2005/06/21(火)11:27
母が見つけたもの
母はもう何年も前から日本画を習っている。
はじめは父との不仲で荒れた自分の心を癒す目的で始めたのだけれど、
一年も経たないうちに、本当に自分が好きな事、として
日本画に取り組んでいるのが娘の私にもよく分かった。
そして今朝、そんな母から電話があった。
「あの作品、入ったよ。奨励賞」
嬉しさをかみ殺すように静かにそう言う母の顔が目の前に浮かぶようだ。
格好つけの母は、素直に自分の感情を表に出すのが下手な人。
「良かったや~ん!」
「まぁ、一番下の賞やから、まだまだこれからやけどね」
母の日本画の先生が所属する会の展覧会で、母の絵が入賞した。
今日から京都でその展覧会が開かれる。
母のその絵は、制作途中から私も何度も見て、意見したこともあるのでよく知っている。
一度も行った事はないけれど、
インドに憧れる母が、インドの写真集やビデオなどを観て、
自分で光景を思い浮かべながら時間をかけて完成させた作品だ。
サリーを着た女性が、幼い子供を抱いている。
娘の私が言うのも変だけど、すごく良い絵だな、と思っていた。
私達子供に、父の事業の失敗から父の実家の悪口まで、
すべて吐き出してきた母。
父と母との間にある険悪な空気を、私たち兄妹はいつも感じていた。
絶えず離婚話が出ていた夫婦だったけれど、歳をとって父が気弱になり、
孫が生まれたりして結局今も夫婦のままだ。
私の一生は何だったんだ、と嘆く母を救ったのは日本画だった。
書くことで、彼女は徐々に「自分の人生」を見つけていった。
50歳を過ぎてからの出会いだったけれど、
でも見つけられた事は幸運だったし、探し続けた母は本当に偉いと思う。
今、夫婦の静かな生活が続いている。
「出来るだけ相手に迷惑がかからないように」
と、お互いがお互いの身体を気遣い、支え合って生きている。
そんなあなた達を見ることで、子供である私たち兄妹もやっと救われたんだよ、お母さん。
受賞、おめでとう。