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缶詰

缶詰

ひな祭りss

※パラレル(別人だぜぇ!)注意報発令!





 昔々のおはなし……ではありません。





『かぐや27、竹やぶにて拾われる。』





 竹やぶに囲まれた、質素なそのおうちには、おじいさんとおばあさん……ではなく、二人の若い男の人が暮らしていました。

 一人の名前はXANXUSさん。顔に傷のあって目つきの悪い、赤い瞳のお兄さんです。

 もう一人の名前はS.スクアーロさん。長い長い銀髪の、やっぱり目つきの悪いお兄さんです。

 二人は人には言えない裏の仕事をさんざんして、手袋をしたネズミのいるテーマパークの2、3個くらい買い取れるくらいまでお金を貯めた後、裏稼業を引退しました。その後は悠々自適の隠居生活を営んでいます。

 隠居した二人は毎朝、じゃんけんをします。その日の朝昼晩の食事の支度、皿洗い、掃除、洗濯などの当番を決めるためです。

 でもザンザスさんはとんでもなくじゃんけんが強かったので、いつもスクアーロさんがほとんどの当番をこなしていました。

 たまにまぐれでスクアーロさんが勝つことはありました。

 しかしいつも、こぶしを振りあげて「よっしゃー!!」と喜んでいるスクアーロさんのスネを、ザンザスさんが「うるせぇ」と蹴り上げるので、いいことなしです。

 それだけではありません。ザンザスさんは毎日毎日、毎日毎日、卵焼きの塩加減を間違えたとか、障子のさんにホコリがたまっていたとか、ささいな理由でスクアーロさんを蹴ったり殴ったり、長い髪の毛を引っ張ったり馬乗りになったりしていました。

 その度にスクアーロさんは抗議しますが、「ウゼェ」とか「カスが口応えするんじゃねぇ」と言われて、さらに机へ顔をぶつけられるのが関の山でした。ザンザスさんは口の悪さも天下一品でした。

 たまに遊びに来る昔の仕事仲間は、そんなスクアーロさんの様子を見て「スクちゃん、辛かったらいつでも相談に乗るからねっ?」と手を握ったり、「ウケケ。円形脱毛症になったら相談乗ってやるぜ?」と育毛剤のチラシなどを渡してくれます。

 しかしザンザスさん……はともかく…スクアーロさんは「机に足を乗せるな゛ぁ!」と当然の注意しても物を投げてくるようなザンザスさんに腹を立てつつも、「実家に帰らせていただきます」と書置きを残して出て行くことはありませんでした。

 二人は自分たちがなぜ一緒にいるのか知りません。知る必要もないことでした。





 そんなある日の夜、二人は近くのコンビニに出かけました。

 スクアーロさんが明日の朝食べるパンがないことに気がついたからです。

 近所のスーパーはすでに閉まっている時間だったので、しかたなく一番近くのコンビニまで行くことにしたのです。

 すると、それまで横になってテレビを見ていたザンザスさんがのっそりと起き上がり、「アイスだ。新製品だ」と言いながらついて来ました。

 二人が一緒に出かけるのは、大変珍しいことでした。

 その帰り道、二人は竹やぶに囲まれた小道を抜けて、自分たちのおうちへ歩いていました。

 途中、ザンザスさんは買ったばかりのアイスを食べ終わって、その空のカップを捨てようとしました。

 それを見たスクアーロさんは「うお゛ぉ゛い!ゴミをポイ捨てするな゛ぁ!」と言いましたが、ゴミを拾おうと屈みこんだ途端、ザンザスさんにお尻を蹴られて竹やぶに頭からつっこみました。

 その時でした。竹やぶの向こうで何か光るのが見えました。

「なんだぁー?」

 その辺りにおうちはありません。スクアーロさんはいぶかしく思い、竹やぶをがさがさと分け入りました。後からザンザスさんも続きました。

 二人は暗い竹やぶの中を、ぼんやりと見える光を目指して進みました。1メートル先も見えないような暗闇の中を進むのは二人とも得意です。

 そうして二人は竹の生えていない、広けた場所に出ました。

 ちょうどよく、それまで曇っていた空が切れ、お月様がのぞきました。まんまるの満月です。

 ここで極東の土地にある昔話になぞらえるならば、そこで光っているのは竹のはずでした。

 しかし光っていたのは竹ではありませんでした。

「…おい」

「…なんだぁボス?」

「これはなんだ?」

「…見りゃあ分かんだろ?缶詰だ」

 そうです。光っていたのは缶詰でした。

「缶詰は光るのか?」

「光らねぇよ、フツーは」

 確かにそうです。しかもパッケージには商品の絵や名前がありません。代わりに「27」という数字が書いてあるだけでした。

「中身を確認しろ」

「なんでオレが!?」

 ザンザスさんはスクアーロさんの後頭部を殴りました。それでもスクアーロさんは、公平にじゃんけんを主張しました。

 しかし結果は、やっぱりザンザスさんの勝ちです。スクアーロさんが缶詰を開ける役目になりました。

 まどろっこしいのは苦手なので、缶詰が缶切りで開けるタイプではなく、プルトップで開けるタイプなのはありがたいことでした。

 プルトップを引くとすんなりと、ふたは開きました。

 すると缶詰の中からは、さらにまばゆい光があふれ、スクアーロさんの銀髪も、ザンザスさんの顔の傷も照らしました。

 スクアーロさんはごくりとのどを鳴らして、光の中におそるおそる、指を入れました。

「な、なんかふにゃふにゃしたモンが…」

「早くしろ、カス」

 覚悟を決めたスクアーロさんはゆっくりと、その柔らかくてふわふわしたものを取り出しました。

「…おい」

「…なんだぁボス?」

「それは、なんだ?」

 スクアーロさんの指の先。缶詰の中からつまみ上げたもの。



 ふわふわとした髪の毛。棒みたいな手と足は2本ずつ。指先から、まるで小さな生き物のような熱が伝わります。すやすやと穏やかな吐息に合わせ、裸の胸や肩が上下します。

 他は何も身につけていないのに、なぜかパンツ(しかもトランクスタイプ)はちゃんとはいていました。

 それは、ちょうど手のひらに乗るほど、小さな小さな人間でした。



「なんじゃこりゃあ゛ぁ゛っ゛!」

 スクアーロさんの叫びが竹やぶにこだましました。

 その声に反応したのか、ぴくりと、小さな顔の、閉じられたまぶたが動きました。

 ふたつのまぶたが持ち上がると、子どもを包んでいた光が消えていきます。光がおさまるのと同時に、子どもの体はぐんぐんと、大きくなり始めました。

「うぉ゛いっ!」

 慌ててスクアーロさんが子どもを支えようとするより先に、ザンザスさんが子どもを、片腕で抱き上げていました。

 子どもは目をこすりこすり、ザンザスさんの腕の中できょとんとしていました。瞳は髪と同じで、月の光の下でも甘い色をしていました。

 子どもは大きな甘い色の瞳を見開いて、ザンザスさんを見ました。ザンザスさんはその瞳をそらさず、じっと見つめていました。

 それからスクアーロさんを見ました。スクアーロさんは内心、恐い顔をしたザンザスさんを見て子どもが泣き出すのではないかと、はらはらしていました。

 すると子どもは、にっこりと笑いました。日だまりのような笑顔でした。

 とすん。


 スクアーロさんは、矢が突き刺さるような音を、自分の心臓辺りで聞きました。

 同時に、ザンザスさんの心臓からも、同じ音が聞こえました。

「…飼うぞ、これ」

「飼うって言うな゛ぁっ!」

 しかしザンザスさんはすでに背中を向け、おうちを目指して歩き始めていました。

 その片腕に抱かれて、子どもはきゃっきゃっと楽しそうに笑っていました。

 スクアーロさんは頭痛をこらえながら、やっぱりザンザスさんの背中を追いかけました。





 そして翌日、スクアーロさんは開店直後に育児雑誌を数冊、買いに行くハメになったとか、ならなかったとか。


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