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缶詰

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   -イヴ(嵐+雨&霧)


『12月24日、獄寺隼人と山本武の場合。』

 ある昼さがりのことです。
 今日はクリスマスイヴです。
 沢田さんのおうちではクリスマスパーティーの準備が着々と進んでいる頃、山本さんのおうちの2階では、武くんが真剣な顔で言いました。
「なぁ獄寺…もういいだろ?」
「ちょ…ちょっと待て!まだ心の準備が…っ」
 隼人くんは頬を赤く染め、武くんを拒みます。
 しかし武くんにも余裕はありませんでした。
「もう待てねぇよ…入るぞ…!」
「ま、まて…やまも……ぎゃー!!」
 そして扉が開きました。

 …ことわっておきますが、開かれた扉は天国の扉ではありません。念のため…。
「なんだ、着てるじゃん」
 武くんは隼人くんの頭の先からつま先まで検分しました。
「見るな!」
 そうしたって隠れるはずもないのに、隼人くんが体を縮めます。
 武くんはおかしいように首をすくめます。
「なんで?似合ってるじゃん、トナカイ」
 そうなのです。今日の隼人くん、全身を茶色のトナカイスーツで包んでいたのです。
 この衣装を手渡した時の隼人くんのフリーズ具合は、武くんの予想通りでした。しかし、まさか着替えに行った武くんの部屋で籠城するとは思いもしませんでした。
「気持ちは分かるけどな。サイズがなかったんだからしょうがないだろ?そんなにスネるなよ」
「冗談じゃねぇよ!」
 隼人くんはずびし!と、武くんを指さします。
「だいたいなんでオレがトナカイで!テメェがサンタクロースなんだっ!」
 そうなのです。隼人くんがトナカイ。ならば、今日の武くんはサンタクロースなのです。
 しかし、さすがはさわやか少年の武くんです。ボールみたいな体型のおじさんの服でさえ着こなしています。
 「さすがはオレの息子!これなら近頃うろちょろしてるドロボウなんぞにゃ間違われないぜ!」と、つよしお父さんのお墨付きです。
 ちなみに隼人くんのトナカイは似合わないワケではありません。むしろ似合いすぎているところに問題がありました。
「んー…」
 武くんは少し考えるそぶりをします。
「やっぱりツリーの方がよかったか?」
 今回の衣装担当をした武くん、実はもう一着用意していたのです。それは幹の部分から顔を出すクリスマスツリーきぐるみです。
「んッなわけあるかッ!あんなモン着れるかボケッ!」
「けっこう自信作なのになー」
 衣装作りを担当したつよしお父さんの、です。
「そんな自信いらねぇよ!」
「そうカリカリすんな。牛乳飲むか?」
「だから…」
 クリスマスになんで牛乳?隼人くんは怒鳴る気力すら萎えたように、がくりとヒザをつきました。
「ああ…こんな格好…十代目にさらすくらいならいっそ…っ」
 パーティーをサボったファミリーに対する制裁ははかりしれません。それでも隼人くんは逃げ出したいみたいです。今にも泣きそうです。
 すると武くんが、その肩に手を置きます。
「そう落ち込むなよ、獄寺。早くツナんち行こうぜ?」
 ちらりと時計を見て、武くんは隼人くんをせかします。指定された時間まで、あと少しです。
「きっとツナが待ってるぜ…?」
「山本…」
 もっとも武くんとしては、隼人くんが来なくてもかまいはしないのですが。むしろ来なくていいのですが。
 そんな本音を言葉の外に放ったのに、「その場の空気が読めない男」ランキング上位の隼人くんには通じませんでした。
「そうだ…十代目がオレを…!」
 隼人くんはプレゼント(注:ポインセチアの鉢)を持ち、すっくと立ち上がりました。
「ぐずぐずすんな山本!」
「…おう」
 武くんはさわやかに笑って応じます。内心、舌打ちしながらも、です。
「待っていて下さい十代目!」
「あ。獄寺ー、忘れモン」
「あぁ?」
 武くんが隼人くんに手渡したのは、赤いボールのような物体。
 武くんはにっこりと、それはさわやかに笑い頷きました。
「トナカイにはやっぱ、赤い鼻だよな。うん」
 赤鼻を受け取った隼人くんの手が震えました。
「…んなモンつけれるかー!!」
 隼人くんは怒りに任せ、ダイナマイトと一緒に赤鼻を投げつけました。
 もちろん武くんが相手ですから、当たるはずはないですが。

「おーい、武ぃー。ツナくんちに、寿司持ってくんだろー?」
「おう。オヤジ、あんがと!」
「それからやんちゃはほどほどになー」
 そうして笑ってすませてしまう剛お父さんは、やっぱり武くんのお父さんでした。

 その後、獄寺くんが赤鼻をつけたのか。
 またトナカイスーツやサンタスーツがいやにぴったりだったのはなぜなのか。
 それはまた、別のお話。


『12月24日、六道骸の場合。』

 ある昼さがりのことです。
 今日はクリスマスイヴです。
 山本さんのおうちで隼人くんがブチ切れカウントダウンをしている頃、黒曜町内に建つとあるビルの一室では、骸さんたちが殺風景なアジトにクリスマスツリーを飾りつけているところでした。
 ふいに手を止めた骸さんは、時計を見ました。
「おや、もうこんな時間ですか。そろそろ出ないと間に合いませんね」
「骸様…本当にその格好で出かけられるので?」
 すると骸さんの部下の千種くんが尋ねます。いつも以上に暗い表情です。
「そうですが…何か問題でも?」
「非常に問題があるかと」
 するともう一人の部下・犬くんが、骸さんの腕にすがりつきます。
「骸しゃんっ思い直してくだしゃい!」
「どうしたんですか、犬?」
「らってっ、今日はあいつらからの誘いれしょ!?オレらは仲間じゃないし、行く義理なんてないれすよ!それにっ…」
「それに?」

「骸しゃんがそんな格好してるとこ、見られたくないれすー!」


 そう言って犬くんは、とうとう泣き出してしまいました。

 そうです。今日の骸さんは、刺激的です。なんたって真っ赤なミニスカサンタですから。
 骸さんは自分の姿を見おろして、不思議そうに首をかしげます。
「どうしてですか?こんなに似合っているのに…」
 確かに骸さんのミニスカサンタは似合っていました。しかし問題は、それを骸さんが当然だと思っているところだったりします。
「骸様、捕まりますよ」
 最近、この近所でもサンタクロースの扮装をしたドロボウが出没しているそうで、警察のパトロールは普段より多いようです。
 もっとも骸さんに対する罪状が窃盗罪でないことは確実ですが。
「クフフ、問題ありません。この僕が、一介の警官風情に捕らえられるとでも?」
「でも…骸しゃんっ」
 確かにそうではあります。それでも犬くんは言い募ります。
「犬、せっかくクロームがやりたいと言ったんですよ?」
 そう言いながら骸さん、瞬時にクロームちゃんの姿に早変わり。
「めったにわがままを言わないクロームのお願い…叶えたくないですか?」
「う゛…」
 今回、サンタコスプレをしようと言いだしたのはクロームちゃんでした。
 いつも何を考えているか分からないクロームちゃんですが、コンクリートの壁にかけられたカレンダーには、今日の日付に赤丸がしてあります。
「それにこれ、作ったのは千種でしょう?」
 骸さんは真っ赤なサンタスーツを、まるで大切なもののようになでます。
「骸様…」
 千種くんは感動しました。メガネで隠れて見えませんが、大きなクマのできた瞳から涙が一粒。
 クロームちゃんも犬くんに反対されることが分かっていたのか、こっそりサンタクロースの衣装を用意するつもりのようでした。しかし針と糸を構えたクロームちゃんの手つきはあまりにたどたどしく、見かねた千種くんがこっそり、今日のために夜なべしたのです。
 そんな努力を見ていてくれただけで、千種くんは胸がいっぱいでした。
 それは犬くんにも伝わったようです。
「む、骸しゃんがそこまで言うんなら…」
 いつの間にか元の姿に戻った骸さんはにっこり笑いました。
「分かってくれたならいいのですよ、犬。それに…」
「それに?」
 骸さんは「クフフ」と笑いながら、鏡の前でくるりと一回転。見事なポージングを決めます。
「それにこの僕が、もっさいズボンはいてヒゲなんてつけたら、かっこ悪いじゃないですか!」
 そんな姿、綱吉くんに見せられるわけないでしょう?そう言う骸さんは、やっぱり骸さんなのでした。
 そうです。犬くんと千種くんは一番肝心なことを忘れています。サンタクロースのコスプレをしたがったのはクロームちゃんであって、骸さんがミニスカサンタになる必要性は全くないのです。
「というわけで犬!これを着なさい」
「えーっ!?」
 骸さんが差し出したのは、トナカイの全身スーツでした。
「いやれすっ!オレこんなの着たくないれすっ」
「わがまま言うんじゃありません。見なさい!千種はすでに着用済みですよ!?」
「かか、柿ピー!?」
 振り返ると、すでに千種くんはもっさい全身トナカイスーツに身を包んでいました。
「あとは犬だけなんですよ。さぁ、千種、犬を押さえておいて下さい!」
「はい…」
 千種くんはメガネを押し上げ骸さんの命令に従います。
「柿ピーの裏切りモン!や、やめ…きゃ、きゃい~んっ!」

「クフフ。やっぱりトナカイは二頭立てじゃないといけませんね」
 と骸さんは、とても上機嫌で笑いました。

 その後、犬くんがトナカイスーツを着たかどうか。
 そして骸さん一行が沢田さんのおうちの前で、同じようにサンタとトナカイのコスプレをした武くんと隼人くんに鉢合わせし、一触即発となったかどうか。
 それもまた、別のお話。


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