あらすじ
悠介は、長野県安曇野の隣、池田町に産まれ、長野高校に進学した。高校の後輩である小平由樹枝と恋人関係になる。3年の夏休み、北海道無銭旅行を遂行。大学の推薦が決まった後、上高地へ出かけ二人は結ばれる。M大学に進学し、1年が過ぎた。春休み、希望大学に合格した由樹枝が東京に来て、短いが二人の充実した同棲生活を送った。しかし、そのわずか1週間後、飲み過ぎて記憶喪失し矢代美恵子と関係してしまった。何とか別れたい悠介であったが、美恵子は別れてくれない。数か月後、アパート代を出すとの約束でようやく別れてくれた。そして由樹枝との仲を戻すべく努力したが、完全に振られた。
写真はネットより借用
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結局、悠介は美恵子の部屋に泊まってしまった。夜交わり、朝方にももう一度愛し合った。元々、身体の相性は良いのである。美恵子が言うには、自分にも性欲がある。無性に抱いて欲しいと思う時がある、と言う。もし悠介とこう言う関係を続けられれば、性に関しては満足し勉強に専念できる。それに、悠介を愛していると言うのだ。悠介はその言葉、「愛している」、には抵抗があった。由樹枝に対しては、愛していると何度も言った。しかし身体の関係を持ちながらも、美恵子に対する気持ちとは違うのである。美恵子もその辺りを分かっているのか、恋人ではなく、身体の関係のある友達で良いと言うのである。その方が悠介にも都合が良い。恋人となると何かと責任が付き纏う感じがする。別れるとか別れないとか、好きだとか嫌いだとか、そう言うのは面倒である。友達ならば、そう言ったややこしい心の感情抜きで付き合える。
こうして、悠介と美恵子は、男と女であり身体の関係も持つが恋人ではなく友人であり、お互いの性欲を満足させると言う変則的な付き合いが始まったのである。
悠介と美恵子は週に1回、食事をし宿泊する関係を続けた。そして秋も深まり初冬の気配も感じられる日々となった。その間、悠介は由樹枝が忘れられず、手紙を1度書いたが返事は来なかった。その頃は既に心のもやもやも少なくなり、寂しさも薄れていた。別れは止むを得ないか? と言う心境になっていたのであった。その心境の変化は時のせいもあるが、美恵子の存在も大きかった。若く性欲を持て余す年頃であるが毎週、抱き合えるのである。悠介はその日を待ちわびる生活であった。
悠介は、1学期の勉強の遅れを取り戻していた。2学期に入り真面目に授業にも出席し、予習も復習も行った、元々勉強は嫌いではなく、高校の頃から真面目に勉強し、大学の推薦を勝ち取ったのである。1学期は、由樹枝と美恵子、その関係で学業が疎かになった。2学期に入り失恋の痛手が減じた頃、心を入れ替えたのであった。それに平日は有り余る時間があった。休日はバイトで金曜日は美恵子の部屋である。それ以外の日は学校から帰ってから寝るまで自分の時間である。やる気になれば勉強時間は十分に取れた。年が代わる頃にはようやく失恋の痛手も完全に回復した。新しい恋人が欲しいとも思わない。美恵子がいるからである。男と女の友人と言う若い二人には珍しい関係かも知れない。しかし、そのような関係が二人には最も適していた。美恵子も2学期の成績は上がったようである。バイトも止めて勉強に専念したお陰であろう。
年が明けて3学期も終わり、悠介は3年生になった。美恵子は4年生である。悠介はこの年よりアパートの近くの駿河台キャンパスになった。歩いて通えるのである。明大前の和泉キャンパスでも遠くはないが、電車に乗らねばならない。通学はとっても便利になった。金曜日の夜は相変わらず美恵子の部屋である。
「これ、アパート代と生活費。」
悠介が美恵子に現金を渡した。
「まだアパート契約は6月まであるから、後で良いわよ。」
「お金は早いと言うことはないだろう? まだ足りないと思うけど、又、バイト代が入ったら持って来るから。」
「ありがとう、悠介のお陰よ。安心して勉強に専念出来るのも。そうだ、借用書を書くわね。」
「いいよ、いいよ。そんなの必要はない。俺に金は要らないから。」
「でも約束よ、貰ってしまったら、心の負担になるから、貸しにして。」
そう言うと、美恵子は便箋を取り出し、借用書を書きだした。
「それはそうと、就職活動はどうなの? 希望先は決まった?」
「4年になってから、説明会もあるようだけど、早い会社はもう今月か、来月位には試験案内が来るらしい。」
「そう。忙しくなるね。」
「全然、問題ないわ。時間はあるし。何しろ悠介のお陰でバイトしなくても良いので助かるわ。」
美恵子は商社か銀行に入りたいとの事である。しかし母子家庭なので、銀行は難しいかも知れないようだ。試験に面接の他、家庭環境も調べられるとの噂を聞いているらしい。
「悠介は、どんな仕事をしたいの?」
聞かれて悠介は返事に困った。特に考えがないし、希望もないのである。バイトの工事は好きであるが、悠介は文系、そちら方面には向かない。しかし商社とかではなく、モノづくりのような会社で働きたいと漠然と思っていた。
「まだ決めてないので、今年ゆっくり考えて決めるよ。」
「そうね、まだ時間があるし。」
料理はまだ食べ終わっていない。ビールもまだ残っている。まだまだ夜は長いのであった。
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