2011/07/07(木)17:03
☆妄想だよ その2☆
読み始めはこちらから。
その1の続きです。
*
「私、、、妊娠したかもしれない」
そう告げた瞬間。
ヒロトが止まるのが分かった。
・・・あぁ・・・。
と思う。
・・・そっか、やっぱり、きっと、迷惑なんだ。
いたたまれなくなって、逃げ出したくて、でも、ヒロトの反応を目の当たりにして、立っているのもやっとなくらい、カラダがマヒして動けない。
「妊娠、、、って、、、サラが?」
呆然とヒロトが吐き出す言葉。ただうなずくしかない私。
「って、僕の・・・・?僕に、、、コドモが?サラに僕の子供が。。。僕に・・・・?」
何度も何度も、僕にと繰り返すヒロトに、ゆっくりと血の気が引いてゆく。
・・・それは、、、考えてなかったな、ヒロト。・・・私、哀しい。
私は、もう、何も答えずに、ゆっくりと靴箱につかまるようにして、振り返る。麻痺した体を、しかりつけるようにして、ドアに手を伸ばす。
「・・・サラ?」
ヒロトがぼんやりと呼びかける。
「・・・もう、、、いい・・・・かえる。ごめんなさい・・・」
それだけ。ただ、それだけ言うのに必死で。ドアを開けようとしたら、ヒロトが、
「帰るって、おいっ。何言って。今、、怒ったところだろう?」
後ろから、カラダをつかんでくる。必死で振り払おうとするけれど、力が出ない。
「離してっっ。・・・どうだって、いいでしょ?別に、私がどうなったって、いいでしょ?どうせ、私が、他の人ともいっぱいいっぱいヤるようなオンナだと思ってるならっ」
「他の人と。。。ってなに?何の話してるんだ?」
「僕の?ってヒロト、言ったじゃないっ。私のこと、そういう風に思ってるってことでしょう?そんな風に、思われてるなんて、想像もしてなかった。もう、私、哀しい。苦しい。そんな風に思ってるんなら、ほっといて。もし、赤ちゃんできてても、私だけの子供だから。私、1人で生んで育てるもんっ」
「サラ・・・、ごめん」
ヒロトは、ただ、そういって、私を抱き寄せた。
・・・ごめん、なんだ。
*
「サラ・・・、ごめん」
そういって抱き寄せた僕の腕から、サラが静かに逃れようとする。
「離して」
「やだよ」
「どーして?ごめん、なんでしょ?もういいから。・・・・さよなら」
さよなら。その言葉に僕はひどく傷つく。
さよなら、すら言わずに、サラの前から消えようとしていたのに、勝手なものだ。
いや、そんなことよりも、僕は、まず、サラの誤解を解かなければ。
「ごめん、のイミが違うんだ。サラ。誤解させてごめん。僕の、、って言ったのは、サラの中に、僕の子供がっていう肯定的な意味だよ。僕に、コドモが、、できるなんて。。ってただ、驚いたんだ。サラが、僕以外の誰かと、ヤっ、、」
言いかけて言葉を切る。
「言葉にも出したくないよ、そんなこと。そんなこと、疑ったこともない」
「・・・ほんとに?」
おずおずと問いかけるサラに、僕はうなずく。
「ああ。だいたい、サラ、僕に夢中だったろ?」
「過去形にしないで。今もだもん」
「ごめん」
言ってお互い、クスリと笑う。僕は、そっとサラのお腹に手を当てる。手のひらに確かに感じるその命。二人とも、笑顔から同時に真顔に戻る。今度は僕が話す番だ。その言葉は思いがけずスムーズに流れ出た。
「サラ、僕と、結婚しよう」
「・・・・へ?」
「1人でなんて産ませないし育てさせないよ。結婚しよう。いいだろ?」
ぽかんとしていたサラの表情が、その意味を理解して、だんだんとゆがんでいく。
「・・・いいの?」
今にも泣き出しそうに、歪んだ表情。僕は、微笑んでうなずいた。
「・・・ああ。もちろん」
サラを見つめながら、僕の中で、嘘のように、死に向かう気持ちが凪いでいく。
あんなにも、必死で決めた思いだったのに。
「・・・・あ、、、でも・・・・」
サラがおずおずと言う。
「ん?」
「・・・まだ、妊娠、した、、、『かも』、なんだけど。。」
上目遣いに、申し訳なさそうにそんなこというサラ。
「どっちだって、いいよ」
「どっちだって、いい?」
「ああ」
どっちだって、『いい』んだよ。サラ。
僕の足は、もう、死へは向かない。
これまで、あんなに、死を望んでいた僕を、引き止めてくれたその小さな命の可能性。
今はできていなくても、いずれは宿るはずのその小さな命ごと、サラを守っていくんだ。
「どっちだって、僕は、サラと結婚したい。できるだけ早く。・・・返事は?」
問いかける僕に、
「はい。はい。はい~~ぃっ」
耐え切れずに涙を流しながら、サラがしがみついてくる。
「ありがとな」
・・・きっと迷っただろうに、伝えに来てくれて、ありがとな。
僕が死んだ後に、サラが気づいていたら、そう思ってぞっとする。
しっかり抱きしめて、髪を撫ぜながら、ココロで、
・・・・ごめんな。
何度も何度もそう呟く。
サラを、こんなにも不確かな世界に、不安定に、置き去りにしようとしたなんて。
何かに囚われていたように、死しか思えなかった自分が情けない。
僕は、もう一度、サラのお腹に手を添える。やっぱり、そこには確かに命を感じる。
・・・父親になるんだ。サラとの間に、コドモがもてるんだ。
目を覚まさせてくれた、サラに、小さい命に、侘びると同時に、心から感謝する。
・・・きっと幸せにするよ。ムジャキで、甘えん坊なままのサラを、ずっと、僕が守っていくから。
<おしまい>
*以上、サラのココロが長い間すがっていた妄想でした。今思い返しても、ヒロトとサラのキャラを余すところなくあらわした妄想となっておりますw。まる。