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カテゴリ:作家
あらすじ
悠介は、長野県安曇野の隣、池田町に産まれ、長野高校に進学した。2年の春、写真部の新入生歓迎撮影会で、小平由樹枝に会う。その後、恋人関係になる。3年の夏休み、北海道無銭旅行を遂行。大学の推薦が決まった後、上高地へ出かけ二人は結ばれる。実力試しに受験したW大学に合格するも、M大学に進学する。そして1年が過ぎた。春休み、希望大学に合格した由樹枝が東京に来て、短いが二人の充実した同棲生活を送った。しかし、そのわずか1週間後、矢代美恵子と関係してしまった。 写真はネットより借用 =================================== 翌週、悠介が学校から部屋に帰ると、美恵子が鬼の形相で待っていた。 「この手紙は何よ!」 それは、由樹枝から届いていた多くの手紙である。机の奥に仕舞って置いたものである。 「今日、来た手紙がこれよ。あなた、別れると手紙出してないの?」 「・・・」 悠介は何も答えられない。心の重さに耐えながら、表向きは恋人のように同棲を続けている悠介と美恵子である。どうしようと思いつつ、美恵子にも何も言えず、由樹枝にも手紙は出せなかった。 「何、これ? 読んでみてよ。5月の連休に来ると言っているよ!」 悠介は、渡された由樹枝からの手紙を読んだ。 「春休みの1週間は夢のような期間であり、如何に悠介を愛しているか再認識しました、悠介から愛していると言われて、私たちは強く愛し合っていると確認できて、とても嬉しい。これからも良い仲を続けていこうね。又、連休には1週間ほど行けると思う。それを楽しみに生きています。大学生活も順調です。」 などと書いてあった。由樹枝の申し訳ない気持ちで一杯である。自然と頭が垂れてくる。 「どうするつもり?」 「申し訳ない。俺は、この人を愛している。」 「何言ってんのよ! あなたは、毎日、私を抱いておきながら、そんなこと言う権利があるの? 頭が狂っているよ!」 「申し訳ない。どうしていいか分からないんだ。」 「すぐに、恋人ができた、あなたとは別れると手紙を書きなさい。」 「そんな事は書けない。」 「私を裏切るつもり? 私はあなたと別れないわよ。もう深い仲なんだから。」 酔って正体をなくした翌朝と同じ事の繰り返しである。違うのは、その後、毎夜交接している事であった。悠介に申し開きは出来ない。しかし、由樹枝と別れると言う手紙なんぞ書けるはずもない。美恵子とこのような仲になっても、由樹枝を愛していることに変わりはない。 「分かったわ、あなたが書けないなら、私が書いて明日出すから。いいわね。」 「それは困る。」悠介は言ったが、小さい声であった。 悠介は何とか、この事態を脱出したかった。手紙は書けない。返事が来たら美恵子に読まれてしまうからである。電話をかけようと思った。しかし、現実に美恵子と同棲している状況なのに、何と話したらいいのか? 現実は語れない。美恵子と別れてからならば、何としても言い訳は立つ、今は何も言えない。悠介は袋小路に入ってしまったように、何も出来ないのである。 美恵子は、テーブルに向かってペンを走らせている。住所も名前も分かっている。多くの由樹枝からの封筒があるのだ。 悠介は時間稼ぎをしたかった。美恵子を何とか説得して別れるまでの時間だ。美恵子は由樹枝と違って男の経験は間違いなくある。悠介と初めて行なった時に既によがり声をあげていたのだ。相当な経験があるに違いない。その事実を元に別れを迫るしかない。それにしても時間がかかる。悠介はそう思った。手紙は明日出されてしまう。そちらは時間がない。考えた末、高校の同級生に頼むことにした。それしか方法がないのである。 翌日、大学の公衆電話から、地元の役場に勤めている山脇を呼び出した。事情を大急ぎで説明し、由樹枝に変な手紙が届くが信用しないでくれと伝えて欲しい旨依頼した。しかし山脇から言われたのは、どうして女と同棲しているのか、と言う事である。由樹枝を愛しているなら、一刻も早く、その女と別れろ、でなければ、由樹枝に伝えたとしても嘘になる、と言うのである。一番厳しい所を突かれた。それが最も問題なのである。別れるが込み入った事情があり、少し時間がかかる、とそれだけ説明した。自分で電話しろとも言われた。しかし女が部屋にいる現在、直接電話し難い旨説明し、何とか状況を分かって貰いたいと懇願した。最終的に山脇は同意し、「変な手紙が届くが信用しないでくれ」と伝えることを約束した。そして、事情があり本人から電話も出来ないとも、伝えることになった。 これで一応の対策は取ったと悠介は思ったが、これで解決する訳でもない事は自分でも理解している。さらに対策も不十分であるとも思った。女が自分の意志にかかわらず部屋に住みついてしまった事を打ち明けねば、到底、由樹枝の理解を得られまいとの考えに行きついた。しかし、手紙を出してその返事が来れば、美恵子の怒りはますます強固になるであろうことも推測できた。それで又、同級生に頼ることにした。盛岡から来ている高橋である。彼の住所に手紙を送って貰うのである。良い考えであると、早速、高橋を探した。彼がいそうなキャンパスを探したが見つからず、教室に戻ったら彼がいた。 =================================== お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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