小鳥来る裸婦の黒子(ほくろ)に魅せられて 松田ひろむ(ワイエスとヘルガ考)
小鳥来る裸婦の黒子(ほくろ)に魅せられて 松田ひろむ今日はアンドリュー・ワイエスとそのモデルのヘルガの関係について考えてみたい。アンドリュー・ワイエスは、秩父にあった加藤近代美術館の「ビューティ・マーク」を見て以来の関心事であった。==ヘルガをめぐるゴシップ==ヘルガをモデルに15年にわたって240点もの作品が描かれたいたことは、有能な秘書であった妻ベッツイも、ヘルガの夫も知らなかった。これは15年もの密会としてスキャンダラスに報道された。(『ワイエス画集3ベルガ』)ワイエスが始めてヘルガを鉛筆でスケッチしたとき彼女はすでに38歳であった。ワイエスは当時53歳だった。ヘルガは若くもないし、美しいともいえなかった。しかしワイエスは彼女の内面からにじみ出るなにものかに魅かれたのだった。それはワイエスによって描かれたヘルガを見れば明らかである。また彼が見栄えのしないヘルガを描き続けたのは、彼女が辛抱強く、寒い戸外に立たせても雪や風に不平を言うことがなかったし、屋内では命じられたポーズを忠実に守り続けたからだった。同一のモデルをさまざまなスタイルで240点も描き続けたのは、名もない一人の中年女性にも無尽蔵ともいえる魅力が潜んでいたからであった。「ページ・ボーイ」では沈鬱で禁欲的なヘルガが描かれている。しかし、「恋人たち」と題するヌードでは、ヘルガは豊満な肉体を見せている。さらに同じ裸体でも「仮収容所」のように背面から描くと、また、別の魅力がある。ヘルガシリーズは、ヘルガの年齢や風貌の関係もあって、裸体を除くと全体として重くやや暗い感じがする。(東京ワードローブ「ワイエス-世界一有名な密会-」)15年もの間、秘密にしていた理由について、妻ベッツィが、ワイエスが異性のヌードを描くとき「私に見えないところでやって」と言ったためだともいわれているが、それが15年もの間、秘密にしていた理由であろうか。以下私見である「ワイエスの描くヘルガ像からみて、ワイエスとヘルガの肉体関係を想像することは難しい。ワイエスの画はヘルガの老いに対してもあまりにもリアルである。そこには馴れ合い的な美化は見られない。しかし秘密の関係という事が二人をより緊密にさせることが出来る。つまり秘密にしていた真の理由はヘルガをあるがままにして置きたかったと考えることが、もっとも合理的・芸術的な解釈である。ヘルガがワイエスのモデルと知られることは、二人の平穏な関係を乱すことになることはいうまでない。こうして名作ヘルガシリーズが生まれたのである。」(松田ひろむ)クリックよろしくクリックよろしく