2007/10/24(水)01:53
パンズ・ラビリンス/内戦ファンタジー
某日、U市にて後輩Fとギレルモ・デル・トロ監督パンズ・ラビリンスを見る。
あらすじとしては・・・1944年、内戦期のスペイン。
軍人と再婚した身重の母に連れられ、少女オフェリアは山奥の山荘に引っ越す。
そこで妖精と遭遇し、迷宮の地下で地の精”パン”に引き合わされる。
パンはオフェリアが本当は人間ではなく、妖精の国の王女だと語る。
妖精の国に戻るためには、三つの試練を越えなければならない・・・
といったところ(※公式サイトのあらすじは後半まで語りすぎだと思う)
とか言っておきながら更にひどいネタバレをしちゃうのですが(※これから見ようという人は読まないでね)
この映画、自らダーク・ファンタジーと銘打つその心は、恐ろしい妖精達のグロテスクな造形・・・にある、のではない。
本作の”ダーク”ファンタジーたる真のゆえんは、本作が最後まで「ファンタジーであってくれない」点にある。
要するに夢オチなんだわコレが。
普段から絵本の妖精物語ばかり読んでいたオフェリアは、山荘の近くにあるケルトの古代遺跡や地元民から聞いた昔話、都市では触れなかった(で、あろう)大きな昆虫たちを素材にして、現実のおんもでは大人たちが出産の痛みやら暴力的な夫、裏切りと流血のどん底を這いずり回っている時に、子供らしい豊かな想像力でもって白昼夢の世界を飛び回っていたのである。そして、非常なる現実の刃はラストシーンにあって「おうじょさまは ようせいの せかいで ほんとうの おとうさまと おかあさま。 つまり、 おうさま おうひさまと さんにんで なかよく くらしました。 めでたし めでたし」という妄想の後に、わざわざ少女の断末魔とその死を悼むパルチザンの人々、そして少女を射殺した義父の処刑という切っ先を、われわれ観客に突きつける。
途中、試練だなんだと色々あるが、要するにこういうことだ。
でも、じゃあコレが夢オチですか鬱映画め、とポイするには捨てがたい魅力を持っている。
ヘル・ボーイをご覧になった皆さんなら大体予想はつこうが、本作もギレルモ・デルトロ監督特有の美意識というかフェティシズムが、画面のいたるところに溢れかえっている。
まず素晴らしいのがパンの中の人。
ダグ・ジョーンズというのだが、これはミミックの巨大昆虫やヘル・ボーイで半漁人を演じた役者だ。
長い指爪をアルカイックに動かして不思議な仕種をするのだが、これがまんま戦隊モノに出てくる悪の幹部。
一人二役でペイルマンという怪物も演じているのだが、こちらの演技もよかった。
この怪物は「手の目」だ。
つまみ食いをしたオフェリアを迷宮の中で追い回すのだが、この時歌舞伎のように目玉のついた手の平をグワッと前に伸ばす。
この挙動が実に江戸時代の草子にある「手の目」の動きそのもの。
妖精達だけではなく、ヒロインを射ち殺すド悪役ビダル大尉も良いキャラだ。
正にアメリカ映画に出てくるような典型的なファシストで、上等な葉巻と音楽を愛し、つでに拷問も含めて軍務を心の底からエンジョイしていて、皮手袋とジャックブーツの似合うダンディズムの権化、ゲリラの跳梁する奥深いエスパーニャの森林に突き立てられた男根そのものである。
皮手袋をギリギリはめるシーンとか、ルガーP08でゲリラと戦うシーンとか、もうたまんないカッコよさ。
ナチとか好きだねデル・トロは。
女性化したくなるぜ!!
女性といえば、この映画に出てくる女性は皆 勝手な男どもの犠牲者といった感じ。
ゲリラの女スパイですら、ナイフを手にしてすら怨敵ビダル大尉を殺害出来ない非力さを見せる。マッチョなお国柄から?
とまれ、「パンズ・ラビリンス」、本作も昨日感想を書いた「魔笛」同様ヨーロッパの暗い近現代史を舞台にしたファンタジー映画であり、銃火と妖精の混在する世界観は元メガテニストで(一応)軍オタの自分にはまたしてもセンターヒットな映画ではあった。
あとは、主演の女の子がもうちょい好みだったらな。
とか思ったり思わなかったり。
★★★★☆