影男の屋根裏部屋

現在妊娠中の嫁が９ヶ月目に突入し、いよいよ出産まで
秒読み段階となった。

ここしばらくは休日毎に買出しに出かけ、我が家にはまだ見ぬ子供の
関連グッズが山盛りとなっている。

受け入れ態勢の最終段階として、嫁的に是が非でも成し遂げて
おきたい事があった。

それは「私の部屋の引越し」である。

半ば病的な収集癖の所以で、私の部屋のみならず、収納可能な
ありとあらゆる場所に私の私物が溢れ返っているのが現状である。

私にとっていわば聖域といえる場所にメスを入れる事は、
別に出産どうこう以前に何とかしたいというのが嫁の本音であろう。

ここで趣味を共用しているのであれば多少なりとも理解もあろうかと
思うのだが、如何せん私にとっての宝の山は、嫁にとっては単なる
ガラクタ以下の異物に過ぎない。

「子供のものを入れるのに場所が必要」

真っ当すぎる理由に反論なぞできよう筈もなく、憐れ今の部屋より
一回り狭い部屋に移動することとなった。

とはいえ、嫁は身重の体であり、こと力仕事に関しては
ものの役に立たない。
私も承知したとはいえ、積極的に働く筈も無い。

そこで嫁は強行手段に訴えた。

それは「引越し業者に依頼する」ことである。

３万円という代金が高いのか安いのかよくわからないが、
嫁の周到さと本気度は容易に理解できる。
私がそんなことも忘れて何となく日々を暮らしている間にも、
大まかな整理をしたりと、準備は怠りなく進めていたらしい。

そしていよいよ引越しの当日。

早朝８時半に現れた２名の作業員。
先に見積もりに来たのは営業らしく、実際の作業をする人間は当日
初めて現場を見ることになる。

「・・・。」

呆れているのかビビッているのかは判別できないが、相当衝撃を
受けているらしいことはこの微妙な”間”で理解できる。

タイムリミットは午前中。
気を取り直した彼らは早速作業に取り掛かる。
私はといえば大事な私のコレクションがぞんざいに扱われないか
どうかそればかりが気になっている。

無論この引越しに関して非協力的な態度を変えていない私は、
前日まで一切の整理をしていない。
彼らには気の毒だが、頭で割り切っていても心では
納得していないからだ。

それでも手際よく作業は淡々と進んでいく。
最初は軽口など交わしていた彼らも、その尽きぬ荷物の量に、
次第に口数も減ってくる。

どうにかこうにか作業は終了したものの、細かい整理はやはり自分で
しなければならない。まぁ当然のことなのだが。

あらためて私の全ての所有物を一同に見て、他ならぬ私自身の
物であるにもかかわらずその圧倒的な物量に、さすがに辟易した。
これでは嫁ならずとも文句の一つでも言いたくなるのは
やむをえない。

で、入りきらなかった物は明日我が実家の元私の部屋に運ばれる
手筈になっている。

何のことはない。結局根本的な解決にはなっていないのである。
お見せできないのでピンとこないとは思うが、これだけの物量を
移動した割にゴミの量が異様に少なかったということも
付け加えておく。