なにはともあれ

2010/08/08(日)16:38

クォ・ヴァディス41-4

小説「クォ・ヴァディス」改定&仮公開用(40)

註※このページは、本来「覚醒都市DiX」で公開する予定の「幻想水滸伝4」二次創作小説「クォ・ヴァディス」の改定ページ、新規ページを、サイトに先駆けて公開しています。  そのため、後に「覚醒都市DiX」で公開されるものとは内容が変更される可能性があることをご理解ください。 クォ・ヴァディス41-4 二十分後、二人の戦いの現場に、一人の女性が足を踏み入れた。  銀色の長い髪を背中まで伸ばし、裸に近い服装で周囲を見渡している。  ジーンであった。  彼女の足元には、精も根も使い果たしたマクスウェルとミツバが、倒れこんで眠っている。  だがその表情は、二人とも満ち足りたものだった。  ジーンは呆れたように首を振ると、二人の剣客に毛布をかけてやる。  そして、声をかけた。 「これは、あなたの望んだ結果なのかしら? 夜よ」  ミツバの側に乱暴に転がされていた剣の柄が、黄金の光をわずかに発した。 「馬鹿者が。私が意図したなら、このような無様な姿をさらすものか」  ジーンはその剣の脇に中腰になった。  だが、抱き起こしたりはしない。 「夜」がため息をつく。 「毎度のことながら、西へ東へ、おぬしもご苦労なことだな、【調停者】よ」  ジーンが、難しい表情で剣を見る。 「誰のせいだと思っているの。  あなたたちがのん気に構えているから、私やレックナートが苦労するのでしょう。  あなたも、少しはゼラセのことを考えてあげなさい」 「【星(あれ)】はすでに、私の意志を超えて動いておる。  支配の輪を外れた眷属のことまで気にかけるほど、私は人情家ではないのでな」 「……それで、目的の【罰】に久しぶりに会った感想はどう?」 「…………………………」 「夜」はしばらく沈黙した跡、低いトーンで言った。 「いまも昔も変わらぬよ。こやつが何を考えておるのかなど、私には分からぬ。だが……」  ふたたび一瞬の沈黙が開く。ジーンも口をあけようとしない。 「人間というものは、八つの「識」から組み立てられていることは知っておるな、調停者」 「夜」が話題を変えた。 「唯識……ね」  ジーンが答える。 「そうだ。万物全てまず心ありて、心をよりどころとし、心により成る。唯(ただ)、識のみである」 「眼識(がんしき)、耳識(じしき)、鼻識(びしき)、舌識(ぜつしき)、身識(しんしき)の五識と表層の意識(いしき)、そして深層心理の末ま那な識しきと阿あ頼ら耶や識しき」 「【罰】は大仰にも言いおった。「世界の本質を見た」などと……。 【罰】と【八房】……人間の「阿頼耶」と「末那」とを見続けてきたこやつ等が、果たして何を見、何処へ行こうとしているのか……。  こやつ等がなぜ、私に【太陽】との絆を断ち切らせたのか、私は見届けねばなるまい」 「【太陽】が待たせてくれるかしら。相当にご機嫌斜めのようだけど」 「待たせておくさ。いや、待たざるを得まいよ。  既に【罰】の暴走という範疇で終わる話ではなくなっている。  それに、マクスウェルという男が、予想以上に【罰】に対して支配力を持ち始めている。  彼が今後どういう道を選ぶのかによっても、話の終着点が変わってくるはずだ」 「彼と【罰】は、もう引き剥がすことができないのかしら」 「お互いが望むまいよ。理由は両者で違うだろうがな。  ミツバにも言ったが、マクスウェルはもう【罰】とほとんど一体化している。 【罰】と彼を引き剥がすこと、それはすなわち、【真の紋章】をひとつ、破壊することと既に同じ意味だ」 「そう……」  どこか悲しそうにジーンは呟き、「夜」は喋るのをやめた。  海からの風が、草木を揺らしている。  マクスウェルの誓いの戦いはすでに、様々な意味や現象を巻き込みながら、別のものへと変貌を遂げようとしていた……。

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