チェンマイに佇む男達 寺本悠介の場合 第186回 ~
あらすじ悠介は、長野県安曇野の隣、池田町に産まれ、長野高校に進学した。大学は東京のM大学である。その間、小平由樹枝と良いお付き合いをした。大学2年になりとあるコンパで飲み過ぎて矢代美恵子と深い関係となる。小平由樹枝を愛していたが、愛想をつかされ振られてしまった。その後、美恵子とは変則的な付き合いを行い、1年先輩の美恵子は就職して大学もアパートも去った。悠介は大学4年になり就職活動も終わり、希望の会社に就職も決まった。そして友人高橋の結婚披露宴も無事終了。その後新婦の友人の唐橋由美子と親しくなったが、別れたいが別れさせてくれない。一方、美枝子は玉の輿と言える結婚する事になった。3月末、悠介は就職したが、実習中に由美子が自殺未遂をしたと言う連絡を受けて真っ青になった。由美子の父親に会い、慰謝料も支払い問題は解決した。悠介は希望の鹿沼工場に配属され社会人生活が始まったが、女性問題がありタイのシラチャへの出張が決まった。シラチャーでの仕事、恋愛も順調である。2年強のシラチャ生活を終え、鹿沼に帰り2年が経過した。そして2年振りに心がときめく女性を会う。写真はネットより借用===================================六方沢橋駐車場にはすぐ着いた。「よ~し、さぁ、行こうか? 霧降高原まで、歩いて30分位らしいよ。」「えー、それしかないのですか? 2~3時間歩くのかと思っていました。」「いや、近いね。歩きたいなら、大笹牧場に車を置いて歩けば良かったね。」「良いです、良いです。花を見ながら歩きたいです。」二人で歩き始めた。すぐにアーチ形の橋が見えた。「すごい! 綺麗な橋!」「この橋は、六方沢橋と言って、幅が320mもあるのだよ。」悠介は、ガイドブックの受け売りだが、千恵子に説明した。「すごい景色よ。あの山は何と言う山かなー?」関東平野の中に山が見える。「あれは、筑波山じゃーないかなー? あの辺りには筑波山しかないよ。」「筑波山? 行った事ない。寺本さんは行った事あります?」「いや、僕も行ってない。次回は筑波山に行く?」「良いですね。色んな所へ行きたい。」会話のついでに、悠介はちゃっかり次のデートを約束した。素晴らしい眺めの六方沢橋を後にして、二人はおしゃべりをしながらさらに歩いて行く。最高だなー、と悠介は感じながらゆっくりと歩く。ポツポツと、ニッコウキスゲの花が見えて来た。「花が咲いてますね。」「良い時期に来たよ。今が最盛期じゃーないかな? もっと歩くと、一面がニッコウキスゲの野原があるはずだよ。」悠介の言う通り、少し歩いたら、一面ニッコウキスゲの野原である。素晴らしい景色だ。「素敵! こんな綺麗なところ、私初めて!」千恵子が興奮した口調でそう言った。悠介も本当に素晴らしいと感じる。悠介は千恵子の手を取った。そして、顔を見合わせる。千恵子も嫌がらなかった。自然に手を取ったと言う感じであった。手を握りしめて言った。「こんな美しい景色を貴女と一緒に見られて嬉しいよ。」千恵子は黙って、美しい草原を見ている。悠介は千恵子の肩を抱きよせた。千恵子は寄りかかってくる。自然とくちづけをした。千恵子は静かに吸って来る。慣れている感じだ。「ありがとう、とても素敵だ。」悠介は千恵子の肩を抱きながら、そう言った。「あの木の下で昼食にする?」丁度良い所に大きな木があり、日陰を作っている。そしてそれもお誂えのように座れる石があった。「ここに座ろう。」下今市で購入した、パンの袋を開ける。悠介はアンパンとメロンパンである。千恵子はカレーパンとクリームパンだ。「私、カレー、大好きなんです。」千恵子が食べながら言った。「俺も好きだよ。カレー作れる?」「ええ、作れます。料理は好きなんです。でも作れるのはカレーだけ。お母さんに教えて貰っているけど、まだ難しい。」「そう、僕は全く料理は作れないよ。作ろうと思った事もない。」「男の人はそうでしょう。」悠介は、アパートの近くの食堂で毎夜食べている。朝はパンとジュース、昼は会社の弁当を食べている。夜は色々な料理を作ってくれるので食事バランスは悪くないと思っている。特に食事に不自由はしていない。そんな事を千恵子に話した。「ところでさー、キスは上手だったけど、かなり経験がありそうだね?」「ええ?」「何人位キスした事あるの?」「ええー、そんないないです。」そう答えながら、千恵子は、下を向いている。答え難い質問である。「もう僕らは、恋人同士で良いのだよね?」千恵子は返事をしなかった。悲しそうな顔をして草原を見ている。悠介は何か事情があるのだろうな、と感じた。若しかしたら付き合っている人がいるのかも知れない。これだけ美人で可愛いのであるから、高校時代から恋人がいても不思議ではない。恋人がいるにも関わらず、キスしてしまった事を後悔しているのかも知れない。それでこれ以上の質問は止めようと思った。恋人だよね、と言った後、千恵子の言葉は極端に少なくなった。良い雰囲気じゃーないなー、と帰る事にした。「さぁ、食事も済んだし、ニッコウキスゲの草原も十分に見た。帰ろうか?」「はい。」千恵子も返事をして立ち上がった。悠介が持っていたパンの袋とジュースの缶を千恵子は受け取って、自分のバッグに仕舞い込んだ。気が付く娘である。==================================