|
テーマ:おすすめ映画(4018)
カテゴリ:戦争映画
2001 アメリカ 監督:ティム・ブレイク・ネルソン
出演者:デイビッド・アークエット、スティーブ・ブシエミ、ハーヴェイ・カイテル、アラン・コーデュナーほか 109分 カラー THE GREY ZONE 灰の記憶(DVD) ◆20%OFF! DVD検索「灰の記憶」を探す(楽天) 第二次世界大戦時、ポーランド最大のユダヤ人収容所アウシュヴィッツで起こったユダヤ人虐殺の実態を、実話に基づいて製作したヒューマンドラマ。原作は本作の主人公でもある、ハンガリー系ユダヤ人医師ミクロシュ・ニスリの著書「アウシュヴィッツ」で、彼は収容所でドイツ軍軍医ヨーゼフ・メンゲレ大尉のもとで人体実験に加担させられていたという。多くのユダヤ人が殺される中、ニスリは生き延びるが、1956年にルーマニアで55歳という若さで「老衰」にて死去したそうだ。ちなみにメンゲレを描いた作品に「MY FATHER マイ・ファーザー 死の天使 アウシュヴィッツ収容所 人体実験医師(2003)」があり興味深い。 本作はポーランドのビルケナウ(ブジェジンカ)にあった第二アウシュヴィッツ収容所を舞台にしており、ニスリ医師のほかに第1班(ハンガリー系ユダヤ人)、第3班(ポーランド系ユダヤ人)と呼ばれた「ゾンダーコマンド」がメインに描かれている。ゾンダーコマンドとは、収容されたユダヤ人の中から死体処理のために選ばれた特務班で、彼らは4ヶ月から6ヶ月ほど処刑が延期されたという。アウシュビッツでは全部で13期のゾンダーコマンドがいたそうで、本作は第12期のゾンダーコマンドが描かれている。その12期ゾンダーコマンドは1944年10月7日に、収容所死体焼却炉の破壊を目的に武装蜂起しており、ニスリはそれを目撃していたのだ。 ドイツによるユダヤ人強制収容所を描いた作品は「夜と霧(1955)」を皮切りに1980年代以降特に増え始めたが、ドキュメンタリー作品が多く、本作のようにアウシュヴィッツを題材に描いたドラマ作品は珍しい。それだけ、真実が闇に埋もれ、描きづらい題材なのだろう。 ストーリーは、次々に送られてくるユダヤ人と、ガス室で殺害されたユダヤ人を黙々と処理するゾンダーコマンドたちの苦悩を描きながら、彼らの武装蜂起とその結末までを描いている。数ヶ月の延命のために、同胞や家族をガス室に送り込み、焼却炉で焼くゾンダーコマンドの苦悩と絶望感。「生」への執着に何の意味があるのか、彼らは一人の少女の命を救うこと、そして決死の蜂起に「生」の証を求めようとするのだ。 起承転結がしっかりとし、内容的に濃いものではあるが、やや混沌とした作りとなってしまっている。監督はまだ若いときの作品のようで、ユダヤ人たちの複雑な心情を描こうと気負いすぎた感があり、登場人物に芯の通った性格付けが甘く、あちこちに目がいってしまってまとまりが悪い。名前と顔も一致しにくいし、背景の説明もあまりないので、誰がどうして、何が起こっているのかがわかりにくいのが欠点。かなり省けるシーンもあったように思えるので、もう少し腰を据えた描写にしたら、もっと心に響いたのではないかと思う。一人一人の生と死の観念が微妙に異なり、それにどう対応するかというという点が見所だけに、もったいない感じ。 役者陣は先にも述べたが、一人一人の性格付けが浅いので余り印象が残らない。主役のニスリ医師にしても役割が中途半端な感じだ。その中で、ドイツSS軍曹役でも出演しているハーヴェイ・カイテルがやや光っており、彼は本作の製作総指揮を務めている。実はカイテル自身がポーランド系ユダヤ人の血をひいているらしい。 PG-12指定がかかっている作品で、裸の登場率が高め。少女ヌードシーンもあるが、ほとんどは死体・・・。 撮影はブルガリアにアウシュヴィッツ収容所を再現したようだが、そのわりにちょっとスケール感が乏しい印象。多分、カメラワークの問題だろうと思われるが、メイキング映像を見ると結構広い空間なのに、映画中ではえらくちんまりとしているのだ。セットを生かし切れていないのは、やはり監督の若さなのかな。 内容的には重く、心して見なければならないような作品だが、思ったよりも心に残らず後味の悪さばかりが目立った映画だった。アウシュヴィッツでのユダヤ人蜂起が描かれただけでも良しとしておこうか。 (参考) アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所(wikipedia) 興奮度★★★ 沈痛度★★★★★ 爽快度★ 感涙度★★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1944年、ポーランドのビルケナウにあった第二アウシュヴィッツ強制収容所に第12期ゾンダーコマンド(特務班)のユダヤ人がいた。ハンガリー人主体の第1班にはミクロシュ・ニスリ医師、シュレイマー、マックス、ホフマンなどの男がおり、日々ガス室で殺された同胞の死体を焼却炉で焼くのだった。 ニスリ医師はドイツ軍医メンゲレに病理学者として気に入られ、メンゲレのもとで人体実験の助手に誘われる。別棟にいる妻子のこともあり、やむなくその条件を飲むのだった。 ポーランド人主体の第3班と第1班は密かに武装蜂起の計画を練っていた。すでに4ヶ月近くになり、自分たちの処刑も近いうえ、シーツや食料、酒と引き換えに同胞を焼き続けることに罪の意識を感じていたのだ。武器や火薬は軍需工場で働くユダヤ人女性軍需コマンドから運びこまれていた。火薬を送るダイナらは見つかることを恐れながらもそれを死体に隠して送るのだった。 第1班のリーダーアブラモヴィッチはなかなか蜂起を決意せず、脱走の計画まで練り始める。第3班のシュレーマーやマックスらは、どうせ死ぬのだからと焼却炉破壊だけを望み、イライラするのだった。 新しいユダヤ人が送られてくると、ゾンダーコマンド達は服を脱がせ、金品を回収する。裏切り者と罵るユダヤ人に、どうせ死ぬのだと心の中で叫びながらも暴行を働くのだった。 一方、ニスリ医師はメンゲレの手下として、子供たちの解剖をし、胆石を集める。付き人のムスフェルドSS軍曹はニスリに暴動の情報と引き換えに妻子の保護を持ちかけ、ニスリはそれを受け入れる。その結果、妻子は安全な軍需工場に移送される。 一人の女の告白により火薬送付の件が発覚する。ダイナら3人の首謀者は厳しい拷問を受け、一人が死亡。だが、ダイナらは輸送先について口を割らなかった。 マックスはガス室で生き残った少女を発見し、助けようとする。囚人らと距離を置いていたニスリ医師も少女を助けるために力を貸すが、シュレイマーらはどうせ死ぬのだからと乗り気ではない。しかし、少女に生きる希望を見いだした彼らは第3班に少女の逃亡を依頼しようとする。 しかし、そこにムスフェルド軍曹がやってきてしまい、第3班のアブラモヴィッチが射殺され、少女も見つかってしまう。軍曹はどうせ死ぬし、自分も殺される運命だと、少女を殺そうとするが、ニスリ医師が彼を説得する。だが、暴動の情報を少しだけ話したものの説得できなかった。 女性収容所では口を割らないダイナらの目前で他の収容者が殺されていく。ダイナはついに電気柵に飛びついて死んでしまう。 1944年10月7日午後3時頃、ついに第3班が焼却炉の爆破を実行。第1班も武器を取り出してドイツ兵と交戦を開始。だが、ついに追いつめられ第1班は焼却炉を爆破して果てる。 生き残ったマックスらは地面に伏せさせられて次々に処刑される。だが、マックスらはやり遂げた顔で死んでいくのだった。 そして、捕まっていた少女も軍曹の手によって銃殺される。その光景をニスリ医師はじっと見つめるのだった。 少女達の骨は灰になり、煙となって消えた。わずかに残った灰は次のグループと一緒になり、焼却するユダヤ人やドイツ兵の靴や灰に入る。 ニスリ医師は解放の10年後に老衰で死去。妻は70年代後半に死去し、娘は行方不明。ムスフェルド軍曹は1947年クラクフの死刑宣告され、処刑された。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[戦争映画] カテゴリの最新記事
|