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2017/02/26(日)05:00

地名こぼれ話17(4)・沙石集と下野の国の「おしどり物語」

歴史あれこれ(37)

高遠城址公園は上伊那地方随一の桜の名所 沙石集にもある「おしどり物語」  鎌倉時代中期に編纂された仏教説話集・沙石集にも「おしどり物語」がある。  「鴛之夢見事」と題されたその内容は次の通り。  『下野の国の阿曽沼という所に、常に殺生を好む鷹使いの男がいた。あるとき、鷹狩りして帰るとき、おしどりの雄を一羽獲って餌袋に入れて帰った。  その夜のこと、夢に装束が尋常でない女が、恨み深い気色でさめざめと泣き、「私の夫は殺されてしまった。今日召し獲られたのがそれです。」といいながら、   日暮れればさそいしものを あそぬまの 真菰がくれの ひとり寝ぞうき  と詠んだ。よく見れば、おしどりの雌だった。  驚き、哀れに思いながら朝見ると、おしどりの雄の嘴を食い合わせて雌が死んでいた。  これを見て発心し、出家して、やがて遁世の門に入ったのだった、と語り伝えられる。  漢土(中国)に似た出来事があり、男は弓矢を捨て、髪を切って仏の道に入った、と法華の教えに伝わる。』(筆者意訳)  古今著聞集のおしどり物語と酷似した内容である。  ただ、鷹を使う馬允は単に男で、あかぬま(赤沼)があそぬま(阿曽沼・阿蘇沼)になっている。 宇都宮を通る日光街道と桜並木 関東各地に伝わる「阿曽沼のおしどり物語」  下野国阿蘇郡は栃木県にあった地で、現在の佐野市がその中心的存在。  安蘇沼は、佐野市浅沼町付近とされ、阿曽沼広綱が鎌倉時代の初めに築いた下野阿曽沼城の旧跡がある。  城内の一角に浅沼八幡宮があり、おしどり塚の歌碑が設置されている。  広綱は鎌倉政権と奥州藤原氏とが戦った奥州合戦にも参戦しており、その功績で遠野を領した。  宇都宮市一番町にも史跡「おしどり塚」がある。  同所の説明板には、出典を沙石集とし、求食(あさり)川に伝わる猟師とおしどりの話として記している。  千葉県八千代市に正覚院は、寺号を鴛鴦寺といい、おしどり(鴛鴦)伝説で知られる。  鷹狩の男は平入道真円という名に代わり、おしどりの情愛に打たれて出家した話は同じである。  真円が池のほとりに草庵を建て「池証山鴨鴛寺」と号したのが正覚院の始まりという。おしどり寺縁起の語る時代に詳しい。  長野県伊那市富県貝沼に真菰ヶ池の伝説として、「おしどり物語」が伝わっている。古今著聞集の「赤沼」、沙石集「阿曽沼」が、ここでは「貝沼」になっている。  その物語は上伊那歴史散策 ~真菰ヶ池の伝説~に詳しい。  上伊那地方は桜の名所が多いが、その中でも高遠城址公園は突出した名所である。薄紅色に染まる小彼岸桜が小高い城跡を埋め尽くす様は絶景で、シーズンには凄い人出で賑わう。  昨年、中央自動車道で名古屋から甲府に向かう途中、なにげなく下りて寄ったら、折よく満開で、その見事さに酔いしれたのだった。(写真1枚目) 沙石集「鴛之夢見事」(国立国会図書館近代デジタルライブラリー・著作権保護期間満了資料)

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