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いつかどこかで

いつかどこかで

児童書 『 百まいのきもの 』


『 百まいのきもの 』   許す強さ      2007/1/7 



昨年は学校での “ いじめ ” が随分とクローズアップされました。
大人も子供もいじめと無関係ではいられません。

2冊の絵本を紹介します。
子供の心の機微を繊細に描いた珠玉の2編、日本のもの1編、アメリカのもの1編です。
どちらも50年も昔に出版されたもので、当時、現代でいう “ いじめ ” の観念はありませんから、殊更“ いじめ ” がテーマとは
謳っていません。
しかし、狭義な “ いじめ ” ではなく、どの時代のどんな子供にもどんな大人にもきっとある残酷さと揺れる気持ち、そういう
普遍的なものが描かれています。

今日は、私が小さい頃から家にあった 『 岩波子どもの本 』 から、アメリカの1編を。

     この本は、岩波から近年、 『 百まいのドレス 』 と改訳されて再版されたそうです。
     『 岩波子どもの本 』 は何しろ50年も前に出版されたものですから、訳が随分現代の感覚と違っていたりします。
     『 Curious George 』< ひとまねこざる > もジョージが逃げ込む restaurant は食堂、食べてしまう spaghetti はうどん、
逆に dinosaur がダイナソーです。



『 百まいのきもの 』

        作 エリノア・エスティーズ 『 The hundred dresses 』 1954初版
        絵 ルイス・スロボドキン
        訳 石井桃子

ワンダはとても大人しい目立たない女の子です。
めったに口を利かないし笑うこともなく、ちょっと口の端を曲げて笑いの真似事をするのが関の山。
授業中、本を読むよう指名されても、読めないのか読みたくないのか、ただ突っ立っています。
家は貧しく、いつも同じ洗いざらしの粗末なうす青い服を着ています。
おまけにワンダ・ペトロンスキーなんて変な名前です。ワンダに話かける子はいません。

ある晴れた朝、セイラが綺麗な紅色のドレスを着てきたのをみんなが口々に褒め、美しいお天気と美しいドレスに興奮して
おしゃべりしているところへワンダがやってきます。
ワンダは、学校で一番お金持ちで美人で人気者のペギーに小さな声で、

「 あたし、うちに、百まい、ドレスをもってるわ 」 と言います。
「 なんですって ? どこにあるの ? 」 とペギー。
「 うちの戸棚に 」

ペギーに何と言われてもみんなに笑われても、ワンダは頑固に言い張ります。
それ以来ペギーはワンダに

「 あなた、何枚ドレスを持っているの ? 」 と尋ねて
「 百枚、うちの戸棚に 」 と答えさせ、みんなを笑わせるのが習慣になります。
それでもワンダは、
「 赤い縁飾りの付いた緑のドレスがあるの 」 などと言うのです。

物語の語り手マディーは人気者ペギーの親友です。
マディーは本当はペギーがワンダをからかうのをやめて欲しいと思っています。
マディーの家もワンダほどではないにしろ貧しいし、服のことで人をからかうなんていやなのです。
やめましょうよ、と手紙まで書きかけます。でもそれで、かわりに自分がからかわれたら ?
ペギーはみんなに好かれている素晴らしい子で、ワンダなんてどうでもいい子なのだから、放っておこう、と考え直します。
そんなことより、ドレスのデザイン画コンテストが近づいています。きっとペーギが一番だわ、とマディーは考えます。

ワンダが学校に来なくなって数日たってからみんなはワンダがいないことに気付きます。
ある日、教室の壁のどこにもかしこにも、美しいドレスのデザイン画が張り出されます。
コンテストのデザイン画。その百枚はワンダが描いたものでした。
しかしその朝、先生がワンダのお父さんからの手紙を読みます。
「 大きな街に引っ越します。そこでは名前が変だなどと私たちをからかう者はいないでしょう 」
マディーは自分がしてしまったことに気付きます。

マディーとペギーはワンダの家を訪ねます。陰気で恐ろしい界隈を、ワンダを守ってあげる自分を想像したりしながら急ぎますが、
家はすでに空っぽ。
ワンダを追い出したのは自分たちだという思いに気持ちが沈みます。
ワンダにお母さんがいないことは知っていましたが、自分で洗濯しなくてはならなかったことになど気付かず、変な格好と
馬鹿にしたことを思います。もう二度と人を不幸にするようなことはすまいと考えます。

数ヶ月して教室にワンダからの手紙が届きます。

「 絵はみんなにあげます。
   あたしの新しい家にはまた、別のドレスが百枚、ちゃんと戸棚に並べてありますから。
   赤い縁飾りの緑のドレスはペギーに、青いのはマディーに・・・・・ 」

みんなはそれぞれ絵を受け取りますが、それを良く見ると、そのドレスを着ているのが自分だと気付きます。




マディーから見た、事の顛末を、淡々と語っていきます。
迷ったり、他に気を取られたり、後悔したり、自分を正当化したり、正義の味方の自分を夢想したり ・・・・
小学生くらいの女の子が普通に持つ気持ちが自然な言葉で語られ、共感を呼びます。
子供の残酷さと同時に、そこから大人へと成長していく過程を思い出させてくれます。
そして、ワンダの “ 許す ” 強さに胸を打たれます。

しかし正直、この本の美しさを理解したのは大人になってからです。
その年頃には ・・・・ 多分、分かっていませんでした。そういう自分にちょっとがっかりします。

パステルと水彩絵の具で描いたような淡いぼうっとした感じの絵も印象的です。
小さい頃に読んで、ストーリーはだいぶ忘れてしまっていましたが、絵の印象はずっと残っていました。

     私には、そういう絵本がまま、あります。絵だけが強烈に残っているのです。
     大人になってその本に再会して、ああ、あの人の絵だったんだ、と分かることが随分ありました。
     初山滋、武井武雄、瀬川康夫 ( この人は昔と今と全然作風が違いますが )・・・・ 好きな作家です。
     大人になってそれらの本を集めようとしてもなかなか見つからなくて残念です。
     私の本の多くは母が、近所の子にあげてしまったようで、『 岩波 』 が残されていたのが救いです。





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