163455 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

チョ・インソン~ジェミンに恋して

チョ・インソン~ジェミンに恋して

バリでの出来事50

「すまない・・遅くなった」

ジェミンが帰ると、ダイニングテーブルの上がきれいに片づいていた。

スジョンの手料理を楽しみにしていただけに、ジェミンも残念そうに聞いた。

「夕食は?」

「食べたわ・・」

「あぁ~~、あのジジイ、何でこんな日に限って・・」

ネクタイをいらだたしく取りながら、ジェミンが叫んだ。

何故か顔を会わさないように、横を向いて座っているスジョンに、ジェミンが聞いた。

「おまえ、ヨンジュにばらしたのか」

「何を」

「この部屋のことだ」

スジョンはフッと力無く笑った。

「何か言われたのね」

「ばらしたのか?」

「ばれても、何も変わらないって言ったでしょ」

「だからって、わざわざばらすことはないだろう」

ジェミンの声も荒くなってきた。

「ばれて困っているのね・・・邪魔なら出ていきましょうか」

「ふざけるな」

「いいわよ、困っているんだったら出て行くわ」

スジョンは立ち上がってクローゼットを開け、持ってきた衣類をバッグに詰め始めた。

「やい、スジョン。何をしている、ここに来て座れ・・・聞こえないのか。」

それでも荷造りをやめないスジョンに、ジェミンが怒鳴った。

「俺に恥をかかせる気か。ここに来て座れ」

スジョンはさっさと荷造りを終えると、ジェミンから預かっていたゴールドカードをテーブルに置いた。

「さようなら」

荷物を持って出ていこうとするスジョンの腕を、ジェミンが力一杯引っ張っると、

その拍子に持っていたバッグがその場に落ちた。

そして、ベッドの上にスジョンを押し倒した。それでも起きあがろうとするスジョンを、ジェミンは押さえつけた。

ジェミンに腕を押さえつけられたまま、スジョンが言った。

「貢いだお金が惜しくなったの?」

ジェミンは黙っていた。

「元が取れなくて悔しいの?・・・それなら好きにして」

スジョンは顔を背けた。

ジェミンは押さえつけていた腕を離して

「全く・・なんて言う女だ。ああ、好きにしろ。出て行くなら出て行け、止めないからな」

と言った。

すると、スジョンはすぐに起きあがり、すぐさま荷物を持って出ていこうとしていた。

ジェミンはその姿を見て、たまらずもう一度スジョンの腕をつかんだ。

その瞬間スジョンの顔を正面から見て、ジェミンは驚いた。頬が赤く腫れ、唇が切れて血がにじんだあとがある。

「おまえ・・その顔はどうした」

ジェミンの顔が驚きと不安でいっぱいになっている。

「あんたの婚約者に聞けば?」

そう言ってスジョンは、荷物を持って部屋を出た。

ジェミンは愕然として、スジョンを黙って見送ることしかできなかった。

スジョンは外に出て改めて豪華なマンションを見上げ、やっと見つけた幸せだと思ったが、

それは儚いつかの間の夢だった事を痛いほど感じていた。

(いつも幸せに手が届かない・・・)

スジョンはひとりマンションを後にした。


残されたジェミンは、何がスジョンの身に起きたのか、おおかたの察しがついていた。

ひどいめに遭って、俺を待っていたにもかかわらず、問いつめてしまった・・・

ジェミンはスジョンを呼び戻そうと慌てて携帯に電話をしたが、スジョンの携帯は部屋の中で鳴った。

スジョンは携帯も持たずに出ていってしまったのだった。

ジェミンは思わずスジョンの携帯を見た。1番の短縮には一番大切な人の電話番号が入っているはずだった。

ジェミンがおそるおそる1番を押してみると、カン・イヌク・・・携帯にその名が現れた。

ジェミンは胸が張り裂けそうだった。

やっぱりあいつの事が好きだったんだ・・・(俺の想いが届かない・・)ジェミンはスジョンの

携帯を唇に押しつけて、泣いた。そして、思わずスジョンの携帯を投げつけた。


スジョンはマンションを出てきたものの、今更イヌクが隣に住むミヒの家には帰れないと思い、

場末のビリヤード場でアルバイトをしている兄を訪ねた。

しかし、兄は借金の取り立てにあったときに敷金まで持って行かれ、今ではビルヤード場で

寝泊まりをしている有様だった。

他に行く当てのないスジョンは仕方なく、ミヒの家に向かった。

足音をたてないようにそっとイヌクの部屋の前を通り、鍵を開けようとして鍵を忘れてきた事に気がついた。

スジョンは、イヌクに気付かれないように、小さな声でミヒの名を呼んだ。

「ミヒ・・ミヒ」

イヌクは眠れずにベッドに横になっていたが、スジョンの声が聞こえたような気がした。

「ミヒ・・・ミヒ」

イヌクは空耳だと思い固く目を閉じたが、今度はドアを開けようとする物音が聞こえたので、飛び起きて外に出た。

するとそこにはスジョンが立っていた。

「何をしているんだ」

スジョンはバツが悪そうに聞いた。

「もしかして、ミヒの部屋の鍵を持っていませんか」


イヌクがスジョンの足下を見ると、出ていくときに持っていたバッグが置いてあった。

ミヒが留守で部屋に入れないスジョンを、イヌクは自分の部屋に入れた。

温かなコーヒーをつくり、スジョンにわたした。

「もう帰ってきたのか・・・いくらも経たないのに。その顔はどうした?」

スジョンは黙ってうつむいた。

「人生やってみないとわからないというが、こうなることは最初からわかっていた」

それでもスジョンはだまったまま、何も答えられずにいた。

「今日はもう遅い。今夜はここで寝ろ」

そう言って、イヌクは立ち上がり上着を手にした。

「散歩してくる」

ドアノブに手をかけながら、イヌクがつぶやいた。

「俺もおまえに・・・会いたかった」

そして、ドアを開けて外に出た。

スジョンはこらえていた涙が、とめどもなく溢れ一人泣いた。


© Rakuten Group, Inc.