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チョ・インソン~ジェミンに恋して

チョ・インソン~ジェミンに恋して

バリでの出来事23

そのころイヌクはジェミンの兄である専務に呼ばれて、一流ホテルのVIPルームで、酒を飲んでいた。

「本社に帰ってきて、充実しているか?」

「はい」

イヌクは何故専務が自分を呼んだのか見当がつかなかった。

おそらく、自分をジャカルタ支店から本社に呼び寄せたのも専務の指示だったはずだ・・

何故なのか・・それがわからないでいた。

「まぁ、色々あるがジェミンの事は許してやってくれ。実力が備わっていないのに、
重い責任を課せられているのだ。それは実力がない本人が悪いのではない。

人事権を持っている才覚が問題なのだ。」

黙って聞くイヌクだった。

「そう言えば、ヨンジュとは大学時代からの知り合いか?」

専務が聞いた。

そのときイヌクは、専務はすべてを知って自分を呼び寄せたと確信をした。

「そう緊張するな。私もジェミンとヨンジュの結婚は反対だ。ヨンジュが可哀想だろ。」

専務はまだヨンジュとイヌクがつきあっていると思っているらしい。イヌクは敢えて、何も答えなかった。

「君は定年退職するまで勤めようと思ってきたのか?そうじゃないだろう・・・。

もしもそうならあんなところで、仕事はできない。」

つまりジェミンの下で、定年になるまで働く気はないだろう・・・と言っていたのだ。

思わずイヌクは専務に聞いた。

「私に何を?」

専務は笑いながら言った。

「私も君も野心家だ。仲良く分け合うなんて我慢ならないだろう・・・たとえ、

それが血を分けた兄弟であっても・・・」

イヌクは専務の考えていることをやっと悟った。

専務が自分を呼び寄せたのは、ジェミンからすべてを奪い、会社を独り占めするつもりなのだ。

ヨンジュとジェミンが政略結婚すれば、ジェミンのバックにヨンジュの家がつく。

次第にジェミンの力がものを言うようになるかも知れない。

それを壊したくて、イヌクを本社に呼び寄せたに違いないと思った。

しかし、絶大なる力を持つ自分の父親にも真っ向から反対できず、自分の力を誇示するための

策略を思案しているのだった。

専務とイヌクの思いがひとつになった。

「私にどこまで力があるかわかりませんが、お力になります。」

イヌクが言うと、専務は満足げに高笑いをした。

「よし、今日は飲むぞ」

専務とイヌクは夜通し飲み明かした。


一方、スジョンが家路につくと、この町にはとうてい不似合いな高級車が停まっていた。

見ると車に寄りかかってヨンジュが立っていた。

(イヌクさんを待っているのね・・)

何気なく通り過ぎようとしたが、思わず声をかけた。

「あの、お久しぶりです」

見知らぬ女に声をかけられて不振そうにスジョンを見ていた。

「私ですよ。バリ島で・・・」と言いかけたときに、ヨンジュは思い出した。

「ああ・・」

そして、以前イヌクの腕をつかんで歩いていったのもスジョンだったと気がついた。

「寒いでしょ。良かったら中でお待ちになりませんか?」

ヨンジュはためらったが、何故あのときイヌクとスジョンが一緒にいたのか知りたかった。

家に入るとミヒが慌てて部屋を片づけた。突然の来客に不機嫌である。

スジョンは、ヨンジュの毛皮のコートを受け取り、ハンガーに掛けた。

「どうぞ楽にして」

ミヒが偉そうに言った。ヨンジュは「楽よ」と言って、狭い部屋の隅に座った。

「イヌクさんとはどういう関係ですか?」

ミヒがいきなりヨンジュに聞いたが、ヨンジュはミヒの質問を無視してスジョンに聞いた。

「バリから帰ってきたのね」

「ええ」スジョンが答えた。

「イヌクさんの恋人かしら?」ミヒが又聞いた。それでもヨンジュはミヒの質問に答えずに

「帰ってきて、何をしてるの?」

とスジョンに聞いた。自分の質問に答えようともせず、いかにもお高くとまっている

ヨンジュにいらだっていたミヒが変わりに答えた。

「スジョンはP財閥の御曹司と仲良くなりまして、P財閥グループで働いているんですよ。」

スジョンは慌ててミヒを止めようとしたが、ミヒはかまわずに後を続けた

「仲がいいという意味がわからなければ・・・そうですね、家を行き来する間柄と

言うんでしょうか・・私もお会いしたことがありますけど・・」

見る見るヨンジュの顔が青ざめ引きつっていった。

スジョンはミヒを止めることもヨンジュに弁解することもできずに、下を向いたままだった。

ヨンジュは立ち上がって帰りかけ、ハンガーから自分のコートをはずそうとしたときに

見覚えのあるセーターを見つけた。

それはヨンジュがイヌクにプレゼントしたセーターだった。

きっ、とスジョンを睨み付けて「イ・スジョンさん・・あなたって本当に恐
い人ね」

と捨てぜりふをして帰っていった。

その晩イヌクは帰らなかった。


翌朝、専務にモーニングコールで起こされたイヌクは、専務と一緒にP財閥グループの経営する百貨店の紳士服売場にいた。

「仕事に見合った身なりをするべきだよ。いつでも必要な物はここに来てそろえなさい。」

と言って、一流ブランドで身を包んだ。

理性的な顔立ちがいっそう引き立った。


「それでは始めようか・・」

ジェミンはマーケティング部のミーティングを始めようとしていたが、イヌクがいないことに気がついた。

「カン・イヌクさんは?」

と聞くと誰も知らないようだった。

そのとき、ドアが開いて高級ブランドに身を包んだイヌクが部屋に入ってきた。

ジェミンも思わずイヌクを上から下まで確認するように眺めた。

同時に「ほぉーっ」と女子社員のため息も聞こえた。

「カンさんは、何でもできる人だが・・・遅刻もできるようだな」

ジェミンがイヤミを言ったが、イヌクは取り合わなかった。

「それじゃぁ、始めよう」

そのミーティングでもイヌクの才能が認められるのだった。

「カン・イヌクさんって、本当に仕事ができるのね」

女子社員がうっとり見つめながらつぶやいた。

ジェミンは、イヌクをじっと見つめていた。

イヌクが来るまで仕事という仕事をやったことがなかったが、イヌクが来てからと言うもの、

ジェミンのなかにライバル心が芽生え始めていた。


そのころ、ジェミンの母親がヨンジュを呼び出していた。

とうとうイヌクとヨンジュが車の中でキスをしていた、証拠写真を手に入れたのだった。

「女からこんな理由で破談を申し出たと知れたら、あなたもあなたのご両親も世間に

顔向けができなくなるんじゃなくて?知ってのとおり、まだまだ女には厳しい世の中よ。

よく考えて頂戴。」

ヨンジュはイヌクとの写真を突きつけられて、返す言葉もなかった。

「バリでも会っていたらしいわね。おまけにこのカン・イヌクはジェミンの部下だというじゃない!知っていたの?」

怒りがおさまらない様子だった。

「ジェミンはこのことを知っていたのね?そうでしょ・・・だからあなたをかばって、

自分から別れたようなことを言っていたんだわ・・あんなに優しい子を傷つけたなんて、

私は絶対に許しませんよ。この責任はきっちりとってもらいますからね。」

「お母様・・・いったい何を?」

「お母様なんてやめて頂戴。まだ他人だわ。カン・イヌクに責任をとってもらうのよ。

社会から抹殺してやるわ」

ヨンジュは必死で言った。それをやりかねない事を、理解していた。

「何でも言うことを聞きますから・・・彼だけは巻き込まないでください・・・」


ミーティングが終わって、ジェミンは秘書を呼びつけた。

「何でイ・スジョンをメインデスクに置いた?」

いつかスポーツ誌の一面を飾った記事に、スジョンとジェミンが映っていたことをほとんどの人間が知っていた。

ホステスとして取り上げられていたスジョンを、案内デスクにそれもわざわざ一番目に付く

メインデスクに配置したことが気に入らなかったのだ。

会長の耳にも直に入るに違いない、それなのに何故・・・ジェミンは腹立たしかった。

「容姿にも問題がありませんし、語学にも長けていましたので、熟慮した結果でございます」

と、秘書が答えた。本当は専務と面白がってメインデスクに配置したのだった。

「それでは裏門の方に配置いたしましょうか?」

と秘書が聞くと

「俺をからかっているのか!」と、鋭いまなざしを向けた。

ジェミンが部屋に帰ろうとすると、スジョンが落とした書類をイヌクが拾っていた。

「同じビルなのになかなか会えないですね」

「ああ」

ジェミンとすれ違うそのとき、気付いたイヌクが当てつけるようにスジョンに言った。

「今日帰りは遅いの?」

「いいえ、この書類を届けたら帰ります」

「そう・・じゃあ一緒に帰ろう。ロビーで待っているよ」

ジェミンに聞こえるように言ったのだった。

ジェミンも勿論聞こえていた。

(どういうつもりだ・・)ジェミンは、おもしろくなかった。

イヌクはジェミンのほしがるものを奪いたかった・・・いいや、ジェミンに渡したくなかったのだ。

イヌク自身も心密かに、スジョンへの想いが募りつつあった。


ジェミンが部屋に帰ると、すぐに秘書がやってきた。

「会長がお呼びです。」

「またかぁ?」

思わず顔をしかめた。

「はい、奥様もご一緒で」

だいたい会長室に呼ばれる時はろくな事がない・・・と思いながら、仕方なく会長の部屋に行った。

ドアを開けるとそこにはヨンジュも座っていた。

「入れ」

会長が言った。

ヨンジュとはもうすでに終わっていたことだと思っていたジェミンにとって、何が起きたのか理解できなかった。

「ヨンジュがお詫びを・・」ジェミンの母に促されヨンジュがジェミンの父に

「申し訳ございませんでした」と頭を下げた。

「ジェミン・・ヨンジュが許してくれたわ。これからは仲良くするのよ。」

ジェミンは言葉をなくした。

「さぁ、家族の食事会はまた改めてやりましょう。今日はつもる話もあるでしょうから、

ヨンジュに何かおいしいものでもご馳走して、」と母がジェミンを促した。

ヨンジュが立ち上がって挨拶をしたが、ジェミンは事の成り行きをだんだん理解してきて

不機嫌になっていった。しかし、父の前では素直に従うしかなかった。

「それでは行って来ます」と。ジェミンも立ち上がって部屋を出ていった。

エレベーターに乗るやいなやジェミンが言った。

「どういう事だ・・」

「聞いた通りよ。あなたが言ったように結婚した後もお互いに好きなことをやればいいじゃない・・

私にとっても損じゃないと思ったから・・」

ジェミンの表情は悔しさに満ちていた。

「ちきしょう・・」思わず吐き捨てた。

知らん顔するヨンジュに言った。

「イヌクがおまえの愛人でも良いと言ったのか?」

チラッとジェミンに目をやってヨンジュが言った。

「関係ないでしょ・・」

そのとき、エレベーターのドアが開いた。

そこにはなんとエレベーターを待っていた、イヌクが立っていたのだった。

イヌクも中にいるジェミンとヨンジュの姿を見て、しまった・・と言うような表情を浮かべた。

ここで乗らないわけにもいかず、重い足をエレベータの中に踏み入れた。

ジェミンが我慢の限界とばかりに、声を絞り出した。

「おまえには・・・愛想が尽きた。」

言葉を詰まらせながら

「ほとほとなぁ!!」と叫んだ、と同時にエレベーターのドアが開いた。

そして、そこにはイヌクを待っているスジョンが立っていた。

ジェミンはスジョンと肩をぶつかりながら、出ていった。

残されたヨンジュはイヌクにすがりたかったが、イヌクは自分の目の前でスジョンに

「待った?」と言いながら肩に手をかけて歩き出した。

ヨンジュが見ていることに気付いて、スジョンは少し困惑していた。

外に出ると、イヌクはスジョンの肩から手をはずしたが、地下駐車場から出てきたジェミンの車を確認すると、

イヌクはこれみよがしにまた、スジョンの肩に手を回した。

ジェミンはバックミラーで、遠ざかる二人の姿をいつまでも見ていた。


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