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チョ・インソン~ジェミンに恋して

チョ・インソン~ジェミンに恋して

バリでの出来事51

散歩だと言って外に出たイヌクは、自分の心を鎮めていた。

傷ついたスジョンを思えば、ジェミンに対していっそうの憎悪がわき上がってくるのだった。

スジョンのそばにいながら、つまらないプライドでスジョンを守れなかったことが悔やまれた。

暫くして部屋に戻ると、疲れ切ったスジョンは泣き疲れ、畳の上でそのまま横になって眠っている。

イヌクは抱き上げてスジョンをベッドに寝かせ、スジョンの顔の傷をそっと指でなぞった。

スジョンの心の傷を、イヌクは拭ってあげたかった。


翌日、ジェミンが会社に着くと、丁度イヌクが来客を迎えていた。

同じエレベーターに乗り合わせたが、流暢な英語で話すイヌクはジェミンを無視し、来客を案内して降りていった。

ジェミンは部屋に入るとすぐに秘書を呼び、イヌクが何をしているのか調べさせた。

やがてイヌクが来客を送り出し、廊下を歩いているとジェミンとすれ違った。

すると、ジェミンが先に声をかけた

「カンさん」

スジョンが帰ったのかどうか・・確かめたい衝動に駆られたが、何と切り出せばいいのか決心がつかず、

「いや・・何でもない」

立ち止まったイヌクにそう言って行きかけると、今度はイヌクが声をかけた。

「チョンチーフ、今少し話せますか?」

ジェミンは怪訝な顔をしたが、イヌクが空いている会議室に先に入っていったので、後からついていった。

すると部屋に入るなり、イヌクがジェミンを殴り倒した。

「言ったはずだ・・責任を持てない同情でスジョンをもて遊ぶなと。今度こんな事があったら、俺がこの手でおまえを殺す」

そう言って、イヌクは会議室を出ていった。

ジェミンは切れた唇から血を拭いながら、(もて遊ぶだと・・?おまえに何がわかる)と思ったが、

それでもスジョンがミヒの所に戻ったことを知って、少しほっとしたのだった。


ジェミンが部屋に帰ると秘書が、イヌクが関わっている専務のプロジェクトは極秘なので

内容がわからないと報告してきた。

「そうか・・」

「それから、お母様が探しておいででしたが・・」

そのとき、ヨンジュの母が突然現れた。

「こんにちは」

ジェミンが驚いて

「何故ここに・・?」

と聞くと

「私が来てはいけませんの?」

と答えた。そして、二人きりになるとヨンジュの母が切り出した。

「こんな事に私が口を出すのは世間体も悪いと思いましたが、こういうことはタイミングが大事なの」

ジェミンは唖然とした。

「何を言っているかわかるわね・・・それで、どうするつもりかしら」

「えっ?」

「ヨンジュとの結婚ですよ。するの?しないの?」

ジェミンが勝手に断れるわけもなく

「進行中だと認識していますが・・」

と答えた。

「それなら、あの女とは二度と会わないで頂戴。あの子には私から、わかりやすく諭しておいたわ。」

ジェミンはそのとき初めて、あのスジョンの傷はヨンジュの母のせいだと知り、なおさら胸が痛んだ。

「このことに関しては、私とジェミンさんのお母様と手を下します。いいわね」

ジェミンは到底、逆らうことができなかった。

そして、ヨンジュの母がヨンジュを呼んで3人で食事をし、その後ヨンジュとジェミンで話をするよう言われた。

「うちのママが、こんな事はもう二度としないでって言っていたわ。」

ジェミンはヨンジュと顔を合わせず、外を見ていた。

「あの子は今日ギャラリーに来なかったわ。電話にも出ないし・・・まだあの部屋にいるんじゃないでしょうね・・・

今回のあなたの我が儘で、どれだけ多くの人が傷ついたかわかる?・・・あの子だってそうだわ、

一生懸命生きているのにおかしな夢を見させて、きっと混乱したはずよ。囲っておけば誰にもわからないと

思っていたの?それじゃあ、あの子の人生はどうなるの?」

それでも何も答えず遠くを見ているジェミンに言った。

「それとも・・あの子を好きなの?」

ジェミンはヨンジュを見て、少し寂しそうに笑った。

ヨンジュはそれを無視して

「遊んでもいいけど一線をわきまえて頂戴。それから、遊ぶ相手ももう少し選んだら?私が恥ずかしいわ」

と続けた。ジェミンは冷たくヨンジュを見つめ

「忠告ありがとう・・肝に銘ずる」

と言って、立ち上がった。


その足でジェミンは、スジョンがいたマンションに行くと、数日間の幸せが嘘だったかのように、静まり返っていた。

ドレッサーの椅子に腰掛け、二人で食事をしたテーブルをぼんやり見つめた。今までの人生で、

あれほど幸せだったことはなかった。自分が作ったおいしくもない手料理を、必死で食べていた

スジョンの優しさが胸を突いて思い出された。あの幸せにはもう手が届かないのか・・・

リビングに目をやると、ジェミンが投げたスジョンの携帯が目に入った。

そっと手にとって、はずれたバッテリーを元に戻し、上着のポケットにしまった。

そして立ち上がると、クローゼットを開けスジョンのために買った洋服を処分しようかとまとめかけたが、

思いとどまり元に戻した。

(出ていきたければ出て行け・・止めないからな)

あのときスジョンに言った言葉が悔やまれた。

(スジョンも苦しかったに違いない・・・)


そのころイヌクは帰ると、スジョンのことが気になってまっすぐスジョンを訪ねた。

「スジョン」

灯りがついているにもかかわらず、スジョンは出てこなかった。イヌクは気になってドアを開けると、

鍵もかかっていなかったので、中に入った。

するとスジョンが寝ているのが見えた。いつもと違う様子に、イヌクはすぐに上がり込んでスジョンの額に手を当てた。

「すごい熱だ」

気がついて起きようとするスジョンに

「このまま横になっていろ」

といって、上着を脱ぎ捨てて台所に行った。

そして、スジョンの服を脱がし始め下着一枚にした。

「やめて・・寒いわ。何をするの・・?」

震えるスジョンにイヌクが言った。

「学校で習っただろう。熱を下げるのはこれが一番だ」

そして、冷たく絞ったタオルでスジョンの体を拭き始めた。

寒くていやがるスジョンの腕を押さえつけながら、一生懸命拭いたのだった。

やがてスジョンの様子も落ち着き始め、布団を掛け額に手を当てると、熱も下がった様子でイヌクはほっとした。

するとそのとき、ドアをたたく音がして

「スジョン・・」

と呼ぶ声がした・・・・それは紛れもなくジェミンの声だった。

イヌクの顔色が変わった。


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