1冊の本を最速で読んだ自己ベストを、記録更新した本かもしれない。
それだけ文章に引き込まれ、集中してしまった。
これは、彼が2004年、当時82歳の時に綴った、最後の著作であるエッセイだ。
読了後、本当に嬉しく感じた事がある。
82歳になった彼のヴォネガット節が、まったくと言っていい程、錆ついてなかったということだ。
僕の中でのヴォネガット像は、彼の代表作と呼ばれる作品が、集中して発表されていた、今から40~50年も前のカート・ヴォネガットである。
それが、あれから半世紀も経過した、この2004年の最新作でも、その当時のヴォネガット像が、少しもぶれていなかったということに、感動すら覚える。
僕のヴォネガット像がどんなものなのかということを、一言で表現するとこうなる。
「心優しきニヒリストで、かっこいいおじさん」
天才は、時として、凡人の領域から一気に飛躍し、常人には理解できない領域に達してしまう。
ダ・ヴィンチであったり、ピカソであったり、岡本太郎さんであったり。(黒川紀章さんや、ドクター中松さんは、今のところ保留にしておきます。)
それに対して、カート・ヴォネガットは、常識の範疇にいる、身近な天才という稀な存在だと言えると思う。
それはともかく、彼は、この本の中で、現代アメリカに対して、辛辣な毒舌と皮肉を、例のヴォネガット節で浴びせている。
それは、ヴォネガットが本当は、どうしようもない人達が暮らす、このアメリカを愛しているからであり、さらには、どうしようもない人達が暮らす、この世界を愛しているからなのだと、個人的に勝手に想像している。
だからこそ、彼は、世界の人々に向けて、文章という形でユーモアを伝えてきたのだと思う。
ヴォネガットは、この著書でこう書き記している。
唯一わたしがやりたかったのは、人々に笑いという救いを与え ることだ。
ユーモアには人の心を楽にする力がある。
アスピリンのようなものだ。
百年後、人類がまだ笑っていたら、
わたしはきっとうれしいと思う。
そう書き残してから約2年後の2007年4月11日、カート・ヴォネガットは天国に逝ってしまった。
著者:
カート・ヴォネガット Kurt Vonnegut
2007年出版