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缶詰

缶詰

   -後編

〈果てしなくどうでもいい、前編のあらすじ。〉

 元旦の朝。沢田家へ新年のあいさつに向かう獄寺くんはその途中、偶然合流したディーノさんに「ヒメハジメって何?」という質問をされます。
 青少年の恥じらい故にシラを切る獄寺くん。ところが彼の最愛のボス・ツナくんに、野球バカ・山本武くんの魔の手が迫っていることを知ります。
 沢田さんのおうちに急ぐ獄寺くん。しかし思わぬ伏兵の存在を、この時の獄寺くんは知る由もなかったのでした…


「十代目ー!」
 獄寺くんは玄関を勢いよく開けました。するとそこにビアンキお姉さんが立っていたのです。
「あらハヤト。よく来たわね」
「あ、姉貴ー!?」


『ヒメハジメ!?・後編』


「ぶげふっ!」
 例によって例のごとく、天敵・ビアンキお姉さんを視界に入れた獄寺くん、倒れてしまいました。
「は、腹が…!」
「まぁハヤト!大丈夫?しっかりしてっ」
「げはっ!」
 ビアンキお姉さんが獄寺くんに手をさしのべますが、もちろん逆効果です。
「先に行くぞ、スモーキンボム!」
 すると追いついたディーノさん、玄関に倒れ伏す獄寺くんの背中をしっかり踏んで、越えていきます。
「ぷぎゅ!」
「すまん!おまえの尊い犠牲は忘れねぇ!」
「ま、まて…このっ」
 しかしここに来るまでだけですでに5回、何もないところに顔面からコケているディーノさんです。案の定、階段の三段目のでコケてしまいました。しかも落下先は獄寺くんの上です。
「ぐもっ!ど、どけっ跳ね馬!」
 しかしディーノさんは目を回して気絶したようで、獄寺くんはその下でもがきます。
「あらあら獄寺くん!いらっしゃい。ディーノくんも」
 と、ツナくんのお母さん・奈々さんが、ニコニコと来訪者を出迎えます。玄関で折り重なる獄寺くんとディーノさんにも動じません。
「明けましておめでとうございます」
「お、おめでとうございます…」
「もう山本くんも来てるわよ。お茶持っていくから部屋にあがって待っていて」
 フフと花のように笑う奈々お母さんに続いて、「手伝うわ、ママン」とビアンキお姉さんも奥に退散。このスキに…とディーノさんを押し退け、獄寺くんは進みます。
「うぷ…十代、目ぇ…今参ります…!」
 とてつもない音で鳴るお腹もそのままに、這いずりながら階段を登ります。なぜそこまでできるのか?それはもちろん、彼の愛しの十代目の危機だからです。
 なんとか階段を登りきり、ツナくんの部屋の前までたどり着くと、閉じた扉越しに声が聞こえてきました。
「やだ…山本っ…やめ…っ…」
「十代目…!?」
 間髪入れずに部屋に飛び込みます。
「十代目っ!ご無事ですか!?」
「獄寺!」
 山本くんが振り返ります。その足元には見覚えのある衣服が散らかっていますが、服の持ち主の姿が見あたりません。
「ご、獄寺くん、いらっしゃい」
 するとツナくんは部屋の隅、カーテンにくるまってぎこちなく笑っていました。その顔は赤く、目元が涙で光っています。
 やはり恐れていた事態が起こったようです。獄寺くんの頭に血が登ります。
「てめぇ…十代目に何しやがった!?」
「オレは別に…」
 山本くんのえり首をつかむと、バツが悪そうに目を泳がせます。
「十代目!オレが来たからにはもう大丈夫です!こちらへっ」
 しかしツナくんは首を横に振ります。
「十代目!?」
「ダ、ダメダメ!こっち来ないで…!」
「十代目…」
 それは獄寺くんの目には痛々しい姿に写り、怒りは元凶である山本くんに向かいます。
「山本…てめぇ果たす…!」
「え?おいおい、待てって!」
 言い訳は無用。ライターもダイナマイトも準備済です。
「ちょ…待ってっ獄寺くんっ!」
 山本くんをかばうように、ツナくんがカーテンから飛び出します。
「十代目は下がっ…てえぇー!?」
 その姿を目にした瞬間、獄寺くんは構えたダイナマイトを取り落としました。

 なぜならツナくんは、鮮やかな振り袖を着ていたのです。
 髪には花飾りまでつけて、それはそれは愛らしい姿です。
 映像でお見せできないのが残念デス。
 あまりに予想外なその姿に、獄寺くんは見事、戦意喪失しました。
「じゅ、十代目!そ、そのお姿は…!?」
「何言ってんだよ?ヒメハジメに決まってんだろ?」
 山本くんがケロリとした顔で言います。
「…はぁーっ!?」
「だから来ないでって言ったのにッ!」
 恥ずかしげに頬を染める姿もさらに萌え…ではなく、抱きしめたいくらいの愛らしさです。山本くんをニラむ涙目には別の威力があります。
「だいたい、なんで新年に女装するのをヒメハジメって言うんだよっ」
「知らねぇのツナ?昔はこうして新年に女装するのが魔除けになるって信じられてたんだぜ?」
「そ、そうなの?」
 信用しないで下さい十代目!…とは、獄寺くんには言えませんでした。
「あらあら!似合うじゃないの、ツッくん」
 いつの間にかジュースやお菓子をのせたお盆を持って現れた奈々お母さんは笑っています。
「昔私が着てた振り袖だけどビアンキちゃんじゃサイズが小さいし、イーピンちゃんにはまだ早すぎるからあきらめてたんだけど」
「冗談じゃないよ母さん!着付けまで手伝って、息子にこんなことして楽しいか!?」
「え。楽しいわよ?」
 奈々お母さんの答えに、ツナくんはがっくりと肩を落とします。
「ありがとう山本くん」
「いえいえ」
 発案者の山本くんはニコニコと答えます。
 獄寺くん、思わず脱力してヘタリこみました。いえ、ツナくんの愛らしい姿が見れたのはうれしいですが。
「そっかそっか。これがヒメハジメかぁ!」
 やっぱり遅れて入ってきたディーノさんが、納得したように頷いています。獄寺くん、誤解を解く気力すら残っていませんでした。
 さてと…と、山本くんがコキコキ首を回します。
「獄寺もヒメハジメすっか?」
「はぁっ!?な、なんでオレまで!」
「なんでって…みんな着てるから?」
 はっ!と周りを見回すと、着物を着ているのはツナくんだけではありませんでした。
「イーピン!?ランキング小僧…!アホ牛にリボーンさんまで!?」
 みんな色とりどりの着物(やっぱり女物)を着て、おせちをつまんでは正月遊びをして笑っています。重ね重ね申し訳ありませんが、映像でお送りできないのが残念デス。
 山本くんがにやりと笑います。
「あとは獄寺だけだぜ?」
「…ア、アホかー!オレがこんなモン着れっかぁー!!」
「聞き分けのない子ね、ハヤト」
「ぼぶはっ!」
 奈々お母さんに続いて現れたビアンキお姉さんも、もちろん着物(自前)を着ています。そして手にしているのは色鮮やかな着物です。
「せっかく私が選んであげたんだから、大人しく着なさい。さ、山本武。私が押さえてあげるから、そのスキにハヤトに着物を」
「りょーかい」
「や、やめ…ぷぎゅっ」
「あ、あの本人が嫌がってるんだから止めた方が…」
 振り袖姿のツナくんが、唯一常識人らしく止めます。
「大丈夫!オレも後で着るからよ」
「そういう問題じゃ…って、山本も着るのー!?」
「そんで、後でみんなで記念撮影しようぜ」
「や…やめろー!!」
 そして沢田家に今年も、獄寺くんの叫びと山本くんの笑い声が響きました。


 その後、沢田家のアルバムに、なぜか集まった全員が女物の着物を着た写真が一枚加わったこと。
 それに写ったツナくんや獄寺くんや山本くんの表情は、言うまでもありません。


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