カテゴリ:歴史あれこれ
八幡平の峡谷に落ちる曽利滝 ・雪国ならではの「轌(そり)」と「雪舟(そり)」 かつて、「橇(そり)」は雪国にはなくてはならない冬場の運搬用具だった。 その橇が地名に登場している。 秋田県男鹿市北浦西水口橇坂(そりざか) 宮城県岩沼市南長谷橇(そり) 岩手県奥州市水沢区佐倉河橇町(そりまち) 「そり」は雪の上を滑らせて人や物を運ぶ乗り物だから、「轌(そり)」という国字が誕生した。 「雪車」を「そり」と読ませる地もある。 代表例として秋田県由利本荘市雪車町(そりまち)があるが、昔、街道を「馬ぞり」が行き来して、このあたりで一服していたことが地名の由来といわれる。(参考・地名の由来) 秋田県仙北郡美郷町飯詰轌町(そりまち) 秋田県由利本荘市葛法轌田(そりた) 秋田県能代市機織轌ノ目(そりのめ) 秋田県由利本荘市雪車町(そりまち) 福島県伊達市雪車町(そりまち) 「そり」を実際に道具として使ったと思われる地名があった。 岩手県胆沢郡金ケ崎町西根橇曳沢(そりひきざわ) 秋田県北秋田市七日市字轌引沢(そりひきざわ) 雪舟といえば、室町時代に活躍した著名な墨画家を連想してしまうが、雪の舟に見立てた「雪舟(そり)」地名もある。 福島県福島市飯坂町雪舟町(そりまち) 福島県福島市立子山雪舟田(そりだ) 福島県須賀川市今泉雪舟田(そりだ) 福島県須賀川市梅田雪舟田(そりだ) 山形県西置賜郡白鷹町高玉雪舟町(そりまつ) ・「ソリ」には別の意味があった 「ソリ地名」の「橇」「轌」「雪舟」は果たして運搬用具なのだろうか。 轌田、雪舟田、橇町、雪車町に見られるように、ソリの語尾に田や町の字が付く地名が多い。 田や町が、直ちに運搬用具と結びつくとは思えない。 本来田は、穀物を栽培するために区画された農地をいうが、それが次第に稲田に限定して使用されるようになった経緯がある。(参考・「田」) 漢字・漢和辞典によると、「田」という漢字は「区画された狩猟地・耕地」の象形文字であるという。 このことから、「田」には区画の意味が込められている。 では「町」はどうか。 和語としての「まち」は、宮中や邸宅などの区画を意味する古語で、漢字としての「町」は、本来は、農地などの境界を意味していた。市街の意味の「まち」は国訓とされる。(参考・「町 - Wikipedia」) 「町」もやはり、区画の意味合いを有する。 これらのことから、「ソリ田」、「ソリ町」は「ソリ区画」と置き換えると理解しやすい。 次は肝心の「ソリ」について考察を深めてみたい。 運搬用具には結びつかず、「ソリ」の当て字と思われる「曽利(そり)」地名がある。 秋田県湯沢市小野曽利田(そりた) 兵庫県宝塚市下佐曽利谷(さそりたに) 福島県いわき市遠野町滝曾利田(そりだ) 宮城県宮城郡利府町春日曽利町(そりまち) 日本地名ルーツ辞典(池田光則著)によると『ソリはゾリ、ソレ、ゾレで、当て字は曽利・雪車・橇・轌・鼠入(そいり)・草里(そり)・反(そり)などがある。これから焼畑や切替畑をウソリ、山地や急傾斜地をいうソレ、ゾレがある。』とある。 また、「焼き畑」の地名には、『「そり」とは「焼き畑」を意味した。柳田邦男の「地名の研究」によると、「そり」「そうり」は焼き畑を林に戻した所の意味。』とある。 「ソリ」は焼畑に深い関わりがある訳である。 ・「ソリ」のルーツは焼き畑休耕地にあり 地名の社会学(今尾恵介)に「ソリ」地名の由来が詳しいので、概略を次に記す。 『ソレ、ソリの付く地名は焼き畑にちなむ地名とされている。 熊本地名研究会の高浜幸敏氏は、日本「歴史地名」総覧(新人物往来社)で開拓地名のひとつとしてソリ・アラシの地名を挙げ、「ソリ・アラシは焼畑をいうとともに焼畑後地ならびに山の急斜面または崩壊地をも意味する。」と解説している。 ソレ・ソリには、他にも次のようなさまざまな漢字を当てられた例がある。 【ソレ】林添(はやしぞれ・愛知県豊田市)、大ケ蔵連(おおがぞれ・愛知県豊田市)、無双連山(むそれやま・静岡県大井川上流部の山名)、柿其(かきぞれ・長野県南木曽町) 【ソリ】木野反(きのそり・福島県塙町)、下反田(しもそりだ・山形市)、曲畑(そりはた・栃木県那須烏山市)、雪車町(そりまち・秋田県由利本荘市)、反町(そりまち) 「角川日本地名大辞典」にある反町という地名のうち、「たんまち」と読むのは横浜だけで、他の栃木県二宮町・群馬県太田市・長野県松本市、そして明治まで存在した旧地名の山形県庄内町の反町もすべて「そりまち」と読む。 そもそも、反という漢字は「元へ戻す」といった意味があるから、何十年という焼き畑のローテーションの中で休耕して森に戻すべき所を指すにはぴったりの字といえるのではないだろうか。 ここで注意すべきは、「ソリ」だけでなく「ソリマチ」が焼き畑を意味するということである。』 このことから、「ソリ」は焼き畑や焼畑後地を指すと共に、傾斜地でもあることが分かった。 八幡平の曽利滝は、国道341号線から急斜面をロープを使いながら降りる深い谷にあり、傾斜地名そのものである。(写真) 古沢典夫氏が、社団法人・東北地域環境計画研究会の第44回研究懇話会で述べた「壮大!働き盛り三代で一巡する焼畑輪」は、焼き畑と「ソリ」をよく理解できて興味深い。 以下はその懇話会の記録要旨である。 『かつて北上山系で行われていた資源循環に基づく焼畑は次のようなものだった。 この焼畑は「ソリ」と呼ばれ、県内各地に残る、草里、曽利田、橇、鼠入などの地名は、焼畑放棄地「草荒(そうり)」と考えられる。 軽米町周辺では80年という長いサイクルの中で焼畑が行われていた。 初めに雑木林を炭焼きのために利用し、伐り取った跡地を焼畑に起こして利用した。 1年目は大豆、2年目はアワを作り、これを3回輪作した後、ソバを3年ほど連作。この後は「ソリ」と呼ばれる耕作放棄地となり、植生は自然状態を回復していく。 初期はススキからアカマツ林の時代(45年)、アカマツの伐採後は、雑木林の時代(25年)へ戻っていく。 焼き畑とその跡地からは飼料、草肥、資材などが供給され、それらの有機物は馬などの家畜と共に有機的に循環していった。 有機物は焼き畑をしない常畑に投入され、多くの作物を育てる役目を担った。 こうした超長期の輪作体型は非常に効率的な土地資源の活用ばかりでなく、病害虫や連作障害にも強く、地力維持に効率的な仕組みであることが、現代の科学から明らかになっている。』 ・傾斜地に多い「反(そり)」地名 弓なりに反るの「反」を含む「ソリ地名」も多い。「反(そり)」は傾斜地をよく反映している。 運搬用具としての「橇」は、スキー板のように先端部が反り返っているので、「反り」が語源となったのであろうか。 「反町(そりまち)」が訛ったのか、「反松(そりまつ)」地名もある。いや、耕作放棄中に自然が復活して松が育った可能性もある。 秋田県横手市平鹿町浅舞反見(そりみ) 山形県山形市反町(そりまち) 群馬県太田市新田反町町(そりまちちょう) 栃木県真岡市反町(そりまち) 宮城県気仙沼市反松(そりまつ) 兵庫県宝塚市上佐曽利松田(そりまつだ) 宮城県大崎市古川沢田反田(そりた) 福島県二本松市反田(そりた) ・数々の「ソリ地名」 「ソリ地名」漢字はまだまだある。 宮城県大崎市岩出山南沢曲田(そりた) 宮城県白石市斎川楚利田(そりだ) 宮城県栗原市高清水新剃田(そりだ) 愛知県豊田市阿蔵町曽理(そり) 石川県輪島市尊利地町(そりぢまち) 石川県白山市河内町下折(そそり) 次も「ソリ地名」と考えられる。 岩手県下閉伊郡岩泉町鼠入(そいり) 福島県伊達市保原町富沢鼠入(ねずみいり) 山梨県南巨摩郡身延町椿草里(ぞうり) 宮城県宮城郡松島町幡谷惣利田(そうりだ) 群馬県みどり市東町沢入(そうり) 福岡県春日市惣利(そうり) 静岡県賀茂郡西伊豆町大沢里(おおそうり) 地名の由来ネットに珍しいと思われる「鼠入(そいり)」の由来が載っていた。 『鼠入(そいり) 岩手県下閉伊郡岩泉町鼠入。「南部方言集」によれば、荒地のことを「ソランバタケ」という。「ソラス」は休田の意味で「ソリ」は休んでいる土地のことをいう。安家(あつか)地方では、焼畑の休耕地を「ソウリ」といい、翌春これを焼くことを「ソウリヤク」という。 地名の由来は、このことから、谷深い渓流の鼠入川中流域の当地で焼畑を荒れ地にしていたことから、「ソウリ」が変化して「ソイリ」になったと考えられている。【角川日本地名大辞典】』(参考・地名の由来ネット-「鼠」の地名) 鼠入を「ねずみいり」と本来の読みの地名もあるが、その由来が「鼠入(そいり)」と同じかは不明である。 横手のかまくらの右下に置かれた箱ぞりは子どもの乗り物だった お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017/03/15 05:00:05 PM
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