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チョ・インソン~ジェミンに恋して

チョ・インソン~ジェミンに恋して

雨の章4

ジュノは力なくローズを抱き上げ、キヨノの部屋を出た。

ヒョンスは今頃一人でどうしているのかと思うと、苦しくてならない。

ヒョンスのもとにローズを連れていきたかったが、また悲しい別れをしなけ

ればならないのなら、可哀想な思いをさせるだけだと思い、ジュノはローズ

を自分の部屋に連れてきた。

せめて自分がローズを育てるから、心配をするなと伝えてあげたかったのだ。

部屋に戻りローズを床に降ろすときょろきょろ部屋を見渡し、絨毯の上で

のびをしたかと思うと眠たそうに横になった。

ローズの無邪気さが悲しかった。

ジュノはテラスに出るとヒョンスに電話をかけた。

「俺だ・・。」

電話をこつんとひとつ叩く音がした。小屋には灯りがついていて、あの

部屋で一人ぽつんと座っている姿が目に浮かぶ。

「ローズは俺が育てるから、心配をするな。いつかまた、必ず逢えるから・・。」

暫く間が空いてからこつんと電話を叩く音が聞こえた。

(泣いているのか・・・)

ジュノは今すぐにでも庭を駆け出し、ヒョンスのもとに行きたい衝動に

駆られたが、思いとどまった。

「良いかヒョンス・・良く聞けよ。この電話は必ず持って行け。キヨノに

黙っていろ。そして、困ったことがあったら必ず俺に連絡をするんだ。

いいか・・わかったな。」

こつん。

「俺のことが嫌いか?」

ジュノが恐る恐る聞いた。

こつん・こつん

「そうか・・じゃあ俺のことが好きか?」

少し間が空いてこつんとひとつ叩いた。

ジュノの目頭が熱くなる。

「俺も・・・おまえが好きだ。体に気をつけろ・・。」

と言って電話を切った。

ジュノは酒を取り出すと、グラスに注ぎ一気に飲み干した。

悲しいほど月の美しい晩だった。あれほど月明かりを待ち続けていた日々

が、今となっては恨めしくさえ思うのだった。

あの晩初めてこの庭に舞い降りた妖精を、夢だと思って忘れれば良かった

のか・・・そうすれば、ヒョンスはこの屋敷から出て行かなくても良かっ

たのだろうか・・様々な思いが駆けめぐっていく。

飲んでも、飲んでも忘れることなど到底できるものではないとわかってい

ても、明日別れなければならないヒョンスを思えば、せつなくて飲まずに

はいられなかった。

やがてジュノもローズが眠る隣に横たわった。あの晩ヒョンスがローズと

眠っていたように、ジュノも床に丸くなった。

どれほど時間が経っただろうか・・。ジュノは携帯の着信音で目が覚めた。

酔いも半分手伝って、おぼろげに携帯を見ると何とそれはヒョンスからだった。

ジュノは慌てて起きあがり電話にでる。

「俺だ・・どうした。」

ジュノが呼びかけるとヒョンスからの答えはなく、電話の向こうでガラス

が割れる音が響き、争うような物音が聞こえた。

ジュノは顔色を変え急いで階段を下り、庭にでて小屋に向かって走る。

小屋に着くとドアの外にはこじ開けた後が残り、部屋の中は荒らされヒョンス

の姿はどこにもなかった。

ジュノがバスルームからキッチンまで探していると、そのとき窓の外に人影

を見つけ、急いで小屋の外にでてその人影をめがけて走った。

月明かりのなかでその姿が浮かび上がる。

男がヒョンスを肩に担ぎ、裏門から出ようとしていた。

ジュノがその男に飛びかかると、ヒョンスが芝生の上に崩れ落ちた。

男はナイフを取り出しジュノをめがけて襲いかかってくると、ジュノの顔

つきが変わる。怒りと憎悪に満ちたジュノは、相手のナイフをよけ、蹴り

を入れるとナイフが空を舞った。殴りかかって来た男を幾度も殴り返すと、

その男は顔を隠すようにして裏門を飛び越えて逃げていった。

ジュノは一瞬追いかけようと思ったが、倒れているヒョンスを抱き起こした。

「ヒョンス・・しっかりしろ。おい・・。」

ヒョンスは気を失っていた。

ジュノはヒョンスを抱き上げ、屋敷に向かった。

キヨノにも気付かれまいと、そっと静かにヒョンスをジュノの部屋に運び

ベッドに寝かせた。

「ヒョンス・・ヒョンス」と頬を軽く叩いて起こそうとしたが、ヒョンスは

気を失ったままだった。グラスに水を注ぎ、ヒョンスに飲ませようとしたが

まったく飲む気配もなかった。ジュノは自分の口に水を含むと、ヒョンスの

唇に押し当てて水を飲ませた。するとヒョンスはこくんとその水を飲みこ

み、小さくせき込んで目を覚ました。

ジュノが優しく頬をなでる。

「もう大丈夫だ。何も心配をするな・・・俺がそばにいるから。」

ヒョンスはジュノの手を握り、静かにうなずいた。

「怪我はないか?」

するとヒョンスはジュノの掌を指で一度叩いた。(はい)

ジュノは嬉しそうにヒョンスを見つめ、

「そうか・・・良かった」

と言って、ヒョンスを抱きしめた。

この時ジュノは初めて、キヨノが一人で大きな重荷を背負っているのでは

ないかと感じた。

キヨノは一人でヒョンスを守ろうとしている・・・誰から?何のために?

『なにが起きようと、俺がおまえを守ってやる。』

愛しいヒョンスを抱きしめながら、ジュノはそう決心していた。






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