●プロローグ 「赤」―――人を助け続けることが可能だとしたら、それはどんなに素晴らしいことだろう。 そう、夢想していた日々がかつての自分にはあった。 あの時、自分の名前以外の全てを失って、空っぽになったエミヤシロウという名の杯にエミヤと正義の味方を満たす。 そうして手に入れた仮初の原動力を使い、いつかそれが本当の自分になるようにと願い続けた。 自分には何も無かったから、綺麗な望みを抱き続けることで存在することが許されているような気がした。 人を救うことで存在意義を見出した。 幸せを望まない事で罪を贖った。 生きている間は一番大切な人すらも守れなかったから、死んだ後はもっと沢山の人を救おうと誓った。 守護者になってからは人類全ての為に沢山の人を殺した。 一度目は人類が幸せになると喜んで。 百度目は幸せになっていると信じて。 千度目は幸せになっている筈だと願って。 五千度目はこれが正しい事なんだと言い聞かせて。 万を越えた辺りから疑問を持ち。 十万に達した時には殺した人の声が絶えず聞こえるくらい殺し尽くした。 億を超えると・・・、さて、自分は一体何の為に誰の為に殺し続けていたのだろうか? 後ろを振り返れば屍の山、山、山、山。 人を救う筈の手は血に濡れて、笑い顔を見る筈の目は苦悶しか刻めない。 謳ってきた理想は磨耗して、それでも無限輪廻から逃れられない。 やめさせてくれ。と叫ぶ機能すら存在せず、代わりに軋み上げる歯車が無限の中で廻り続ける。 ガラゴロガラゴロ 心の空は煙にまみれ、荒廃した丘は無数の剣と共に炎を以て私を焦がす。 如何にすれば逃れられるのだろう? 兆にも届く命を罰し、兆をも超える懺悔から逃れる感涙の法。 思考する。思考する。思考する。 無量大数をも凌駕するメビウスから思考する。 この身は既に人に非ず。ならば、『世界』を以て滅ぶべし。 ―――得たり。 万有の理を後ろ盾にして、衛宮士郎の殺害を全エミヤシロウが肯定。 時間は無限にある。 機会も確立してある。 ならば、後は只待つのみ。 かつての礎を目指して私は夢想する。 聖杯戦争を、いつか自身が召喚されるその時を願って埋没する。 記憶には色を持つものが存在せず、手を赤く染める手段のみが鮮明に残る自身が消滅する刻を切に願う。 唯一の心残りは、金と青が混在した誰かが未だに消えていないという未練のみ。 私、『エミヤシロウ』は座にてその機会を切望する。 BACK MENU NEXT ジャンル別一覧
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