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カテゴリ:銀英伝二次創作
「素晴らしいバラの花束、ありがとうございます」 上級大将以上が集まる会議を終えラインハルトが廊下を歩いていると、一歩後ろをついて来たヒルダに礼を言われた。 振り返りヒルダを見ると、彼女は俯いている。 「フロイライン・マリーンドルフ?」 ラインハルトが優雅に小首を傾げ、ヒルダの顔を上げさせると、ヒルダの顔が少し赤らんでいた。そんな常にないヒルダを目の当たりにして皇帝は嬉しくなった。 「フロイラインがバラを好きになったと言ってくれたので・・・・。喜んでもらえてよかった」 言い慣れないいささか気障な台詞に、言った本人であるラインハルトも照れ臭そうな表情をした。 後ろにいたキスリングがそれを見て『やれやれ』と思ったかもしれないが、ラインハルトとヒルダには親衛隊長の気持ちまで忖度する余裕はなかった。 皇帝陛下がフロイライン・マリーンドルフに花束を贈った 何日か経って、そんな噂が流れた。 勿論キスリングが漏らしたわけではない。エミールが花束を持って帝国軍幕僚総監の執務室に向かう姿が数人に目撃されていたのである。 エミールがフロイライン・マリーンドルフに花束を持っていく・・・・。その花束の主は皇帝ラインハルトではないのか。そのように噂は流れ出した。 偶然目撃した数人の内の一人であるナイトハルト・ミュラーは賢明にもその事実を自分から流布しなかったが、高級士官用クラブでもその噂が話題になった。 「よい事ではないか。皇帝がフロイライン・マリーンドルフに」 コルネリアス・ルッツはそう言ってブランデーを一口含む。 「カイザーもフロイライン・マリーンドルフも今まで私人として馴れ合う風ではなかったではないか。何故フロイラインを登用して3年も経ってから・・・」 「俺は聡明なフロイライン・マリーンドルフはカイザーに相応しいと以前から思っている。是非ともお二人にはうまくいってほしいがな」 ビッテンフェルトの疑問にミッターマイヤーはそう応じた。ミュラーも頷く。 「しかし軍務尚書殿の思惑とは違ったようですよ」 「どうせナンバー2不用論の類似品だろう。あいつがなんか言って良く行った試しがない」 ビッテンフェルトは若干私情を交えて言い捨てる。 彼は当然ながら軍務尚書に良い印象はない。 ミッターマイヤーは苦笑で応えた。 「オーベルシュタインはともかく、カイザーとフロイライン・マリーンドルフのお気持ち通りの結果になるといいがな」 バラの芳香の中で今日もヒルダは仕事をしていた。 コンソールデスクに置いたバラの花を活けた花瓶。 仕事合間にふとそのバラの見ると皇帝を思い出して微笑み寸前の表情を浮かべた。 皇帝はバラの花に似ている。 危険な美しさ、みずみずしさ、そのトゲにに刺される痛みすら甘美に感じるかもしれない。 ヒルダは苦笑して仕事に戻った。詩はメックリンガー提督に任せておこう。 このバラの香りがいけないのだ。いつも皇帝の事を考えてしまう。 ヒルダは深いため息をつき、それからハッとして仕事を始めた。 ラインハルトは見事にヒルダを翻弄している。しかし残念ながら、ラインハルトには全くその意図がなかった。 ラインハルトもヒルダに翻弄されていたからである。 ヒルダが特に何かするわけではない。たまに見せる表情ひとつひとつに何故だか引き付けられるのだ。この間、バラの花束のお礼を言われた時など思わずその場で抱きしめてしまおうかと思った。 ・・・・・・キスリングがいたのでやめたが。 「そろそろ限界のようだ・・・・・」 他人事のように一人呟くラインハルトだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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ラインハルトは見事にヒルダを翻弄している。しかし残念ながら、ラインハルトには全くその意図がなかった。
ラインハルトもヒルダに翻弄されていたからである。 あはは。すごく、リアルに絵が浮かぶ! いい感じです! (2013年09月06日 22時46分10秒) |