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カテゴリ:作家
あらすじ 悠介は、長野県安曇野の隣、池田町に産まれ、長野高校に進学した。大学は東京のM大学である。その間、小平由樹枝と良いお付き合いをした。大学2年になりとあるコンパで飲み過ぎて矢代美恵子と深い関係となる。小平由樹枝を愛していたが、愛想をつかされ振られてしまった。その後、美恵子とは変則的な付き合いを行い、1年先輩の美恵子は就職して大学もアパートも去った。悠介は大学4年になり就職活動も終わり、希望の会社に就職も決まった。そして友人高橋の結婚披露宴も無事終了。その後新婦の友人の唐橋由美子と親しくなったが、別れたいが別れさせてくれない。一方、美枝子は玉の輿と言える結婚する事になった。3月末、悠介は就職したが、実習中に由美子が自殺未遂をしたと言う連絡を受けて真っ青になった。由美子の父親に会い、慰謝料も支払い問題は解決した。悠介は希望の鹿沼工場に配属され社会人生活が始まったが、女性問題がありタイのシラチャへの出張が決まった。シラチャーでの仕事、恋愛も順調である。2年強のシラチャ生活を終え、鹿沼に帰り2年が経過した。そして2年振りに心がときめく女性を会う。橋本千恵子と言う女性である。 ![]() 写真はネットより借用 =================================== 千恵子は暫し大沼の水を楽しんだ後、陸に上がった。タオルは持っていないので、脚をブラブラさせて水を切った後、ハンカチで足を拭く。そして靴下を穿き、靴も履いた。 「あぁ、気持ち良かった。子供に帰った見たい。」 「そうか、それは良かった。少し歩こうか? 赤城神社と言うのがあるらしい。そこまで歩いて見よう。」 二人は、大沼湖畔をプラプラと歩いた。どちらともなく、手を繋いだ。 「ねぇ、この大沼の水はどこから来るのかしら?」 「う~ん、どこからかなー? 大沼へ注ぐ川はないようだね。」 「そうすると、雨が降った時に貯まる水だけ?」 「どうかなー? それだけでは足りないように思うけどなー?」 悠介にもそれは分からなかった。若しかしたら、湧水があるのかも知れない。 湖畔をぐるっと回ったら、赤い橋が見えて来た。赤城神社への橋のようである。 「あの赤い橋を渡ったら、赤城神社じゃーないかな?」 「神社っぽいね。」 二人はゆっくりと橋を渡った。 赤い橋を渡ると、そこには静かな境内が広がっていた。木々に囲まれた参道は、夏である。濃い緑である。鳥居をくぐると、ふっと空気が変わったように感じられ、悠介も千恵子も自然と背筋を伸ばして歩いた。 「わぁ……静かね。湖畔のざわめきが消えたみたい。」 千恵子は小声でそう言った。風に揺れる葉音と、時折聞こえる鳥の鳴き声だけが境内を満たしていた。「神社って、不思議な場所だよな。ここだけ、時間が止まっているようだ。」 二人は拝殿の前に立ち、賽銭を入れ、鈴を鳴らした。千恵子は目を閉じ、ゆっくりと手を合わせる。悠介もそれに倣ったが、ふと横顔を見て、千恵子がどんな祈りをしているのか少し気になった。だが訊くことはしなかった。祈りは人それぞれの秘密だ。 参拝を終えると、境内の端にあるベンチに腰を下ろした。木漏れ日が二人の肩に降り注ぐ。 「何をお願いしたの?」悠介が少し冗談めかして聞いた。 「ふふっ、教えない。」千恵子は唇に指をあてて笑った。「でも……心が少し軽くなった気がする。」 悠介も頷いた。「俺もだ。理由は分からないけど、ここに来ると少し素直になれる。」 二人はしばし黙って湖を眺めた。橋の赤色が湖面に映り、その上を風がさざ波のように渡っていく。 やがて、千恵子が口を開いた。 「ねぇ、悠介さん。私たち、こうして旅をしていると、昔のことを思い出さない?」 「昔?」 「子供の頃よ。家族で出かけたり、友達と遠足に行ったり……。なんでもない時間が宝物だったんだなって。」 悠介は頷き、少し笑った。「確かにな。俺も小学校の時、近くの山に登ってお弁当を食べたことを今でも覚えてる。あのとき食べたおにぎりの味って、不思議と忘れないんだよな。」 千恵子は目を細めて笑った。「分かるわ。そういう小さな記憶が、心の奥で光っているのよね。」 境内を後にすると、再び湖畔の道へと戻った。午後の光は柔らかく、湖面を黄金色に照らしていた。観光客の姿もまばらで、二人はほとんど貸し切りのような気分になった。 「そろそろ休憩しない? 茶屋みたいなところ、あるかしら。」 「さっき鳥居の近くに小さな茶屋があったな。行ってみようか。」 茶屋に入ると、香ばしい焼き団子の匂いが漂ってきた。木の窓からは大沼が見下ろせ、風が心地よく吹き込んでくる。二人はみたらし団子と抹茶を頼み、席に腰を落ち着けた。 「んー、美味しい!」千恵子は目を輝かせながら団子を口に運んだ。「やっぱり旅はこういうご褒美がないとね。」 悠介は笑いながら、抹茶を一口すする。「確かにな。湖を眺めながら食べると、普段の団子より何倍も美味しく感じる。」 二人の会話は、他愛もない日常のことから、これから訪れたい場所のことへと移っていった。 「そういえば、赤城山の頂上にも行けるんでしょう?」千恵子が窓の外を指差した。 「ああ、黒檜山っていうらしい。標高はそれほど高くないけど、景色はいいらしいぞ。」 「じゃあ、明日登ってみる? 私足に自信はないけど」 「いいな、それ。のんびり歩いて登れば、きっと気持ちいいだろう。」 千恵子の顔に期待の色が浮かんだ。「決まりね。」その時、湖面に白い鳥が舞い降り、波紋を広げた。千恵子はその光景を見つめ、ふと口にした。 「なんだか、この旅は……私にとって特別な時間になる気がする。」 悠介は答えず、ただ同じ景色を見つめた。二人の間には、言葉では説明できない静かな確かさが生まれていた。 ================================== お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2026.02.10 21:03:24
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