はっぴーふぇいす

　アパートの真下の部屋のご夫婦に赤ちゃんが誕生しました。
このご夫婦には２歳半になる女の子がいます。２人目の赤ちゃんは男の子でした。
真下のお部屋の人ではあるけれど、奥さんとは出会えば軽く挨拶を交わす程度の
お付き合いしかしていません。私もそうなのですが、この奥さんもあまりご近所の
付き合いをしている人ではないのです。

　今日、町の広報誌が配布されてきていて何気なく見ました。
わが町の広報誌にはわが町で生まれた赤ちゃんが「おめでた」という欄に誕生日と
名前と親の名前が載ることになっています。
見てみると真下のお部屋の赤ちゃんの名前が載っていました。

　かなくんと同じ名前でした。

　厳密にいえば漢字が一字違います。
だから全く同じ名前ではないんだけれど、その一字違う感じも微妙に違っているだけで
ほぼ同じ名前でした。
　かなくんの名前は凝ってつけたわけではないけれど、ざらにある名前ではありません。
おかしな話だけど、なんとなく私の中でかなくんの名前はかなくんだけのもの、みたいな
ヘンな感覚がありました。
だけど名前なんだもの、どこかで誰かが同じ名前を持っていても不思議ではないのです。

　そんな当たり前の話なのに、その広報誌の赤ちゃんの名前を確認した途端になんだか
不思議な違和感を覚えました。
それは、なんていうんだろう？
強いて言えば、「もうひとりのかなくん」が誕生したようなそんなヘンな感じ・・。
かなくんはかなくんだけだと思っていたのに、不意にもう一人かなくんが誕生してしまった
とでもいうような、全くもって普通の感覚では理解しがたいおかしな感情です。

　こんなに身近にもうひとりかなくんが誕生して。
でも、それは、多分。あくまでも、どこまでも健常な普通の子供のかなくんなんだろう。
同じ名前なのに。
同じ名前なのに。
　うちのかなくんとは違うんだ。うちのかなくんが欲しいものを全部持って産まれてきた
かなくんなんだ。

　

　自分でもオカしいとは思います。
なんでこんな感情を抱くのかが不思議です。あり得ないです。
でも、ほんの少し前に生まれたばかりの赤ちゃんに嫉妬してしまうのです。
息苦しいような生々しい負の感情をまっさらな何の罪もないよその赤ちゃんに感じてしまう。

　なんでだろう？

　かなくんが可哀想なわけでも、その子が輝かしいわけでもないだろうに。
同じ名前の子供、というだけでものすごく反応してしまう私がいます。

　いつだったか、ネットサーフィンしていてかなくんと同じ名前の子供の育児日記に出会いました。
最初は「わ～、同じ名前だよ～！」と興味を持って見させてもらっていたのに、だんだんと
キラキラしたその同じ名前のかなくんの成長振りを綴った日記を読むのが息苦しくなりました。

　なんで、同じ名前なのにこんなに状況が違ってしまってるんだろう？？

　全くバカバカしい感情であることは承知しているのです。
が、羨ましくて妬ましくてＰＣを閉じました。
キラキラしたもう一人のかなくんを見るのが辛かったんだろうな。
でもネット上のことだもの、見なきゃすむ話なのです。
もう見ないようにすることでその感情はそれで終わったんだけれど。

　実生活において、もう一人のかなくんと対峙するということは恐怖です。
見ないようにしようとしても、目に入ってくることはあるのです。
今は新生児だけど、そのうち時間とともにどんどんと成長していって、歩くようになって
話すようになって、普通に眩しい成長を遂げていって・・・。
　間近でもう一人のかなくんの眩しい成長を見ることが怖いのです。

　可笑しいですね、この気持ち？
　　私、すごくヘンですよね・・・。

　自分でも何でこんなにかなくんと同じ名前の子にこだわるのかわかりません。
だけど同じ名前の子を見るのが怖いのです。辛いのです。
なぜ？って思ってしまうから。
　なんで、うちのかなくんなの？って思ってしまうから。


　夫にこの気持ちを話してみようか、と思ったけれどやめました。
多分笑われるか呆れられるか、もしかしたら病んでるのか？と思われそうだからです。
きっと気持ちの共有はできないでしょう。
だって、自分でも呆れそうなほど理不尽な感情なのだから。

　なんで名前１つでここまでおかしなことを考えてしまうのかな？
やっぱり病んでるのかな～なんて、苦笑いしか出てこないです。