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カテゴリ:ブックレビュー
2018年は怪談がブームになりました。
怪談ライブは大盛況であるらしく、稲川淳二をはじめとして、あるお笑い芸人がガチで怪談をする・・・なんていうのもあるそうです。 怪談が書かれている絵本なんていうのもあります。これに関しては、著名な作家が関わっているということです。私が知っている限りでは、京極夏彦・・・これは妖怪のスペシャリストですから当然といえば当然ですが、なんと恩田陸まで関わっているそうです。たしかに、新聞に連載中されている「スキマワラシ」でも、怪談じみた場面があったりします。 今回の物語は、そんな怪談ブームにのっかって読もうとした・・・わけでは決してありません。 実はこれ、京極夏彦の「どすこい(仮)」において、パロディー小説の餌食にされたものです。 その名も、京塚昌彦・名義による「土俵(リング)」。 読んだら必ず死ぬ・・・という、曰く付きの原稿を巡って、作家と編集者が駆け引きを繰り広げる・・・という内容のものです。 エラく不毛な駆け引き・・・といいますか、やりとりといいますか、そんなドタバタ劇を演じています。 この物語、続きがあるそうなのですが、元ネタである「リング」の続編を読むことにしておりますので、そのブックレビューでご披露したいと思っております。 あ、そうそう。 京極夏彦は、リングを「土俵」とイメージしていたのですが、同じ発想をした人間がもうひとりいます。 それが、今回の物語の解説を担当した板東齢人(ばんどう・としひこ)。馳星周(ハセセイシュウ)と同一人物・・・というか、本名です。 解説に、こんなことが書かれています。 自分でも短絡的すぎるよなあと思うのだが、タイトルを見て、「へえ、ファンタジーノベル出身の人がボクシングものを書くのかぁ」などという、まったく阿呆(あほう)な感想を抱きつつ手に取ったのだが、いくら『楽園』で感心したからといって、正直なところ、デビュー2作目の新人が、これほどまでの傑作をものするとは予想もしていなかった。 確かにリングといえばプロレスなどの戦いの場・・・という意味もあって間違ってはおりませんね。 ・・・ 9月に入ったばかりだというのに、それでも暑い夜中。 女子高生が勉強の休憩をしていた最中に、不可解な死に方をした。手には頭をかきむしったかのように髪の毛が残っていた。 同時刻、品川の路上でバイクの男が転倒した。その直後、ヘルメットを外そうともがいていたのだが、そのまま死亡した。 そればかりではない。 横須賀でも、車の中で男女が死亡しているのがあった。その際には、男女とも下着をずりおろしていたわけだが、外に逃げようともがいている状態だったという。 実はこれらの犠牲者全員、知り合いであったという。高校の同級生同士である。しかも、先述の女子高生にいたっては、主人公で新聞記者をしている浅川の姪(めい)である。 そんな浅川は、女子高生の姪の部屋を密かに探索したところ、1枚の会員証を見つける。それは、姪の知り合いである浪人生のもので、これを使って夏休み中にどこかに宿泊していたらしい。 会員証の発行元に連絡すると、箱根にペンションがある、とのことである。 浅川はさっそくそのペンションに泊まることにした。 ヒマをもてあましていたところ、部屋の中に1冊のノートが置かれているのに気づいた。他愛のないことがいくつか書かれているなかに、こんな記述があった。 8月30日 木曜日 ごくっ。警告。度胸のない奴は、コレを見るべからず。後悔するよ。ヘッヘッヘ。 S.I. そういえば、この部屋にはVHSビデオデッキがある。このペンションではVHSビデオによる映画のレンタルをやっているらしく、さっそくレンタルしてみることにした。 著名な映画がいくつか取りそろえていたのであるが、浅川は、ラベルが貼られておらず、タイトルが不明のVHSテープを見つけた。 ペンションの人に了承を得て観ることにしたの、だが・・・ エラくヤバいシロモノでした ・・・ 貞子のおまたにチコあるぅ〜♪ チコあるぅ〜♪ 唐突に主題歌を替え歌で歌ってしまいました 「リング」といえば貞子ですね。 しかも、「貞子のビデオ」というのがインパクト絶大なわけです。たしかに、これはインパクトはすごいです。しかし、私がこの物語を読んで、これを超越する一番のインパクトがあったのが、貞子にチコがあったことです。 正確には、「おいなりさん」があった・・・ということです。 実は貞子は、睾丸性女性化症候群というものになっています。 見た目は女性・・・なのですが、生物学的には・・・遺伝子レベルでは男性です。 ただ、生殖器が曖昧になってしまっているらしく、タタが体内に入っているのが大半だそうですが、貞子の場合は一般的な男性と同様に外に出ています。 めったにないことではあるのですが、そういうケースがあるのに驚きました。 さて、「貞子のビデオ」に話を戻しましょう。 貞子といえば、井戸から突如這い出してきて、ズルズルと近づいてくる・・・というものですが、実は原作では、こういう場面は一切出てきません。 では、どんな内容か、といいますと・・・いいですか?かなりヤバいものですよ。子供だったら盛大に怯えまくりますし、大の大人でもトラウマを抱えそうになりますよ。 それでもいい、というのなら・・・。 コホン。 真っ黒な画面に小さな光が明滅したかと思うと、徐々に膨らんで右に左に飛び回り、やがて左の隅に固定されます。 やがて枝分かれし、ほつれた光の束となり、ミミズのように這い回って6個の文字を形作ろうとしている。 そこには、 終いまで見よ と、白い筆で乱暴に書かれています。 この文字が消えたかと思うと、今度は モウジャに食われるぞ と。 この文字が拡大していって、画面が黒から白へと変化します。 一見したらモノクロか・・・とおもいきや、唐突に赤い色がはじけます。どことなく地鳴りが聞こえてきます。 ドロドロとした真っ赤な流体は、爆発して飛び散り、画面全体を占めることさえあります。 この真っ赤な流体はサッと引き、そこにはなだらかな山頂を持った火山が現れます。 それからして突然に画面が変化します。 2個のサイコロが丸底の鉛のボールの中を転がります。 さらに画面が変わり、初めて人間が登場してきます。 顔中シワだらけの老婆が、板の間の上の2枚の畳にちょこんと座り、膝に両手を乗せ、正面に向かってゆっくりと語りかけてきます。 ・・・その後、体はなあしい?しょーもんばかりしてると、ぼうこんがくるぞ。いいか、たびもんには気ぃつけろ。うぬは、だーせん、よごらをあげる。あまっこじゃ、おーばーの言うこときとけぇ。じのもんでがまあないがよ それからして老婆はフッと消え、今度は生まれたばかりの赤ん坊が登場してきます。 正面から赤ん坊を抱えているらしい・・・のですが、その時に、見る者の両腕に、その赤ん坊の感触がハッキリと感じることができるそうです。こわいですねぇ〜。 次のシーンは、人間の顔が100個あまり。どの顔にも憎しみと敵意が込められています。 何かつぶやいでいるように見えますが、よ〜く聞いてみると、 嘘つき! 詐欺師! などと言っているようです。 この画面にある人間の顔は徐々に奥に下がっていき、それにつれて人間の顔も増えてきます。 どんどん奥に下がっていき、人の顔の数がさらに多くなり、なおかつ黒い粒子となって画面を埋め尽くします。それでも憎しみと敵意のこもった声だけは聞こえ続いてきます。 やがてそんな恐ろしい声が消え、しばらく静寂の時を迎えます。 またもや画面が切り替わり、今度はテレビそのものが映し出されます。 そのテレビには、赤い字で 貞 の字が。 画像が乱れるらしく、「貝」という字になったりしながら消えてしまいます。 それからして、貞子本人・・・ではなく、男が現れます。 肩には何かでえぐり取られたかのように、肉の下から白く骨がのぞいています。 その後、画面にテロップが表示されます。 この映像を見た者は、1週間後のこの時間に死ぬ運命にある。死にたくなければ、今から言うことを実行せよ。すなわち ところが、この直後、なんの脈絡もないテレビCMが映し出されます。 何者かによって、そこから先の映像を上書きしてしまったようなのです。 まさに盛大にズッコケてしまってもおかしくない場面ではあります。 ・・・というわけで、原作においては貞子自身がビデオを介して見る者に襲いかかる・・・ということはやりません。 しかし、このビデオによって、貞子の素性の他に、貞子にゆかりのある地、ならびに貞子を死に追いやった人物を判明することができたので、こちらのほうが妥当な線であるな・・・とは、私は思います。 鈴木光司著「リング」角川書店刊 1991年 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.10.16 16:58:19
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