lovesick

2012/02/03(金)07:31

box298 ~楓~

box(309)

応接室、と呼ぶにはあまりに広い、高い天井から床まで大きく広い窓から差し込む光でまぶしいほど明るい部屋に通され、穏やかな微笑の悠斗に促され、陽だまりのソファに、浅く腰かけた私。隣に、だけれど、今度はさすがにお行儀よく少し離れて腰をかけた悠斗は、小さく息をつく私に、 「また、キンチョーしてるの?」 と聞きました。 ・・・うん。 と答えかけて、思いとどまったのは、また、キスをされると困るから。 だから、ただ、悠斗の目を見て微笑んで、ゆっくりと窓の外に目をやりました。 ・・・いいお天気。 どこまでも青い空、そして、ステキなお庭を眺めていると、悠斗が立ち上がり、窓のそばに立ちました。背の高い悠斗の姿はどこまでもステキで、スーツを着ているわけでもないのに、この空間になんの違和感もなくなじんでいました。そう、こんな、私の日常とはかけ離れた空間に。私は、視線を緩め、磨きぬかれた窓にぼんやりと映る自分自身を見つめました。悠斗に相談して、一番、上品に見えそうな服を選んで着たけれど、ガラスに薄くダブって見えるその姿は、なんだか自分で思っていた以上にちっぽけで。 ・・・私はやっぱり、、 また、気弱に傾き始めたワタシのココロ。悠斗は、そんな私を知ってか知らずか、オオゲサに腰を折って、私とムリヤリ目を合わせてきました。いたずらな笑顔に、こちらも微笑んで、 「・・・なあに?」 そう訊ねると、 「入ってたいんだ。いつも」 「?」 「・・・楓の視界に」 私はその言葉に、ふっと息をつきました。悠斗は今度は言葉でワタシの緊張をほぐそうとしてくれている、そのことが嬉しくて、そして、安堵して。だけど。 ただ微笑んで肯いた私に、悠斗が満足げに微笑み返して、庭の方を振り返ったその後姿。その後姿に、私は・・・。 ・・・似てる。 久しぶりに、悟を濃厚に思い出しました。初めて悠斗に会った日に、同じように思い出して、気を失ってしまうほど、胸がしめつけられたあのときのように。だけど。 ・・・ちがう。 私は、そう思いました。 ・・・うん。やっぱり、違う。 悟とは同じ町で同じ川のそばで同じ空気を吸って同じ空間で生きていて。だから。 ・・・こんな気持ちになることなんて、なかったな。 こんな気持ち。それは。 ・・・違和感。 どこまでも場違いな感触。場、が違うのか、自分、が違うのか。それさえも、定かではなく。だけど、ただ。 ・・・ここにはワタシの居場所なんて、ない。 悠斗がいて、他には誰もいなくて、それなのに、痛切に感じる、その違和感。なんで。 ・・・あぁ、なんでワタシ今こんなところにいるんだろう。 あまりにも、いたたまれない気持ちに、思わずバッグを取り、立ち上がろうとした正にその瞬間、ドアが開くと同時に、 「ごめんなさいね、お待たせして」 悠然とした声が、その部屋の磨き抜かれた壁と床に響き渡りました。   小説の目次 ふぉろみー?←リアルタイムのとぼけたつぶやきはこちら

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