名句のための俳辞苑名句のための俳辞苑 松田ひろむ蜂谷一人氏から『超初心者向け俳句百科 ハイクロペディア』(本阿弥書店)をご恵送いただいた。これは辞書風の体裁ながら、学問的な辞書というよりも、読んで楽しいものであった。「ハイクロペディア」は百科事典を意味するエンサイクロペデイア(encyclopedia)をもじったものだろう。 これは面白いと考え私なりの「俳句辞典」を作ってみようと考えた。「超初心者向け」という蜂谷一人のキャッチもいいが、やはり小生は「名句入門」として書き続けているので、僭越ながら名付けて「名句のための俳辞苑」はどうだろうか。蜂谷一人は、俳人名もあげているが、俳人名になるとこれだけで大変なことになるので、原則として俳人名は外し、またなるべく彼の項目と異なるものをと考えている。すべての用語を網羅するのではなく、読んで意味のあるもの、問題点・疑問点のあるものを中心としたいと考えている。もちろん初心者が読んでも理解できるように心がけたいものである。 蜂谷一人(はちや はつと) 一九五四年岡山市生まれ。さそり座B型。二〇〇一年に松山で夏井いつきに出会い俳句を始める。二〇〇五年より毎年、画と俳句の個展を開催。俳人・星野高士、片山由美子、歌人・栗木京子とのコラボ展あり。NHK俳句テキストの表紙画、共同通信「季の観覧車」の画などを制作。職業はTVプロデューサー。Eテレ「NHK俳句」「NHK短歌」を二〇一一年より担当。『青でなくブルー』が第一句集。見るHAIKUhttp://miruhaikacom/enterで過去の作品を展示中。句集に『青でなくブルー』(芦澤泰偉事務所 、二〇一六年)略歴は句集巻末より抄出、表記一部変更。 歯を磨くときは直立敗戦日 一人 秋夕焼ドードー鳥の来て困る 神を説く人に並びて暦売 はつなつの雲形定規つきとほる 寒鯉や炉心に青くしづかな日 その蜂谷一人の文章をひとつ引用させていただく。 【いのちがけ】 命懸け 宇多喜代子さんに伺った話です。「泉の底に一本の匙夏了る」などの句で知られる飯島晴子は完璧主義者で、命を削るように俳句に取り組んでいたそうです。ある時、吟行で海女小屋に行き、句材を探して歩き回ったことがありました。海女さんは鬱陶しくなって[ちょろちょろしなさんな。こっちは命懸けで仕事している]と叱りつけたとのこと。自重するかと思いきや、晴子はこう言い返したそうです。「こっちだって俳句に命懸けてるのよ」 「俳句に命を懸けてはいけない」と、宇多さんは笑いながらおっしゃっていました。「俳句はそういうものではない。久保田万太郎のように余技で作る人もいる。それで良い。あまり真剣になると余裕がなくなる」と。 晴子は俳句を初めたのが遅く三十八歳のときでした。句会に夫の代理で出席したのがきっかけだったそうです。スタートの遅さを取り返そうとして、命懸けで俳句に取り組んだのでしようか。晩年は病を得て、七十九歳で自ら命を絶ちます。晴子の生涯を知ると「命懸け」の言葉の重さにあらためて気づかされます。 いかがだろうか。なかなかの名文である。 ただ、私は「俳句は命懸けでやるではない」も「俳句に命に懸ける」もどちらも否定できないと考えている。また自死された飯島晴子の例は、俳句に命懸けの例としていいかどうか難しい問題もある。 ジャンル別一覧
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