CBPP(牛肺疫)/口蹄疫/K9病<CBPP>CBPP(Contagious Bovine Pleuropneumonia)とは日本語で牛肺疫と呼ばれる極めて恐ろしい、家畜の伝染病であり。 日本でも、家畜法定伝染病に指定されるほどのトップクラスの伝染病だ。 アフリカじゃぁ、家畜法定伝染病、海外悪性伝染病、そのほかバイオハザード系のもうトップクラスの伝染病どもがそりゃぁもう、恐ろしいくらいうようよしているんだよ。 この牛肺疫もそのひとつ。 俺がアフリカ在住中も各地で発生しては、農家のウシを全滅させて、それはそれは苦しめていたもんだ。 ![]() 写真はそのCBPPの警告ポスター。 こうした家畜の伝染病が蔓延してしまう理由のひとつに。 アフリカ人がウシを非常に大切にしているという事が挙げられる。 こうした凶暴な伝染病に自分たちのウシが羅患してしまっても。 獣医なんかに診せた日にゃぁ。 『こいつはやべぇ伝染病だっ。早く殺して淘汰しなさいっ』 なんて言われるのがオチだからだ。 アフリカ人は、ウシを自分の家族のように大事にしている。 だから、そんな獣医にいきなりやばいから殺しなさいなんて言われても。 それは、まるで自分の子供を殺しなさいなんて言われているのと同じくらいの事なんだ。 だから、病気になると隠してしまう。 そうすると、病気は治らないから。 しかも伝染病だから。 次々と蔓延。 そして全滅。 そんなことが結構ある。 だから俺はできる限り治療を試みたけれど。 やばい病気は本当にやばく。 下手したら中には人獣共通伝染病なんてのもあったりして。 こっちの身もやばい事この上ない。 そんなところで仕事をしていた。 そして、またそんなところで仕事をしたい。 それは、ある種の無謀なる挑戦かもしれないけれど。 またいつかあの地に戻って診療をしてみたい。 <口蹄疫> 口蹄疫とは、主に産業動物で、最も重要視される伝染病のひとつだ。 まず以下に、口蹄疫ってどんなもの?ってのを書いたので参照して頂きたい。 1 病原体 口蹄疫ウイルス(Picornaviridae Aphtho) 2 感受性動物 牛、豚、羊、山羊、鹿など主に偶蹄類に感染します。 口蹄疫ウイルスは濃厚な接触があると極めて稀にヒトにも感染することがありますが、軽い発熱と水泡(唇、頬、舌、指と足)ができる程度で完全に回復します。 3 症状 主な臨床症状としては、発熱、流涎、蹄部・口部(舌・唇等)の水胞形成、歩行困難、流産などがあり、発症すると急激に痩せ、幼畜では死亡することがあります。 4 診断方法 血清学的検査により抗体の確認、または水胞材料からのウイルス分離を行います。 5 予防方法 ワクチンが用いられることもあるが、現在は発症獣の淘汰による清浄化の推進が中心となりつつあります。 6 治療方法 治療法はいまのところ知られておらず、またウイルスの伝染力がきわめて強いために、感染した家畜はと殺(焼却処分)するしかありません。 アフリカには、それはそれはたくさんの、しかも恐ろしい伝染病が存在する。 日本では、そういった伝染病を『法定伝染病』や『海外悪性伝染病』として指定して。 日本の産業動物に蔓延しないよう、水際作戦で防疫している。 日本は島国なので、比較的楽に防疫はできるんだ。 さて、この口蹄疫。 アフリカでは、オーソドックスな家畜の伝染病だ。 ![]() ↑ 口蹄疫に感染したウシの舌。タンが痛々しくなっちゃって・・・。 人間にも感染する事があるというから、おっかねぇ。 (人間に感染した場合の症状は、さほどひどくはありません) 上記にあげた中で。 治療方法。『治療法はいまのところ知られておらず、またウイルスの伝染力がきわめて強いために、感染した家畜はと殺(焼却処分)するしかありません。』 ウイルス病の多くは、特効的な治療方法はない。 でもね。 これ、治るんだよ。 日本の獣医さん、びっくりしました? うそじゃないよ。だって俺治療してたもん。 口蹄疫の主症状は、上記に上げたように、口腔内と蹄間の糜爛が起きるため。 ものが食べられなくなり、そして歩けなくなってしまう。 野生動物だったら、いちころで肉食動物の餌食だ。 ウイルス病なので、特効的な治療方法はないんだけれども。 その代わり自然治癒を待てば、治る事がある。 自然治癒するには、それなりの期間を要するため。 その間、食物摂取ができなければ、体力が衰えて死亡してしまう。 だからね。 ウシでも、その間、ちゃんと点滴してあげて。 流動食を取らせれば治るんだよ。 でも、そんなことは普通はしない。 なぜならば、産業動物であり、治療に多大なコストをかけてしまっては、商売上がったりだからだ。 それが伝染病となればなおさら。 だから日本を始め、欧米各国では、治療よりも、いかにその伝染病が広まらないようにするかの作戦を取ることが重要視されている。 ところが、アフリカでは。 既に、広まっちゃってるんだよ。 アフリカ側の視点から見れば。 そんな広まらないように作戦を取るなんて悠長な事は言ってられない。 そんなことしてたら、全滅だぜ。 そして、タンザニアの農家は、俺が見る限り。 日本や、欧米諸国の農家よりも、ウシに対してとっても愛情が深い。 愛情が深いというか、単なる家畜ではないんだ。 正直、この表現は日本語ではできない。というよりもそういった概念や文化が日本や、欧米文化にはないのだ。 だから、向こうの農家でウシが伝染病にかかると。 飼い主のおっちゃんは、大の大人なのにも関わらず。 『ドクター、何とか治してくださいぃぃ、お願いしますだぁあーっ』 てな感じで、涙を流して、俺にすがり付いてくる事が多々あった。 そんな風にされちゃったらさ。 『これは、危ない伝染病だから、すぐに殺そう、淘汰しよう』 なんては、とてもとても言えなかったんだ。 だから、ウシといえども。 まるで愛玩動物の治療のごとく。 俺の思いつく限りの事をやってみた。 ウシに点滴したいけど、点滴バックは超高価。 だから、作ったよ。 ある程度、口腔内糜爛がよくなってきたら。 今度は、モラセス(糖蜜)と塩を混ぜたものを飲ませたり。 草が食えないんなら、濃厚飼料を作ったり、細かく刻んで与えたり。 そしたらね。 治ったよ。 俺も、半信半疑だったけど。 ちゃんと回復したんだ。 なせばなる。なさねばならぬ、何事も。 日本の獣医さんではできない体験をしたひとつの出来事でした。 ※:普通は、こんな治療は、アフリカをのぞく多くの地域ではしません。 <K9病> さて聞き慣れない、この病気。 実は世界的にも有名な病気の一つだ。 その正体は『狂犬病』 東アフリカの医療関係者の間ではこう呼ばれている。 これは、K(ケニア)で9番目に流行している伝染病という意味だ。 ![]() ↑ これは狂犬病予防のポスター 日本では、昭和30年代に最後の発祥を見て以来、その発生は今日まで見られていないけれども。 アフリカじゃぁ、日常茶飯事だ。 時々、俺の診療所に。 狂犬にかまれた人がやってきて。 泣きながら、『どうにかしてくれ~っ!!』 と訴えていたんだけれども。 ここは人間の病院ではなく。 獣の診療所なのです。 しかしながら、実際に狂犬病に感染して命を落とす人もかなりの数がいるのは事実であって。 マジでしゃれにならないのだ。 狂犬病の有名な主症状として。 ・ 凶暴化 ・ 恐水症(嚥下障害により飲水が困難になる) ・ 知覚過敏症(光刺激に過敏反応を起こすため、月明かりでさえ痛みが走るそう) ・ 100%の死亡率 などが挙げられる。 これだけ見ると、完全に狼男の変身シーンだが。 実際の症状は。 ・ 食欲不振 ・ 発熱 ・ 元気消失 なんて感じで、『本当に狂犬病なの?』と思うこともしばしば。 さらに、狂犬病ってのは、別に犬だけがかかる伝染病ではなく。 人間を含む全ての哺乳類が感染する危険性があるのだ。 最も鑑別診断が難しかったのが。 タンザニアでは、良い番犬を作るために。 犬にマリファナを食べさせる事がある。 そりゃぁ、狂うよね(笑) だから、診療するときは、それはもうスリリング。 いつも命がけの診察だった。 時たま、手押し車に乗せられて、痙攣を起こして品詞の状態のイヌの患者なんかが運ばれてきた時があったけれど。 確定診断まではそういう状態になってしまったものに下す事はできなかったが。 大抵、そんな場合は狂犬病だ。 日本では既に見ることができない狂犬病。 でもいつまた日本へ侵入してくるかはわかったもんじゃない。 そのとき、日本のほとんどの獣医は実際に狂犬病を診た事がないから。 きっと大変な事になるかもしれない。 |