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チョ・インソン~ジェミンに恋して

チョ・インソン~ジェミンに恋して

バリでの出来事29

翌朝、スジョンが家を出ると丁度イヌクも出勤するところだった。

スジョンは夕べのことを思い出し、胸が熱くなった。

「おはよう」

イヌクも少しスジョンの様子を見ながら言った。

「お・おはようございます」

照れながら答えるスジョンに

「昨日はごめん。すこし飲み過ぎていたようだ・・」

と、イヌクが言いにくそうに言った。

イヌクはスジョンの気が軽くなるようにと思っていたのだったが、しかしスジョンは冷たい水を

浴びせられたように、立ちつくしていた。

(あれはお酒のせいだったって言うことなの・・・?)

「行こうか」

イヌクの声に促され、イヌクのずっと後ろをとぼとぼとついていった。

二人は会社の入り口の前でジェミンにバッタリ会った。ジェミンは覚悟したように、

いつもになく明るく二人に声をかけた。

「おはよう・・良い朝だね」穏やかな笑顔で言った。

同じエレベーターに乗り合わせると、ジェミンがわざと社員の前で言った。

「昨日の夜はどこに行っていた?」

「えっ?」周りの社員達がいっせいにスジョンを見た。

イヌクは黙っているしかなかった。

「俺が行ったことを知っているだろう?」

「ええ・・ルームメイトから聞きました・・。それで、何かご用だったんですか?」

と聞くと

「ああ・・チョ・サンベも一緒だった」と自慢げに答えて、エレベーターをさっさと降りていった。

スジョンは、どうしてもチョ・サンベを捕まえたかった。

受付にいてもそのことが頭から離れず、いても立ってもいられずついにジェミンに内線をかけた。

「あの・・イ・スジョンです。」

「ああ、おまえか・・」

そのとき、イヌクが書類を持ってジェミンの部屋に入ってきた。

手で書類を置くように指示しながら、電話口で言った。

「何のようだ?うん・・チョ・サンベ?」

ジェミンがわざとスジョンと話をしていることを知らせると、イヌクは眉を寄せた。

そしてジェミンはイヌクの顔をいちべつしてから

「知りたかったら、今夜俺の部屋に来い」と言った。

イヌクは黙って聞いていた。

「カン・イヌクさん・・君はやり手だね。女も仕事も抜け目がないな。専務の後ろ盾もある・・・

せいぜい頑張るがいい・・・成功を祈っているよ」

イヤミたっぷりに言うと、イヌクは一瞬表情を曇らせたがすぐさま作り笑顔で答えた。

「どうも」

ジェミンは苦々しくイヌクを見ていた。

イヌクは自分の前でわざと、スジョンを呼びつけたことが気がかりだった。


その日ヨンジュが、突然ジェミンの兄を訪ねてきた。

「どうかしたのかな?」

「お願いがあって来ました・・。」

「何だろう」

「マーケティング部のカン・イヌクさんをご存じですか」

突然ヨンジュからイヌクの名前がでたので兄は驚いた。

「うぅんと・・・ああ、彼のことか・・」

と、とぼけて聞いた。

「彼が何か?」

「実はイヌクさんとは大学時代のサークルの仲間でした。この間バリで偶然に会って、

それをジェミンさんが変に誤解をしてしまったのです。それで、もうこれ以上よけいな

気を使わせたくなくて・・・」

「ほう・・それで?」

「彼をどこか他の支店に行かせてください。」

イヌクに二度と会いたくないと言われたヨンジュは、いっそ二度と会わないですむように、

イヌクをどこかにとばしてもらおうと頼みに来たのだった。

兄は困ったように言った。

「本当に・・・何もないのかな?」

「ええ」

「それなら・・・別に良いじゃないか。」

という兄に、ヨンジュが重ねて言った。

「どうぞ、お願いします」

「せっかくのヨンジュの頼みを聞いてあげたいのは山々だけど、実は会長が特別に目をかけているんだ。

彼を動かすとなると会長に説明をしなければならないなぁ・・・これは困った」

もし会長の耳に入ればジェミンの母の耳にも入るだろう。また何かを疑われても返って

ややこしくなってしまう・・・ヨンジュはそう思った。

「それなら・・結構です」とヨンジュは、諦めるしかなかった。

一階のロビーまで降りていくと受付が目に入り、スジョンの事を思い出した。

スジョンの居場所を確かめると、食堂にいるとの事だった。

ヨンジュが食堂に行くと、スジョンは慌てて立ち上がって挨拶をした。

「どうぞ食べて・・」

「お食事は終わりましたか?」

「いいの、食欲がないから・・」

と言って、ヨンジュは食事をしているスジョンの前に座った。

「あの・・何かご用があおりですか?」

と、スジョンが聞いた。

「私のこと・・知ってる?」

「えっええ・・あまり良く知りませんけど」

「私とイヌクさんのことは知ってるわね」

「ええ・・・あまり良くは知りませんけど」

そして、ヨンジュが言った。

「じゃあジェミンさんのことは?」

スジョンはヨンジュが何をしに来たのかがわからなかったが、いつまでもつきあっていられないとばかりに

「ええ・・良く知っています」

と、はっきり答えた。

ヨンジュは怒りをあらわにして

「ふざけないで、私もイヌクさんもジェミンさんも、あなたとは住む世界が違うのよ。本当に身の程知らずだわ!」

と、怒鳴って帰って言った。

スジョンは一人、悔しさに耐えていた。


ジェミンは退社時間になると急いで帰った。スジョンが来る前に部屋を片づけなければ・・

と思い、急いで部屋に入るとそこにはなんと、ジェミンの母とヨンジュが来ていた。

ジェミンは驚いて聞いた。

「何をしているんだ?」

「明日急用が入ったので、今日ヨンジュと内装の打ち合わせをしに来たのよ。丁度良かった、

ここで一緒に食事をしましょうよ。ヨンジュも大丈夫よね?」

と母が言った。ヨンジュも「ええ」と答えたが、ジェミンは焦った。

「俺はすぐに出かけるからだめだ。ただ、着替えに寄っただけだから・・」

まもなく来てしまうかも知れないスジョンの事を思うと、ジェミンは焦らずにいられなかった。

「そんなことを言わないで・・・ママだってたまには、あなたの家でご飯を食べたいのよ。良いでしょ」と言う母に、

「だめだってば」と言って、平静を装い寝室に入った。

入るやいなや大急ぎで着替えをしながら秘書に電話をかけて、スジョンがもう会社を出たかどうか調べさせていた。

スジョンが、もうじきに着くかも知れないと思うと気が気ではなかった。

そのとき、チャイムが聞こえた。ベルトに上着が引っかかって思うようにならないときに、

秘書から折り返しの電話が入り、もう帰ったと報告をした。

慌ててリビングに出ていくと、つまずいて転びそうになり、やっと体制を整えたときに、

「あなたは、誰なの」と、ジェミンの母の声がした。

ジェミンが振り返ると、そこには呆然と立つスジョンとスジョンを見つめる母とヨンジュが立っていた。

「ジェミンさんの会社の社員です」

ヨンジュが答えた。

「あぁ・・・あの受付の?なんて図々しいの。ここに何をしに来たというのかしら」

母が言うと、ジェミンが

「俺が、呼んだんだ。仕事の話があって・・・スジョンさん、どうぞ中に入って。」

と、とりつくろうとした。

「でも・・私は・・・これで失礼します」

スジョンはいたたまれず、帰ろうとしたときにヨンジュが言った。

「せっかく来たのに?いいわ、今日は私が失礼します。」

そしてジェミンの母が引き留めるのも聞かず帰っていった。

ジェミンの母が憎々しげに、スジョンを見つめながら言った。

「噂は聞いているわ。まるで寄生虫のように、ジェミンにまとわりつくのはやめて頂戴。

おまえなんかが来るところじゃないのよ!」

そう言って、スジョンの頬を思いきりたいた。

驚いたジェミンが止めに入ったが、母親はまだスジョンに向かっていこうとしていた。

ジェミンが思わずスジョンから母親を引き離した拍子に、母が転んで倒れた。

「まぁ・・なんて事を・・ママを・・ママを・・」

と、情けなさそうに言う母親を残して、ジェミンはスジョンの手を握り部屋を出ていった。

エレベーターに乗り込み、スジョンが声を上げて泣き出すと、しっかりスジョンの手を握りしめながら、

ジェミンは「ごめん」と言った。

それでも泣きやまないスジョンを外に連れ出して、車の前に連れていった。

「乗れよ」

「いやだわ」

泣きながらスジョンは言った。

「このままじゃ俺の気がすまないだろ」

「あなたの気分を盛り上げろっていうの?」

「そんなことは言ってないだろう!家まで送るから、乗れ。」

「いやよ」

ジェミンがしっかりと握っている手を、ふりほどこうとしながら言った。

ジェミンは困って、何とか気を惹こうと

「チョ・サンベはどうするんだ」と言うと、

「あなたが好きにすれば」と、ジェミンの手を思い切りふりほどきながら言って、帰っていった。

歩き出したスジョンを追いかけようとして、ジェミンは足を止めた。

スジョンは情けない自分の姿に、たまらず走り出した。涙があとから溢れてくるのを抑えられなかった。

ジェミンは車の横に立って、悲しそうにいつまでもスジョンの後ろ姿を見つめていた。

そしてヨンジュもまた、そんな二人の様子を自分の車の中から見ていたのだった。


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