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チョ・インソン~ジェミンに恋して

チョ・インソン~ジェミンに恋して

バリでの出来事35

イヌクが帰宅すると、丁度ミヒが仕事に行くところだった。

「こんばんは」

ミヒが挨拶をすると、いつも一緒にいるスジョンの姿がないので

「スジョンさんは?」

と、イヌクは灯りが消えている部屋を見ながら聞いた。

「スジョンは就職が決まりまして・・・」

イヌクはほっと胸をなで下ろした。そして、嬉しそうに聞いた。

「そうですか・・それでどこに?」

「ギャラリーです」

(ギャラリー・・?)イヌクは少し心に引っかかるものがあった。

「それでは失礼します」

と、行きかけたミヒを呼び止め

「そのギャラリーの名前がわかりますか?」

と聞いた。

「名前はわからないのですが、ジェミンさんのお母様が経営されているそうです」

イヌクは、苦笑いをして(そう言うことか・・・)と思った。

「それじゃあ」

と帰りかけたイヌクにミヒが慌てていった。

「でもこれは、いつかイヌクさんを待っていた・・あのジェミンさんの婚約者が仕掛けたことなんです。

スジョンも気持ちを逆撫でされて、腹いせに出社したんです。」

イヌクは何故か気が重たくなっていた。スジョンの事が心配なのだが、あの晩以来素直になれずにいた。


翌朝、スジョンが出社しようと部屋を出るとイヌクとバッタリ出会った。

スジョンは少し気まずそうに挨拶をしてから

「今日は急ぎますので・・」

と、行き過ぎようとすると、イヌクが呼び止めた。

「就職が決まったそうだね」

「ええ・・」

「どんな仕事?」

「ええ・・色々です・・」

イヌクは自分が思った通りだと感じた。ヨンジュがスジョンを大切にするはずもない。

しかし、イヌクも素直になれずに

「願いが・・・叶うと良いな」

と精一杯のイヤミを言って、足早に出勤をしていった。

ヨンジュとジェミンの母に囲まれて仕事をする様が、とって見えるようであったが、

それでもそこに行くスジョンがじれったくてたまらなかったのだった。

スジョンの心が痛んだ。


ジェミンはヨンジュの家を訪ねていた。

「まぁ、まだあの子は寝ているわ。」

ヨンジュの母がとまどいながら応対していた。

「話をしたらすぐに失礼しますから」

と言って、ヨンジュの部屋に入っていきまだ寝ているヨンジュを起こした。

声をかけても、まだ起きないヨンジュを揺り起こした。

「おこして悪いが・・」

寝返りをうって振り返ったヨンジュに

「俺はおまえと結婚しないから・・じゃあな」

と一言言って帰っていった。

起き抜けのヨンジュは、あきれたようにまた目を閉じた。


ジェミンはその足で会社に行き、時間を見計らってスジョンの携帯に電話をかけた。

ギャラリーに出勤しているかどうかが気になっていた。しかし、スジョンの携帯は電源が切られていた。

ジェミンは仕方なく確かめるためにギャラリーに電話をかけると、スジョンが出た。

「おまえ、もう行くなと言っただろう・・何故言うことをきかないんだ」

とジェミンに言われても、近くにヨンジュやジェミンの母がいるのでスジョンは答えられず、困りはてて電話を切った。

「誰から?」

ヨンジュに聞かれ

「間違い電話です・・」

とスジョンは慌てて答えた。

するとすぐにまた電話が鳴った。

スジョンが慌ててとろうとすると、様子をうかがっていたヨンジュが

「良いわ、私がとるから」

と、電話をとった。

「もしもし」

ヨンジュが出るとその電話はすぐに切れてしまった。

「どうしたの?」

ジェミンの母が聞いた。

「ええ、間違い電話でした」

と、スジョンを睨みながら答えたのだった。ヨンジュはそれがジェミンだと気付いていた。


「全く・・何故俺の言うことを聞かないんだ」

ジェミンがスジョンを心配して苛立っていると、秘書が入ってきた。

「本日の会議の準備のために早く出勤されたのですか?」

「会議だって?」

と言いながら、今日はマーケティング部の会議に会長始め役員が出席することになっていたのを思い出した。

「大変だ・・」

焦るジェミンに秘書が答えた。

「資料はちゃんと整えてございます」

「そうか良かった・・・その資料は誰が?」

「カン・イヌクです」

「誰がカンに頼めと言った!それを決めるのはチーフの俺だろ」

と怒りだすジェミンに、秘書は意外そうな顔をして答えた。

「いつもの様に手配をしただけですが・・」

「報告は俺がやる。資料を持って会議室に来い」

と言って、ジェミンが会議室に向かうと秘書が慌ててイヌクの所に行き、資料を全部出させた。

二人は会議室に入り、イヌクの資料をもとに報告する手順を打ち合わせていた。

プロジェクターの使い方やタイミングなど、たっぷり打ち合わせをして準備を整えると、やがて次々に会議室に集まってきた。

「おや、今日はチーフ自らの報告か?」と会長も嬉しそうな表情でいった。

そして、ジェミンは報告を開始した。本来イヌクが報告すると思っていた兄は、少し不機嫌になっていた様子だった。

意気揚々と報告をしているジェミンを、イヌクは冷ややかに見ていた。

会議が終わりジェミンは会長始め役員からも「お疲れさま、良い内容だったな」と労をねぎらわれ

気分も高揚していたのだが、最後にイヌクが薄笑いを浮かべながら「お疲れさま」と言うと、眉をひそめて横を向いた。


自分の部屋に帰り、持っていた資料にすべてカン・イヌクの署名があるのを改めて見ると、

自分のふがいなさとイヌクへの憎しみが高まり、持っていた資料を思わずたたきつけたのだった。

そのときヨンジュから電話がかかってきた。

「何のようだ」

「下の喫茶室にいるわ」

「俺は忙しい・・」

とジェミンが言いかけると電話が切れた。ジェミンは仕方なく、喫茶室に行くとヨンジュが言った。

「勝手に会社に来るなよ」

「寝込み訪問よりましだわ。はい、これ」

と言って、テーブルに数枚のお金を置いた。

「何だこれは?」

「あの子からよ。あなたの落とものだと言っていたわ・・」

ジェミンは、そのお金を鷲掴みにして握りしめた。昨晩、スジョンに渡したお金だった。

「結婚しないって本当?」

「ああ」

「何故?」

「愛がないからさ」

ジェミンが言うと、ヨンジュが笑った。

「何が可笑しい?」

「だって、あなたが愛なんて言うからよ・・いつから愛が大切になったの」

「もともと大切なんだ」

「でも無理ね」

「どうして」

「私があなたを好きになったから」

ジェミンはいかにも不愉快そうに、ヨンジュをまじまじと見つめた。

「あなたが言うように、あなたがいい男かどうかは別だけど、確かに魅力があるわ。だから、私は結婚するわ」

そう言ってさっさと帰っていった。

好きでもないジェミンでも、スジョンに奪われそうなことが、ヨンジュにとっては耐え難い事であった。

なんとしても、ジェミンを自分のものにしなければ・・・ヨンジュのプライドが熱く燃え始めた。


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