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チョ・インソン~ジェミンに恋して

チョ・インソン~ジェミンに恋して

雨の章2

翌日、ジュノは仕事から帰ると真っ先にヒョンスの小屋をそっと訪ねた。

小さくノックをすると、泣きはらした目をしたヒョンスが現れた。

そばかすもメガネもしていない、そのままの美しく愛らしいヒョンスが、

悲しげにジュノの顔を見つめ涙を浮かべている。

「どうした・・・」

ジュノは思わずヒョンスを抱きしめ、ふと部屋の中に目をやるときれいに

片づけられた部屋の隅にスーツケースが置いてあった。

まるで今すぐにでもこの小屋から出ていくかのように・・。

「これはいったい・・・どういうことだ。」

ジュノはヒョンスの肩を持って、引き離し顔をのぞき込むように聞いた。

ヒョンスはただ黙って、泣いている。

「どうしたんだ。何があった?」

ジュノは思わずヒョンスの体を揺すって何度も聞くのだが、ヒョンスは何も

答えようとはしなかった。

「キヨノか・・そうだな・・」

そう言うと、ヒョンスは顔を覆って泣き出した。

ジュノはもう一度ヒョンスを抱きしめ、

「待っていろ・・今キヨノと話をしてくる。おまえを何処にも行かせない・・。」

そう言うとジュノは屋敷に帰り、キヨノの部屋に入った。

するとキヨノの部屋もきれいに片づけられて、大きなバッグが置いてある。

その横に座っているキヨノを見て、ジュノの顔色が変わった。

「キヨノ・・いったい何をするつもりだ・・。」

ジュノが言うと、キヨノはすでにかたい決心をしているように

「ジュノ様・・大変お世話になりました。もう、こちらにはいられません。

どうぞお元気で・・・」

と、深々と頭を下げ、キヨノは立ち上がって出ていこうとした。

「俺のせいなのか?そうか?そうなのか?」

ジュノはキヨノの腕をつかんで詰め寄った。

するとキヨノも悲しそうな目でジュノを見つめ

「どうぞ、お許しください。でもこれしか方法がないのです・・・。この

ままいたら、ジュノ様もお苦しみになります。」

と言った。

「だから・・・ヒョンスにはかまわないでくださいと・・。」

ジュノは胸が苦しくなった。このままヒョンスと逢えなくなるなど、考えも

つかないことだった。

「待て・・待ってくれ。もう、俺はあの小屋には行かない。それなら良い

のか?えっ、そうか」

するとキヨノは、じっとジュノを見つめて静かに首を振って言った。

「もう遅いのです。ジュノ様はヒョンスを愛し始めています。ここにいて

は、苦しむだけでございます。」

(愛し始めているのではない・・もう・・愛しているんだ。)

ジュノは心の中でそう叫んだ。

「キヨノ・・頼む。おまえの言うとおりにするから・・・どうすれば、

ヒョンスをここに置いてくれるんだ?」

「どうぞ・・お許しください。ジュノ様のもとに来てはいけなかったのです。」

キヨノの決心は、ジュノの願いも受け付けぬほどかたかった。

「いったい、何なんだ?ヒョンスはいったい誰なんだ・・。」

キヨノはそれから口をきこうとしなかった。

「他に行くところがないから俺の所へ来たんだろ・・・ここを出て、いった

い何処へ行くと言うんだ。口もきけないヒョンスを連れて・・いったい。」

それでも答えようとしないキヨノを見て、

「わかった・・それなら、今夜だけ時間をくれ。行くなら明日にしろ・・良

いな。今夜はヒョンスに会わせてくれ・・頼む。」

今にも泣き出しそうなジュノの姿を見て、キヨノも泣いた。

そして静かにうなずいた。

ジュノは急いでヒョンスの小屋へと走る。

ドアをノックして部屋に入ると、ヒョンスはベッドに腰掛けてすぐにでも

出かける支度をしていた。

ジュノは黙ってヒョンスの横に座ると、静かに肩を抱き寄せた。すでに

ヒョンスは諦めているかの様だった。ジュノがヒョンスの足下に目をやる

と、包帯が痛々しかった。

「湿布は変えたのか?」

ヒョンスが静かに首を横にふる。

「だめじゃないか・・薬はどうした?」

と聞くと、ヒョンスは細く白い指で、テーブルの上を指さした。

「あぁ・・」

するとジュノは、ヒョンスを抱きかかえてベッドの上に座らせ、足を投げ出

させ、包帯をとり、湿布を変えた。

「少し腫れもひいたな・・・この薬は持って行け。必ず治るまで付け替え

ろ・・。良いな」

そう言ってヒョンスの包帯を巻き始めると、ジュノの手元に涙が落ちた。

「何故なんだ・・・いったい・・おまえは誰なんだ?」

ジュノは自分の涙にとまどいながらヒョンスを見ると、ヒョンスも又黒い瞳

が潤み、大粒の涙となって頬をぬらしていた。

「頼む・・教えてくれ。おまえはいったい誰なんだ。」

悲痛な声が、小さな部屋に響いた。




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