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※ この記事は『新宿会計士の政治経済評論』への転載を依頼しました。
転載された記事はこちらです。 ブルームバーグが、ウクライナ侵攻後に中国から前例のない資本流出が発生したと報じています。 これについて、引っ掛かることがあったので、時系列を振り返って確認してみたところ、興味深いことがわかりました。 1. ブルームバーグが報じたウクライナ侵攻後の中国国債売り 読み流してしまいそうな記事ですが、ブルームバーグが以下のような報道をしていました。 "中国から「前例のない」資本流出、ウクライナ侵攻後-IIF" (Bloomberg 2022年3月25日 9:15 JST) より。 公式データによると、2月は外国人投資家の中国国債保有が過去最大の減少を記録。ロシアによるウクライナ侵攻が世界の債券投資家の償還に拍車を掛けたことが一因だ。制裁措置により、ロシア中央銀行がユーロとドルで保有する外貨準備が凍結され、同国政府が保有する中国資産を売却して資金を調達するとの臆測につながっている。 順序は前後しますが、同記事は 外国人投資家が新たな観点で中国を見ている可能性があるが、この点に関して明確な結論を出すのは時期尚早だとも記しています。 確かに、「明確な」結論を出すのは時期尚早でしょう。 しかしながら、時系列をたどって事実関係を確認すると、その可能性が高いように考えられるのです。 2. 対ロシア制裁発表後、市場が開いていたのは 2月は 2/28 だけ プーチンがウクライナ東部で「軍事作戦」を開始すると発表したのは、2/24午前5時頃(ウクライナ時間)でした。日本時間では正午頃に当たります。この日、中国市場で売買するには十分な時間がありました。 しかし、欧州委員会がロシア主要銀行の SWIFT からの排除と、中央銀行の外貨準備使用の制限を含む、対ロシア制裁を発表したのは、2/26 のことでした。 "Joint Statement on further restrictive economic measures" (European Commission 26 February 2022) を参照。 これが市場に反映され得たのは、2月では、週明けの2/28だけです。 この 1 日だけで、外国人投資家の中国国債保有の月額が過去最大の減少を記録したとするなら、極めて異例です。 異例ではあるものの、ウクライナ侵攻と対ロシア制裁の内容の重大さを考えれば、あり得ないことではありません。 ただ、そうだとすると、ブルームバーグの報道が、「対ロシア制裁発表後」ではなく「ウクライナ侵攻後」としているのは、不自然なのです。 対ロシア制裁が発表される前から、中国国債売りが急増していたと見るべきでしょう。 これを、どう解釈すべきでしょうか。 3. 中国国債売りの原因として考えられるのは 中国国債が売られた原因を考える際、そのタイミングがウクライナ侵攻後であることについて、 (1) 原因は他にあるが、たまたまタイミングが重なっただけ (2) ウクライナ侵攻が原因である の2つの場合に分けて考えるのが、わかり易いでしょう。 順に追ってゆきましょう。 3.1 原因が他にある可能性 タイミングが重なっただけの原因として考え得るのは、米国の利上げでしょう。 0.25% に留まらず 0.5% の利上げもあり得るという話は 1 月にも出ていましたが、2 月後半にその話が改めて報道された最初のものの一つは、以下のロイターの報道のようです。 "米0.5%利上げ、物価高進継続なら3月検討=アトランタ連銀総裁" (ロイター 2022/2/28) 日付を御覧下さい。 2/28 です。しかも、米国時間でです。 この大幅利上げが原因である可能性は消えました。 他にも、タイミングが重なっただけの可能性があるのかもしれませんが、残念ながら、私には確認できませんでした。 3.2 ウクライナ侵攻が原因である可能性 次に、ウクライナ侵攻が原因である可能性について考えてみましょう。 3.2.1 ロシアが大量の中国国債を売った 世界の投資家ではなく、ロシアが大量の中国国債を売った可能性はどうでしょうか。 ロシアは、SWIFT からの排除までは予想していたでしょう。 それに備えて、外貨準備を積み上げ、米ドルとユーロの保有割合を下げ、ゴールドの保有割合も高めていました。 しかしながら、外貨準備の凍結までは予想していなかったという見方が、世界の大勢のようです。 この見方に従えば、ロシアが慌てて外貨の獲得のため中国国債を売ったとしても、制裁発表後の 2/28 以後だったはずです。 やはり、ブルームバーグの報道が、「対ロシア制裁発表後」ではなく「ウクライナ侵攻後」としていることと、整合が取れないようです。 3.2.2 世界がロシアだけでなく独裁国リスクを認識した 最後に考えられるのは、世界の投資家が、ウクライナ侵攻を見て、対ロシア制裁発表までに、すでに中国国債売りに動いた可能性です。 恒大集団の破綻など、中国から資本が逃避する理由は以前から積み上がっていました。 しかし、ウクライナ侵攻後に、中国単独のバブル崩壊リスクが急激に高まったという報道は見つけられませんでした。 ならば、ロシアのウクライナ侵攻そのものが、世界の投資家に中国リスクを強く認識させたと考えるのが妥当ではないでしょうか。 すなわち、ロシアや中国のような、領土拡張主義の独裁国家に投資することは、他国へ侵攻するための軍備拡大に組することに他ならないと。 4. 脱中国を加速せよ 武漢肺炎後、企業や投資家の脱中国の動きが続いています。 しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、独裁国家に投資することは、その国に軍事侵攻のための資金を提供してしまう可能性があると、世界に再認識させるきっかけになったと思います。 対ロシア制裁で当初異論が強かったドイツも、ある程度まで利害関係よりも共通の価値観を重視する姿勢に転じました。 対中国でも、そうした動きは強まるでしょう。 地理的にも近く、経済的結び付きが強い日本は、これまで以上に脱中国を加速すべきです。 ウクライナ事態がロシアの明白な敗北で終わると同時に、中国からの資金流出を加速させ、台湾や尖閣諸島・南シナ海への中国の領土的野望を未然くじくことを願ってやみません。 以下、3/28 追記 対ロシア制裁発表までに中国国債が売らたれ背景としては、 「パラリンピック終了と同時に中国も台湾へ侵攻する可能性があり、その結果として、対イラン制裁などから予め想定できる SWIFT 排除などで資産が毀損することを恐れた投資家が売り急いだ」 という可能性もありますね。 そういう理由であったとしても、独裁国家への投資が抑制され、資金流出するならば、独裁国家による侵略リスクを軽減する方向に働くので、望ましいことだと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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