都市』と呼ばれるこの世界から見たら、それはとても時代錯誤。 「こん… な所から、どうやっ… て裏都市に行くんです… か?」 ふと、後ろを振り返ると… 息も絶え絶えに話す風巳君はもう、ばててるみたい。まぁ、仕方ないかな。 それでも付いて来てるだけ、誉めるべきかも。 ジュリが振り回すのがそもそもの原因。 …私だって、疲れたし。 ジャージの上着と、ジーンズの半ズボン、三つ編みは変わらずに、それでも頭には斜めにボウシを乗せて。 …ボーイシュなファッションよろしく、今日のジュリはいつにもまして軽やかである。 はぁと溜息をつくと同時に、ドンっという音がして吐いた息を急いで吸いなおす羽目になった。 …何かが飛んでいく音? 「どうやって行く?こうやって行くんだよ!」 音源はジュリが蹴飛ばした木製の扉だった。 ニィと白い歯を輝かせ、可笑しそうに笑うジュリの隣、開け放たれたドアの向こうは… ―――――――― 地図にないエリア・裏都市 ―――――――― それは四角く切り取られた灰色とのファースト・コンタクト。 「風巳さん、早く行きましょう!」 「ほら風巳、さっさと行くぞ!」 始めてみる裏都市にビックリしている風巳君をつれて、ジュリと一緒に裏都市を進む。 私やジュリは迷う訳でもなくスタスタと進んでいける。 もう慣れた道だから。 「…一体、何処行くんですか?」 ジュリは説明するのが“メンドクサイ”らしく『集合場所・拠点・布陣・砦』と単語を並べていた。 ちなみに、目指す場所の名前は『シャンバラ』と言う。 剥き出しコンクリートのビル群のこと。 冷笑を湛えるビル群。その周りの更地やなんやら。 ここ、ジャンバラはDollの密会上、治療や生活の場所として使われたりしている。 上の説明をしたのは、もちろん私。 私も伊達に裏都市にいるわけじゃない。知識はけっこうある方だ。 …処刑場から逃げたら、人形はただ走る。 走る。そうすると、シャンバラに辿り着けるから。 いうならばDollのエデン、楽園みたいな場所。 まぁ、敵がこなければの話だけど。 高く聳え立つビルの間の道を少し行くと、目的のシャンバラはある。 一見、不気味にすら見える楽園が。 「ほら、着いた着いた。風巳、先に行くぞ。」 言うや否や、たたたっと走ってジュリは友達の所へ行ってしまった。 別に何かあるから今日ここに来たわけじゃない。 Doll… 人形の居場所はここなのだ、間違いなく。 だから学校がない時や放課後、ジュリはいつも此処にいる。 そして、ジュリは人形仲間からでも人気が高い。 サッパリした性格のお陰で男女両方ともに好かれている。 それに、笑う彼女は、とても華があると私は思う。 目を引く鮮やかな色彩をもつ金髪。常闇の深海を孕んだ碧眼。 極上スマイルなジュリの横顔を見ながら、思う。 …ジュリは知らないだろなぁ、けっこうモテてること。 「あ、マリちゃんだー!」 ジュリを目で追いかけていたら、後ろから声が聞こえた、 振り返って見てみると、私に向かって遠くの方から手を振っている人がいる。 壁際にちょこんと座り込んだ人影。 手を振り返すと、わざわざこっちに来てくれた。 「Hello、マリちゃん!久しぶりだね!」 走ってきて、風巳君と私の前で急停止する。いたずらそうに笑うと萌黄色の瞳が細くなった。 華奢な体つきに、肩につくかつかないかの萌葱色の髪、少し深めにキャスケットを被っている。 “カワイイ”と言うのが1番説明として合っているだろう、その容姿。 そして子供体温の持ち主。なんで分かるかって? 今、私に苦しいくらいのハグをしているのは、紛れもなくその本人だから。 「あれ、マリちゃんの隣は誰?Dollでしょ?」 首からふわふわとくすぐったかった髪が離れる。 どうやら『ご挨拶』は済んだようだ。興味は他のものに移ったらしい。 …そっか、風巳君連れてきたの初めてだから。好奇心旺盛と興味津々が同居しているといったところだろう。 Dollは何となく、相手が人であるか無いかが解るらしい。 不思議そうに、丸い瞳が風巳君を映し出す。 聞き返す意味なんか無い。 100パーセントの確信を持って、その眼はルリガキカザミを写していた。 「風巳さんっていうの。少し前まで人間として暮らしてたんですよ。」 「えっと…… マリアさん、この方のお名前は……」 あ、教えるの忘れてたっけ。 「ピルです。ね、ピル。」 「ヨロシクね、カザミ!」 思わず見合わせて笑う。ピルが差し出した右手。 無言で差し出されたそれは“オトモダチになりましょう”という類のサイン。 風巳君もそれに答えるように右手を差し出した。 ニッコリ笑ってハイ握手―。 「あのマリアさん、もう一つ聞きたいことが……」 風巳君にいきなり腕を引っ張られて体が固まった。でも、ただの内緒話らしい。 ピル君に聞こえないようにコショコショ話を進展させる風巳くん。 耳に触れる吐息の温度がくすぐったい。 「何です?風巳さん?」 『…ピルさんって女ですか?男ですか?』 …………………………。 笑っちゃ、いけないですよね? 横を見ると、真面目に困った顔をした風巳君。なんか微笑ましかった。 優しい彼らしい。実に、至極もっとも彼らしい。 お腹の筋肉が痛い。アハハ、息も上手く吸えないみたいです。 「あ、マリアさん笑わないで下さいよっ!」 あー、我慢できない!ごめんなさい! 「えっと、ピルは男の子です、風巳さん。」 手でグイッと目の前までピルを引っ張る。 「むー、やっぱりカザミも間違えたのぉー……。」 私と風巳さんとの間で、ピルはぷぅと頬を膨らませていじけていた。 「わー……、ピル許してっ!!だって解らなかったから……!」 一度眼を思いっきり背けてから、カザミはカザミらしく全力で謝り始めた。 「いーもん、どーせみんな間違えるしー…。」 細身で身長も高い方ではない。声も高い方だし、肌も白い。 美少女の要素を兼ね備えている。 だけど、男の子。 間違えるのは仕方が無い。否、ほとんどの人が間違える。 「カザミぃ、間違えないでよね。ボクは男のコなのです。」 「…ぁ、ごめんなさい!もう間違えませんから。」 ピルは風巳君が間違えたことをいいことに、逆にからかって遊んでいる。風巳は苦笑いして許しを請う始末…。 それの繰り返し。私はちょっとばかし離れて見てることにした。 このピルの洗礼を。 「えっと、合成卵胞ホルモンと合成黄体ホルモンを混ぜたやつで、排卵を抑える効果があって―――― 「へ?」 「エストロゲンとプロゲステロンの作用を持つ二種類の合成ステロイド。受精を防ぎマス。My name is 口径避妊具。」 「え、ぇええええ!!!!?」 「ピ・ル。なぁんてね、冗談っ。ボクの名前は唯の錠剤デスヨ。言うならタブレットの親戚?」 「…仕返ししてますよね、ピル?」 「んもうやだなぁ、これもハジメマシテのご挨拶だもんね。」 さっきからこんな感じ。 まぁ、私はわりと見慣れているけれど。 壁に寄掛かって見下ろす風巳くんと、ブロックに座り込んで見上げるピル。 終始困り顔と、終始喜色満面。 ピルが計った(謀った?)ように上目使いしたり、ウィンクしたり、ベーっと舌出したり… 風巳君は金魚(特に縁日の死にかけ)みたいに口をパクパクさせたり、顔を真っ赤にさせてみたり…。 「なぁんだ、割と平気そうじゃん。」 愉快そうな声と一緒にポンと、肩に置かれた右手。 振り向くと、こちらも喜色満面のジュリだった。 特に会話もなく二人で、向こうの二人の観察。 履き潰し進行形の哀れなスニーカー、セメント色のパーカー1枚と、くたっとしたジーパンの風巳君。 デコ靴に紺ソ、チェックの半ズボンにワイシャツ、黒ネクタイにサスペンダー、頭にはキャスケットのピル。 そんな二人が初対面ながら仲良くなっていう過程は、確かに見ていて飽きなかった。 …これが言うなれば『Pax Romana』みたいなものだと思う。 いつの歴史だって、いつの世界にだって、いつの国にだって、大人も子供も被害者にも加害者にも そして人形にも だれにだってある、これはそう“平和”っていうじかん。 「あ、ピルって何歳ですか?」 「いくつにみえる?カザミと同じか小さいくらいかなぁ。 …Dollって誕生日は分からないんだ。何年イキテルのかも。」 「…僕は――― 「そう、カゾクがいたんでしょ?だからショウニンが存在するんだ。」 ぽすん。 ピルは立ち上がると、言いながらキャスケットを風巳の頭の上に置いた。 軽く背伸びをして自分が被っていたときのように、丁寧に乗せる。 ぽかんとしている風巳に、軽くデコピンをして 「それをボクらは“証”とよぶのさ。」 そう唇が音もなく告げていた。 こっちに気が付いたらしく、ピルが『おいでおいで』と手招いている。 「あっ、ジュリじゃぁーん! みてみて、カザミけっこう似合うと思わない?」 手招いておいて走ってくるのはどうかと思うが、まぁいかにも彼らしいので良しとしよう。 また困り顔の風巳君の上、飾られたボウシはセピアのギンガムチェック。 まぁ、確かに似合っている。 「けっこういいじゃん、風巳!」 現にジュリもそう言ってる。 含むように笑いながら、だってボクのお気に入りだもん、とピルははしゃいでいた。 此処までが『羅馬之平和』。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.07.16 14:57:40
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