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缶詰

缶詰

ザンスクss・・・?

 金でも女でもない。
 名誉も賞賛も、安楽も平穏も欲しくない。
 自分が一番、願うのは。


『最後の願い』


「スクアーロの欲しいモノってなぁに?」

 再び日本へ降り立つ数時間前。それは空の上でのことだった。
「…あ″あ″?なんだそりゃぁ″」
 通路の途中で呼び止められた。
 唐突に『晴』の守護者から放られた言葉に、スクアーロは片眉を吊り上げた。
 するとルッスーリアは、スクアーロの鼻頭に貼られたテープをさして言う。
「あらんvv男前があがったわねんvvほれちゃいそうよvv」
「…用件はそれかぁ″?」
 剣を構えるスクアーロに、オカマは怒っちゃやーんvvと身をくねらせる。
 スクアーロはオカマが嫌いだった。ただでさえ、飛行機で出立する数時間前の出来事を引きずり、腹の虫が収まらないのに。最悪だった。
「だ・か・らぁvv」
 ルッスーリアは、常に立っている小指をふりふり、質問を繰り返す。
「もし、もしもよ?ボスからご褒美がもらえるとしたら、スクちゃんは何が欲しいの?」
「あ″ぁ″!?誰がスクちゃんだぁ″!」
 ふざけたオカマの言動に、何かがプツンと切れる寸前。
「なにナニ?何の話~?」
 少し離れた座席で、大して面白くもなさそうにトランプの札を繰っていたベルフェゴールが尋ねる。
「なんでそんなこと聞いてんのさ、ルッスーリア?はいマーモン。一枚引いて」
「だってぇー、最初に言ったのはスクちゃんよ?」
「あ″ぁ″!?」
「そういえば、そんなこと言ってたね。あ。ボクあがり」
 ベルの向かいにちょこんと座り、カードの山に自分の手持ちを放り投げたマーモンが会話に加わる。
「あ。このクソちび…そうそう!ニセの指輪つかまされたってのに、得意げに『ボス!褒美ならありがたくいただくぜ、う″ぉ″い″』だもんな!」
 スクアーロの口調をマネたベルは、ダセェッと笑った。
 もちろんそれは、スクアーロの逆鱗に触れる。
「あ″ぁ″!?三枚におろされてぇ″のかぁ″!?」
「いいねー!…ヤる?」
 ケンカしちゃダメよーと言うオカマの言葉など、スクアーロとベルに届きはしない。
 しかし、
「ボクは止めないけどさ、またボスに叱られてもいいの?」
 と言う、マーモンの冷めた言葉に、スクアーロは構えた刃を止めた。
 スクアーロのボスは守護者たちとは別に、この飛行機の中で最も豪勢な一角を一人占めしている。
 しかしそこは同じ機内。騒ぎになれば、二人まとめて粛清されるのは明らかだ。ボスはそういう男だった。
「…ちっ″!」
 打ちつけられた顔面は未だにうずくが、スクアーロにとって、ボスはボスだった。
「ざーんねーん♪」
 それはベルも同じなのか、カードの裏に隠していたナイフを、あっさりと懐にしまった。
「で、スクちゃんの欲しい物って?」
 ルッスーリアが、話題を元に戻す。
「そういうルッスーリアこそ、何が欲しいの?俺もあがりー」
「私?私はもっちろん!!いい男とバカンスに行きたいわぁvv」
 聞かなければよかった。うっとり両の手を組むオカマの願いは、多分誰も知りたくなかった。
「じゃあ、ベルが欲しいモノってなんだい?」
「えー。俺王子だから、欲しいものは自分で手に入っちゃうんだよねー」
 ベルは、でもボスとマジ勝負で戦わせてくれるってんならそれがいいなーと、唇の端をつり上げる。一瞬、前髪の下に隠れて見えない目が、殺気を放つ。
「君らしいね」
「そういうマーモンは何が欲しいのさ」
 マーモンは、赤ん坊にはふさわしくない仕草で、小さく肩をすくめる。
「ボクも欲しい物は特にないな。この仕事に見合った報酬を払ってもらえたら文句はないさ」
「欲がないのかあり過ぎなのか分かんないわねー」
「じゃあさ」
 ベルは幾分声を抑えて言う。
「アイツのお願いって何だろう?」
「アイツ?」
「アイツだよ。いつもマスクした」
「あぁ。ゴーラかい?」
 『雲』の守護者であるゴーラ・モスカは、機内でも唯一、ボスの側に控えることを許されている。
 しかし幹部にさえ素顔をさらさない、無言の男の願いなど、スクアーロはもちろん、誰も想像できない。
「誰か聞いてきたらいいんじゃねえ?」
「でも、答えてくれるかしらン?」
「もし答えても、彼はキュンキュンとしか言わないから聞き取ることは不可能だよ」
 マーモン仲いいんじゃないのー?と言うベルに、ボクも彼のことはよく知らないな、彼の手のひらは居心地がいいけどね、と答えるマーモン。
 彼らがゴーラの欲しい物について勝手な推測を繰り広げる中、ルッスーリアはもう一人の男に話を振る。
「で。レヴィは何が欲しいの?」
「お、俺っ?」
 最後に自分の手元に残ったジョーカーを呆然とながめていたレヴィが顔をあげる。
「そうよんvvボスがなーんでも!欲しい物をくれるって言ったら?」
「ボスが…なんでも…」
 その言葉に、レヴィは夢見る少女のように恍惚とした表情をする。厳つい顔の男が頬を染める様子は見物だった。色々な意味で。
「レヴィ~?」
「…はっ!?」
 我に返ったレヴィは自分の体を抱いて半歩退く。
「そ、そんなことはどうでもいいだろうっ」
 その、日記をのぞき見られた少女のような反応に、マーモンと顔を見合わせたベルがニタリと笑う。
「へ~?勝負で負けたクセにそういうこと言うんだ~?」
「た、たかがトランプじゃないか!?」
「トランプ勝負の勝者に意見するんだ?仮にもヴァリアーの幹部で『雷』の守護者の君がそんなんじゃ、部下に示しがつかないんじゃないの?」
「うっ!?」
 じりじりと包囲されるレヴィ。おそらく、ゲロるのは時間の問題だ。
「…けっ″」
 ボスに心酔するこの男の願いなど、分かりきっている。興味もない。スクアーロは髪を翻した。
「ちょっとスクちゃん?結局、スクちゃんの欲しい物ってなんなのー」
「スクちゃん呼ぶなぁ″!…俺は特にないぜぇ″」
「ふーん…つまんないわねー」
 レヴィをイジって遊び始めた一同は、それ以上の追及をしてこなかった。
 自分の座席に戻ったスクアーロは、勢いよくイスに体を沈める。日本に到着するまで、まだ時間はある。当初の予定通り、仮眠を取るつもりだった。
 ふいに。通路の向こうが目に入った。
 しきり一つ隔てた先に、あの男はいる。
 ふと思う。あの男が何を願うか。
 今回の仕事か。あの「計画」を成功させることか。その先にあるものか。
 いや…
 そもそもあの男に、願いはあるのか?
「…くだらねぇ″」
 そんな女々しい物思いに沈む自分を恥じる。鼻頭に貼られたテープを勢いよくはがして捨てた。
 固く目を閉じる代わりにアイマスクをして、闇を招いた。
 あの男が何を願っても、スクアーロの願いは変わらない。

 あの時と同じ。
 闇に落ちていく中で、思う。
 金も女もいらない。
 名誉も賞賛も、安楽も平穏も欲しくない。
 ただ…
 ただ、あの男の願いを叶えること。
 あの誇り高い男が生きることを。
 澄み切った大空を、高く舞う鳥のように、自由に生きることを。
 そのために、あの男と生きることを、見届けることを、自分に定めた。
 だから。
 闇に落ちていく中、手のひらを閉じて願う代わりに、目を開く。
 そして襲いかかる闇に、牙を向けるのだ。


『・・・むしろスクss。その補完。』に続く。


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