愛再び～葛藤１

イヌクの言葉に、スジョンは泣き崩れた。

「帰ってこい・・・俺のもとに・・・帰ってきてくれ」

イヌクが泣き崩れたスジョンを抱きおこすと、スジョンの体が震えていた。

切なく・・・愛しく・・・哀れで・・・イヌクの胸が痛んだ。

「俺が・・・恐いか？」

スジョンを思い続けてきたイヌクの３年間と、スジョンがジェミンと幸せに暮らした３年間の

大きな隔たりを、イヌクはスジョンを抱き起こした腕で感じた。

その途端イヌクは狂ったように、スジョンを抱きしめると、こみ上げてくる感情を、

もう押さえることができなかった。

「お願い・・やめて・・ジェミンさん・・助けて」

泣き叫びながら必死でジェミンの名を呼ぶスジョンに、イヌクの力が失せ

「何故、俺じゃなかった？どうして俺を愛さなかった・・・」

そう叫んで、グラスを手に取り思い切り壁に向かって投げつけた。

愛したが故の苦しみと、愛されたが故の悲しみが出口のない部屋に押し込まれ、

ただ放心したようにスジョンは座り込んだまま、身動きできずにいた。

涙だけが、スジョンの瞳から溢れて止まらない。

イヌクはそんなスジョンの姿を見ると、両手で顔を覆いながら言った。

「どうすればいい？こんなにおまえを愛してしまった俺は・・」

二人の苦悩の時計が、動き出していた。

ジェミンは寝付かれず仕事の資料を作っていると、ふとスジョンが自分を呼ぶ声が聴こえた。

するとジェミンはなぜか胸騒ぎがして、あの晩、スジョンを見つめるイヌクの顔が脳裏に浮かんだ。

こんなときに重なる、急なイギリス出張のタイミングに、なにか重いものを飲み込んだかのように、

苦悩の表情を隠せずにいた。

戻れるものなら、戻りたい・・と心の中で繰り返していたが、空の上では何もなす術もなかった。

スジョンの笑顔が見たい・・離れて数時間しか経っていないとわかっていても、ジェミンは、

ただスジョンの笑顔が見たいと心から願った。

「このままおまえを、誰も知らない世界に連れ去ろうか・・・・たとえそれが地獄であっても

俺はいとわない・・・。お前と一緒ならこのまま生きるより、その方がましだ。」

床に座って泣くスジョンを、イヌクは悲しく見つめながら言った。

暫くして、スジョンは顔を上げてイヌクを見つめると、その泣きはらした目が、

イヌクの胸に突き刺さった。

「どうするつもりですか・・」

スジョンが聞いた。

「どうしたい？」

「どうすれば、許してもらえますか」

「許す？誰が誰を？俺はただ・・・おまえを取り戻したいだけだ。」

黙っているスジョンに、イヌクは聞いた

「こんどは俺が聞こう・・・どうすれば、おまえを取り戻すことができるんだ？それを知りたい。」

スジョンは大きく見開いた目に涙をいっぱいためながら、まっすぐにイヌクを見て言った。

「あなたのもとには、もう帰らない。」

すると、イヌクが寂しそうに笑った。

「残念だな・・・それなら、俺がこの手で力ずくでも手に入れようか」

そのときスジョンは、絶望と言う名の扉が静かに開いていくのを、もう止めることができないと悟った。

スジョンは、半ば放心状態で静かに立ち上がると、ふらつく足下をかばいながら、何も持たず部屋を出ていった。

その様子を見て、イヌクはゆっくりスジョンの後を追った。

『あのころのように、こんなときはおまえを優しく抱きたい・・』

イヌクは傷ついたスジョンを優しく抱きしめた昔を、懐かしく思い出していた。

自分の胸で泣くスジョンに「泣くな・・」と言いながら、髪を優しくなでたあの頃に戻れるものなら・・・

すべてを捨ててもかまわないと、イヌクは心から願っていた。