クリスマス-イヴイヴ(晴&雷)『12月23日、笹川了平の場合。』ある夕方のことです。 明日はクリスマスイヴです。町では誰も彼もが、クリスマスだイヴだと浮かれています。 しかしそんなバカ騒ぎも、笹川さんちの了平お兄さんには関係ありませんでした。 町に出かけてもケーキなど買うワケもなく、踊る赤や緑、金や銀の光に目もくれず走り抜けます。 今日も今日とて、了平お兄さんの頭は「極限!」でいっぱいだったのです。 「京子!今帰ったぞ!」 了平お兄さんは、トレーニングの後の心地よい汗を首にかけたタオルでぬぐいます。 「おかえりなさい、お兄ちゃん」 パタパタと、家の奥から足音。妹の京子ちゃんがエプロン姿で、玄関まで出迎えてくれます。 「遅かったなコラ」 と、京子ちゃんに続いて、ばさばさと羽音が。 「む。コロネロ師匠も来ていらしていたのか?」 「いちゃ悪いかコラ」 ファルコに運ばれるお兄さんの師匠のコロネロくんは、不機嫌そうに答えました。しかし、それがこの師匠の「ふつう」だと知っているので、お兄さんは気にしません。 「今日はなんのご用でこちらへ…?はっ!またオレを鍛え直してくださるのか!?」 お兄さんの瞳は期待でギラギラ輝きますが、 「残念ながら違うぜコラ」 「今日はコロネロくん、ケーキ作りを手伝いに来てくれたんだよ」 京子ちゃんがニコニコ笑います。そういえば台所の方から甘い甘い香りが漂ってきますし、コロネロくんのほっぺたにはクリームがついています。 「なかなかうまいぞコラ」 「クッキーも焼いたんだよ。お兄ちゃんも味見する?」 「む?なぜそんなに大量の砂糖のカタマリを作ってるんだ?」 京子ちゃんは、そんなことを聞かれるのが不思議みたいに答えました。 「だって明日はクリスマスイヴだよ?」 「?だから?」 「パーティーに呼ばれしてるから、プレゼント用だよ」 「そうかそうか。よかったな。楽しんでこい」 すると京子ちゃんは目を丸くします。 「何言ってるの。お兄ちゃんも行くんだよ?」 「なにぃっ!?」 了平お兄さんはくわっ!とほえます。 「オレは行かんぞ!そんな軟弱者たちの集会など!」 「えー!」 京子ちゃんは非難の声をあげます。女の子の京子ちゃんにとって、クリスマスに興味のない人がいる方が信じられないことでした。 「プレゼントだってもらえるし、ごちそうもいっぱい出るんだよ?」 「いらん!オレはチキンが嫌いだっ!」 なぜなら弱虫=チキンだから!と了平お兄さん、ワケの分からない自論を展開します。 「大体、世間にクリスマスなぞとワケの分からんものがあるから悪党も暗躍するんだ!手配書を見たか?“さんたくろーす”になりすましたドロボウがこの近辺を荒し回ってることは!」 「もう!そんなのクリスマスのせいでもサンタさんのせいでもないよー」 しかしお兄さんは、一度言い出したら簡単に自分を曲げる人ではありません。 「とにかくオレは行かんからな!」 お兄さんのダダに、京子ちゃんは困った表情です。 「放っておけ、京子」 するとコロネロくんが京子ちゃんの肩に手を置きます。 「コロネロくんっ」 京子ちゃんとは対照的に、お兄さんは顔を輝かせます。 「おお!師匠は分かってくださるか!」 「ああ。おまえがそこまで言うならしかたない。了平は明日、留守番してろコラ」 さすが師匠だ!と、お兄さんは感動しました。ところが… 「しかし残念だぜコラ」 「?なぜ?」 コロネロくんはクッキーのくずがついた口の端を、にやりとつり上げました。 「せっかくのツナからの誘いなのになコラ」 お兄さんは目をぱちくり。京子ちゃんに尋ねます。 「…パーティーとやらは沢田の家で行われるのか」 「そうだよ」 「…なら行かねばならんな、うん」 「え?」 「は!ならばオレも手ぶらというワケにはいかん!」 了平お兄さん、先ほどの主張はどこへやら。「極限プレゼント探し!」と一声叫ぶと、2階へ駆け上っていきました。 後に残された京子ちゃんはあっけに取られていました。 「…コロネロくんってすごいよね」 「了平を連れて行かないとうるさいヤツがいるからな」 「そうなんだ?」 京子ちゃんはふふふと、柔らかく笑いました。 「ほんと、お兄ちゃんも、ツナくんのこと大好きだね」 翌日、沢田さんのおうちに笹川さんちの京子ちゃんと了平お兄さんが訪れたかどうか。 「うまくできたか分からないけど…」とさし出された手作りのお菓子と、「使い込んだ物の方が手になじむんだ!」とさし出されたお古のグローブの、どちらがプレゼントとして喜ばれたか。 それはまた、別のお話。 『12月23日、ランボの場合。』 ある夕方のことです。 明日はクリスマスイヴです。 笹川さんのおうちで了平お兄さんが、プレゼント探しに部屋をひっくり返している頃、沢田さんのおうちでは奈々お母さんが、鼻歌まじりで明日のパーティーのごちそうをテーブルの上に並べていました。 「ママン、ご機嫌ね」 「ふふ。だって今年はお父さんも一緒に過ごせるもの」 ビアンキお姉さんも負けられないとばかりにはりきって、台所には紫色のけむりが充満します。 するとイーピンちゃんが台所に飛び込んできました。ひどくあわてた様子で、お母さんの足もとに隠れるように回りこみます。 「イーピンちゃん?どうしたの?」 するとイーピンちゃんに続いて現れたのは、電飾や綿、モールを全身に巻きつけたモジャモジャの子ども、ランボくんでした。 「クリスマスツリーのおばけだぞぉ~?まてまてぇー!」 ド近眼のイーピンちゃんを、おばけになりすましたランボくんが追い回すのは、沢田さんのおうちではおなじみの光景です。 「待たんかオラァッ…あ。」 その直後、体にモールを足で踏んづけたランボくんが、コケるのもおなじみでした。 「が、が・ま・ん…ぐぴゃあぁー!」 「バカ牛」 泣き出したランボくんに、ビアンキお姉さんは容赦なく吐き捨てます。 「あらあらランボくんったら」 すぐに奈々お母さんが、からまった電飾やモールを取り外してランボくんを救出します。 「しかもこんなにたくさん…ダメじゃないの」 とモジャモジャから転がり出た大量の飾りたちも没収します。 いつもの牛柄に戻ったランボくんは鼻をすすります。 「ランボくん、これはツリーに飾るものなのよ?」 「だってツリーなんてどこにもないぞ。それならオレっちに巻いた方がきれいだもんね!」 「ツリーは今、ツナとお父さんがとりに行ってるの」 綱吉くんは今朝早く、家光お父さんと仲良く元気良く、出かけました。…事実はともかく、奈々お母さんの目にはそう映ったので。 「あんまり悪い子になってたら、サンタさんがプレゼント持ってきてくれないわよ?」 「うそだもんね!」 奈々お母さんのさとすような説明に、ランボくんはあっかんべーをします。 「オレっち知ってるもんね!サンタの正体はドロボウなんだもんね!」 それは、最近指名手配されているサンタクロースに扮装したドロボウのことでしょう。困ったことです。 「そうね。世の中にはそんなサンタさんもいるわ。けど、本物のサンタさんはそんなことしないのよ。いい子のことはちゃんと見ていてくれて、プレゼントを届けてくれるわ」 これが優しい奈々お母さんの言うことだから、ランボくんは疑いながらも顔をあげます。 「…ホントに?」 「本当よ」 「…じゃあ、オレっち、お手伝いするもんね!」 ランボくんが分かってくれたので、お母さんはうれしそうに笑いました。 「じゃあみんなでツリーを飾りましょうね」 「それにしても…肝心のツリーが遅いわね」 壁にかかった時計を見て、ビアンキお姉さんがつぶやきます。 「そうねー。今日中に飾りつけないと大変なことになるのに…」 大人の「大変」という言葉は、子どもに不安を与えます。 「たいへんってなんだ?なにがたいへんなんだ?」 ランボくんは尋ねます。イーピンちゃんまで、不安そうな顔で見上げます。 奈々お母さんは、まるでないしょのお話をする時のように、声をひそめます。 「知ってる?クリスマスツリーはイヴまでに飾らないと、そのおうちの子どもが“いきおくれる”のよ」 「いきおくれる?なんだそれ?ツナ、どこにチコクするんだ?」 ランボくんは初めて聞く言葉に首をかしげます。 「つまりね、ツッくんはいつか、一番好きな誰かと結婚して、このおうちを出ていくのよ。でも、それができないと、ツッくんがずぅっとウチにいるのよ?」 それがどうして大変なのか、ランボくんもイーピンちゃんも首をかしげます。 「ツッくんがずっとうちにいたら部屋が空かないでしょ?部屋が空かないと、ランボくんとイーピンちゃん、ずっと同じ部屋なのよ?」 イーピンちゃんが微妙にイヤそうな顔をしました。 「それがいやだったら、モミの木をみんなで飾りつけましょうね!」 最後に奈々お母さんがまとめます。が。 「…ママン、それはひな祭りじゃないの?」 ビアンキお姉さんが冷静にツッこみました。 「あら?」 「しかも女の子限定」 「え?え?でもお父さんが」 一方のランボくん、黙って話を聞いていました。そして考えていました。 奈々お母さんが混乱する中、こっそり台所から抜け出すと、誰も見ていないことを確認します。 ランボくんはモジャモジャから、たったひとつ没収されなかった飾りを取り出します。 「…ランボさんのモジャモジャは~♪ネコガタロボットのポッケよりすごいんだもんね!」 そうして、一番大切な飾りを――ツリーのてっぺんに乗せる銀の星を、モジャモジャのさらに奥へ隠しました。 もうこれで大丈夫です。綱吉くんがどこかへ行くことはないと、ランボくんは安心しました。 その後、綱吉くんがツリーにふさわしいモミの木を無事とってこれたのか。 またお星さまを隠したランボくんが、綱吉くんの家庭教師から制裁を加えられなかったか。 それはまた、別のお話。 ジャンル別一覧
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