バリでの出来事25昼前に突然ヨンジュがジェミンを訪ねて来た。秘書が部屋に案内すると、昨夜の寝不足でジェミンが机に顔を伏せて眠っていた。 「チーフ・・チーフ」 なかなか起きないジェミンの机を秘書がたたいた。 「うん?」 突然起こされたジェミンは、出ていたよだれで書類が顔にひっついたまま顔を上げた。 まだ半分眠ぼけ眼で子供のような無邪気さで、 「あっ・・・寝ちゃったな。朝が早かったから・・」と言いながら、ヨンジュを見た。 ヨンジュはその情けない姿を見て、うんざりという表情をした。 秘書が出ていくと、ジェミンも真顔になって言った。 「何をしに来た?」 ヨンジュが来客用の椅子に座って言った。 「バリで会った子を、就職させたんですってね。」 何故知っているのだろうと思いながら 「ああ」と答えた。 「私もギャラリーをやめてここに就職しようかしら・・。バリのメンバーが集まって楽しそうだから・・」 ジェミンはあきれ顔で答えなかった。 「お昼ごはんを食べましょうよ」 「まだ11時だ、そんな気はないな。」 「そうだ、私と二人きりだとジェミンさんも消化に悪いでしょ?後の二人も呼んで一緒に食べましょうよ」 とヨンジュが言い出した。 ジェミンはヨンジュが何を考えているのかわからなかった。 しかし、それを拒んだら何か自分が逃げているように思われるのも癪なので、秘書に電話で 「昼飯の店を予約しろ。それから、カン・イヌクとイ・スジョンも呼べ」と伝えた。 スジョンは研修中に、昼になったら指定の店に行くように連絡が入った。 会社からの呼び出しと思い、店に入るとすぐにトイレに駆け込み、身支度をきちんと整えて 案内された部屋に行き、靴を脱ごうとしたときに、すでに男と女の靴が一足ずつ並んでいた。 そのとき、スジョンは何となく嫌な予感がした。 案の定、部屋にはいるとジェミンとヨンジュが座っていた。 「どうぞ入って」 ヨンジュが声をかけた。スジョンは、仕方なく席に座ったが、ジェミンはスジョンを見ようともしなかった。 やがて、イヌクも同じように部屋に入ってきて、不機嫌そうに仕方なく座ったのだった。 「今日はバリでお世話になったお礼と思って、お食事に招待させていただいたの」 と、ヨンジュが言った。 食事が始まっても会話がないまま、ヨンジュがジェミンに言った。 「あっ、そう言えばこの間買った婚礼家具をお母様が気に入らないと言うの。買い直しましょうね。」 ジェミンは、ヨンジュが何を言っているのかわからなかったが 「ああそうか」と答えた。 「今度の日曜日はウエディングドレスを選ぶ日よ。忘れないでね」 ヨンジュはミヒからジェミンの事を聞いていたので、スジョンに当てつけていたのだった。 好きでもないジェミンであっても、自分よりスジョンを選ばせることが許せなかった。 「ああ・・」 ジェミンはスジョンをチラッと見て答えた。 「そう言えば・・スジョンさんの専攻は何だったの?」 「えっ?」 一瞬、冷たい空気が流れた。 「何でそんなことを聞くのですか?」と、スジョンが言うとヨンジュはしらじらしく 「あぁ・・・そう言えば大学出ていなかったわね」と冷たく言った。 するとジェミンがすぐさま言った。 「それが大事なことなのか?」 「誰も大事だなんて言ってないわ」 「何だって、スジョンさんの事を詮索するんだ?」 ジェミンはいらだっていた。 「だって、不思議な縁だからよ」 ヨンジュは平然と言って続けた 「二人はお隣同士なんですってね。」 と、イヌクとスジョンを見て言った。 するとジェミンが不思議そうに 「何故おまえが知っているんだ?」とヨンジュに聞いた。 「あら・・・・ジェミンさんは知らなかったの?」 わざと意地悪くヨンジュは言った。 「この間は一緒に帰ったようだけど、お二人はどんな関係?」 スジョンは口ごもりながら 「あ・・あの」 と、なんと答えて良いのかわからずにくちごもると、すかさずイヌクが言った。 「あなたには関係のないことです」 ヨンジュが悔しそうに二人を見つめ、そしてさりげないそぶりで 「そうね・・私には関係ないことだわ。お二人はお似合いよ」 と、言うとスジョンもその場を取り繕うつもりで何気なく言った。 「お二人もとってもお似合いですよ」 そのとき、下を向いて食事していたジェミンが顔を上げて、スジョンをじっと睨み付けた。 その様子を、ヨンジュもイヌクも見逃さなかった。 ジェミンがスジョンに特別な感情を持っていることが、二人にはわかった。 食事を終えてジェミンがヨンジュを、ギャラリーまで送った。 ヨンジュが勤めるギャラリーは、ジェミンの母親が経営していて、ジェミンと結婚した後は そのギャラリーをヨンジュが受け継ぐことになっていたのだった。 ジェミンは腹いせのように急ブレーキを踏んで、車を止めた。 「もう、突然会社に来るのはやめろ」と、ジェミンが言った。 「それは命令かしら?それともお願い?」ヨンジュが切り返すと 「何でも良いから・・俺は面倒なことは嫌いだ」 「それは私も同じだわ・・・あの子にお金を貸したり、就職させたり・・ずいぶんと親しくしているようね。」 「何を言ってるんだ」 「私はあの子から聞いて知っているのよ!」 ヨンジュは自分がイヌクを訪ねたことは棚に上げて、ミヒから聞いたことをスジョンが言ったと、ジェミンに伝えた。 「いつ会ったんだ」 「数日前よ」 「だからっていきなり女房きどりか」 「それはあなたも一緒だわ」 二人が言い争いをしていると、ジェミンの母が帰ってきた。 「まぁ、二人が仲良くしているとママも嬉しいわ」 お茶を飲んでいくように言う母親の声に、「忙しいから」とジェミンは断りさっさと帰っていった。 一方、食事を終えて会社に戻ったイヌクとスジョンは、会社の喫茶室でコーヒーを飲んでいた。 女性社員の人気の的であるイヌクと、スジョンが同席しているのを見て、ひそひそ話す社員もいた。 「階級制度は決して中世だけのものではない。今も、それは根強く残っているんだ。」 スジョンは何故急にイヌクが、こんな話を持ち出したのかわからなかった。 「もてるものは持たざるものの目と口をふさぐ・・・それは今も変わらない」 グラムシの思想を語ったが、スジョンにはあまり理解できなかった。 イヌクは、ジェミンの態度を見てスジョンに興味があることを感じた。 金持ちの気まぐれで、スジョンが傷ついてほしくないと言う気持ちになっていた。 「それじゃぁ、先に行くね」 イヌクが席を立ったそのとき、そこに専務が通りかかった。スジョンは慌てて席を外した。 「ジェミンと昼食をすませてきたのか?」 「はい」 「書類は受け取ったか?今日の役員会議で紹介するから、しっかり頼むぞ」 そして、イヌクのスーツ姿を見て 「おお、今日も決まっているな。いまや女性社員のあこがれの的だな」 と満足げに言った。 専務は機嫌良くエレベーターに乗り、イヌクはそれを見送った。 研修室では女性社員たちがはしゃいでいた。 「カン・イヌクさんて本当にかっこいいわよね」 「ほんと!あこがれるわ・・・今日のスーツも決まっていたわね。」 うっとりと話していた。 「人柄もよくて、優しいんですって。マーケティングのオさんも言ってたわ」 「あら、彼女はチーフねらいだったでしょ」 「チーフじゃ望みが高すぎるでしょ」 「本当に何でいい男はマーケティング室に集まるのかしら」 「そうそう、そう言えばさっき呼び出されたイ・スジョンって子、チーフの紹介らしいわ」 「ええ~うそぉ~」 「それに、本人はガイドをしていたと言っているけど、本当はホステスだったらしいのよ」 「ええ~っ」 そのとき、スジョンが研修室に戻ってきた。 気がつかずにまだしゃべっているのでスジョンの耳にも当然聞こえてきた。 長い間虐げられて強く生きてきたスジョンは、気丈に書類で机をたたくと、 女性社員達は気まずそうに話をやめた。 ジャンル別一覧
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