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月と華と神の酒

そして去る者 残る者 第4話

【そして去る者 残る者 第四話】

風が木々を揺らす。草原にも、波のように風が駆け抜けていった。
小鳥たちのさえずりと風の音以外、何も聞こえてこない。
城壁のすぐ向こう側が、喧騒あふれる首都とは思えぬ静かさだ。

プロンテラ首都、西門外。そこから僅かに南下したところに、自分の所属するギルドの溜まり場があった。
いまは、自分一人しかいない。つい先ごろまで、他のギルドメンバーで賑わっていた。
皆なかなか、その場を去ろうとはしなかったのだ……。まるで何かを紛らわすように、馬鹿話に花が咲いた。
それでもいつしか一人、また一人と去っていき、とうとう自分が最後に残された。
そして、冒頭に述べた静寂が訪れる。



この日、一人のギルドメンバーが、この世界を去った。



その引退式を終え、自分はギルドの溜まり場で独り座り込んでいた。
去っていった、炎の天使の名を冠する彼女との付き合いは、もっとも長い部類に入る。
かつて自分は、ギルドのマスターを務めていた時代があった。彼女はそこの、創立期のメンバーに当たる。
訳あってそのギルドを解体し、ともに、いま所属しているギルドへと押しかけた……。

手元に、彼女の名前が刻まれたスティレットがある。
この刻印が消えたとき、世界は彼女を忘れるのだ。

ああ……

三度、胸に去来する、あの感情。
今度のは今までの比ではなく、強烈に胸を締め付けた。

ふと、視界に何かが入り込んだ。

胸の痛みから逃れるように、自分は立ち上がり、その場へと駆けた。
見えるはずの無いものが、見えたのだ。
溜まり場からすぐそこに、プロンテラ王国が管理している下水道がある。
いまは低級モンスターがはびこり、駆け出しの冒険者の腕ならしの場へとなっていた。
そこに、いるはずの無い影を見た。

「あ……」
装飾用卵殻を被った、マーチャントの女の子。ただそれは、自分の知っているコとは、明らかに別人であった。

そして、唐突に理解した。

この感情が、何なのか……。

最初は、名も知らぬ騎士だった。

次は、新たな楽しさを教えてくれた二人の女の子だった。

そして、最初から共に在った戦友……。









































自分は……寂しかったのだと……。
























……………To be continued


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