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怪人Yの館

怪人Yの館

●プロローグ 「開幕」


 いつから、袂を別れたのだろう。

     ―――恐らく12年前のあの日、いや、ひょっとしたら14年前のあの日なのかもしれない。




 いつから、死が身近に感じられたのだろう。

     ―――それは・・・それは生まれてから。決定的だったのはあの日から。




 いつから、君の事を忘れてしまったのだろう。

     ―――心の奥底で、片時も覚えていた。




 いつから、俺は君を探し続けたのだろう。

     ―――君と別れた日から、ずっと。



 俺の身体はもう動かない。俺の瞳はもう君を見れない。俺の手はもう君を感じられない。俺の脳はもう機能しない。









 ――――――――――ならば、俺はその事に後悔があるというのか?







 「いや」






 後悔なんてある訳ない。

 あの時失った君を、あの時なくしてしまった君を。俺は、守ることが出来たのだから。



 「・・・・・」


 機能が失われたはずの唇がたわむ。


 もう一度、もう一度。俺は君に言わなければならない台詞がある。


 あの日、あの時からずっと決めていた言葉。約束した言葉。すぐ言えるはずだった言葉。






 「・・・・・・た・・・・ただいま。・・・・・式」





 もう一度、君に出会えてよかった。













 ―――。



 ―――これより先は・・・これより先は、失われたはずの物語。

 時間に埋没し、記憶は薄れ、ただ二人しか知ることが出来ない、通り過ぎた物語。

 見れば必ず後悔するだろう。見れば必ず驚愕するだろう。



 これより先はある二人の話。

 暗殺を極めたものと、武道を極めたものの物語。






 さぁ、始めよう。この、暗い暗い静寂のような舞台へようこそ。





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