『ユア・マイ・サンシャイン』パク・チョンピョ監督(2005韓国)
NEONEUN NAE UNMYEONG aka YOU ARE MY SUNSHINEJin-pyo Park122min(韓国語)(桜坂劇場 ホールCにて)昨日書いた『シークレット・サンシャイン』がなかなか良くって、韓国映画にも主演のチョン・ドヨンにも良い印象を持ったので、関連作上演のこのもう1本のサンシャインを見に行きました。『シークレット・サンシャイン』は、カンヌの主演女優賞ということで見に行ったのだけれど、この2本のサンシャインのチラシの写真やネットでキャプチャ映像を見ると、女性としても演技者としても特に魅力は感じなかったのだけれど、映画で見ると、何か不思議に魅力のある人です。さてこの2本目のサンシャイン、原題は、ハングルは読めないしここでの表示も面倒なのでローマ字表記するとNEONEUN NAE UNMYEONG。これは「You are my destiny」という意味らしいです。音楽として有名「ユア・マイ・サンシャイン」を使って、この英語タイトルとなったのでしょう。中国語題は「称是我的運命」(称としましたが実際にはニンベンです)となっていて原題の直訳のようですが、「あなたは私の運命」の方が味わいがありますね。話の骨格はごく簡単。その構造をネタバレ的になるけれど書いてしまえば、男女の出会い、相思相愛成立、結婚と一時の幸せ、困難(試練)とその克服、ハッピーエンド、というどこにでもありそうな純愛物語です。こういう映画は、あとは実際にどういう設定が細部にあるかと、役者の演技が見物となる。加えるに細部の設定が含むテーマ性でしょうか。単純に見ていたら感動もしましたし、涙も誘われました。主演のチョン・ドヨンと、特に後半のファン・ジョンミンが良かったですね。今書いた物語の構造というのは分析でしかないわけで、監督のパク・チョンピョは実際にあった事件から着想を得たようです。自分がエイズだと知らずに多数の客を相手にしていた娼婦が逮捕されたという事件です。映画冒頭には「この物語は実話です」とテロップが出る。そして最後には「2人は今も幸せに暮らし、エイズは発症していない」と。良くも悪くも、口コミで広がって、韓国で300万人を動員して韓国映画史上・ラブストーリーNo.1を記録したのだから、映画としては成功でしょう。2002年の日韓ワールドカップが出てくるから、物語の設定はその前後ということになるわけだけれど、韓国に於けるエイズ認識、特にその偏見の実態はどんな状況だったのでしょうか?。ちょっと古臭い感じで、1980年代のフランス映画を見ているかのような状況です。ボクなどはこういう映画と、そのヒットといのを聞くと、それはもちろん日本でのことでもあるんですが、ちょっと疑問、あるいは欺瞞と言った方が良いかも知れないことを感じてしまいます。観客はこの物語の2人には感動して、涙も流すけれども、実生活でエイズ患者に偏見を持って接することに何ら変わりはなかったりします。テレビのホームドラマで言えば、嫁に意地悪な姑を見て「なんてイヤな女」って言っているオバサンが、実際には自分の息子の嫁に本質的に同じような人物だったりするわけです。ちょっと意味は違うけれど、ヒッチコックか誰かが言ってましたね。その人物が殺人者などの悪者であっても、その人物に危機が迫るようなサスペンスでは、観客はその人物に感情移入する、っていうようなことです。つまり実生活ではエイズ患者を白い目でみるような観客も、ここではエイズの主人公に感情移入するということです。この映画も決して短くはなく2時間を超えるものです。その割には内容はやや希薄です。シネという女に一目惚れした酪農をする36才のもてない男の描き方はややコミカルに過ぎるものの、そんな彼の純粋でひたむきな愛にシネが段々、少しずつ、ある意味自分を解放しながら惹かれていく様子は良かった。上にも書いたように写真などで見るとあまり魅力を感じないチョン・ドヨンなんですが、実際に映画の中で演じている彼女を見ていると妙に惹かれます。そんな彼女をたくさん見せるという意味では、前半の冗漫さも解るような気もします。それは『シークレット・サンシャイン』でも同じでした。演技によって浮かび上がらせる人物が良いわけで、演技上手ってことなのかも知れません。もちろん彼女のそうした魅力は映画全体を通じてのものです。話が飛んでしまったのだけれど、純愛ラブストーリーとして成功しているのだから、それだけで良いのかも知れないけれど、ちょっと上にヒッチコックだ何だって書いたことで言えば、エイズならエイズにもう少しスポットをあてて作ったら、もっと重厚な映画になっていたでしょうね。あるいはほんの一面描かれる主人公の過去。つまりシネの不幸、彼女がある男から逃げていること、生きていくためには手っ取り早く売春をしなければならないということ。そんな彼女の人間をもっと深く描いても面白かったと思いますが、結局のところうわべだけのような感じで、深みに欠ける感じがします。チョン・ドヨンは監督の出演依頼を最初断ったそうです。実話の男性の2枚の写真、1枚は事件前の健康的で爽やかな笑顔の写真、もう1枚は事件後に白髪の老人にようになってしまった写真。監督にその2枚を見せられて、何が、あるいはどんな愛が彼を短期間にそうさせたのか、それをチョン・ドヨンは知りたくて映画出演を承諾したということです。でも結果として出来た作品ではそういうことがそれほど深くは追求されていなかったように思います。もちろん彼に起こったことを時間系列に描いてはいるし、たぶん実際に映画後半の撮影ではかなり減量したファン・ジョンミンの演技は良かったけれど、それでもなお少し掘り下げが弱い感じです。結果として美しい、感動的なラブストーリーに仕上がっているけれど、人間ドラマという意味では物足りなかった。なので見どころは、この2人の役者の演技を見ることだけになってしまっています。それはそれで魅力的ではありますが・・・。監督別作品リストはここからアイウエオ順作品リストはここから映画に関する雑文リストはここから