税理士との面接
今日は初めての税理士との面接の日。朝から落ち着かなかった。学校の休み時間にクラスメートのAさんに相談した。しかし時間内に終わらず、先生が教室に入ってきてしまった。Aさんは、先生に「今日彼女、面接なんです。それで、どういえばいいかアドバイスをしていたのですが・・・」と言ったら、先生は「それならそのまま彼女を助けてあげなさい。他の人は作業の続きをして・・」と言ってくれた。今日は、DATEVという簿記のソフトを練習していて、各自で入力する作業をしていたのだが、私とAさんは免除された。今までの仕事の経験をきっと聞かれると思い、日本での経験をまとめた文をAさんが添削していた時、「これってどういう意味?」と私に聞いた。私は日本で勤めていた時に、1年間海外研修にだしてもらった経験がある。それを 「会社名 hat mich nach Australien gesendet.」と書いたのだが、「senden」はモノを送る時に使う動詞で人には使うのは変だと言われた。「じゃあ、geschickt ?」と聞いたら、それも変だと言われた。Aさんもなんと言っていいのかわからないなーと言って、先生に聞いてくれた。先生も、その場合はこういった方がいい、ああいった方がいい、といろいろ知恵を出してくれて、結局は「Ich bekam die Möglichkait nach Australien zu reisen um meine Englischkenntnisse zu verbessern.」に落ち着いた。クラスみんなで私の面接を応援してくれている。Aさんは「必ず長所と短所も聞かれるから、その答えも用意しておいたほうがいいよ。」と言って、模範文を書いてくれた。「あとね、将来の展望も聞かれるよ。」と言って、「Ich sehe mich in der Zukunft in einer Steuerkanzlei, mit der Hoffnung einen festen Arbeitsvertrag zu erhalten.」と模範回答を書いてくれた。「私達があなたを採用するべき理由は何か? というような質問もよくあるみたいだけど、なんて答えたらいいかな?」と聞いたら、「そういう時は、私は優れているから、って自信満々に言うのよ。間違っても、そこでモジモジしちゃいけないわ。私だったら、Ich bin motiviert, zuverlässig, fleißig und sehr zielstrebig. Sie müssen mir eine Chance geben, damit ich Ihnen das beweisen kann. って言うわ。」と言った。「えっ、それってすごく上から目線な気がするけど・・」と言ったら、「じゃあ、Wenn Sie mir eine Chance geben, werde ich ihnen das beweisenっていうのはどう?」といったので、「それがいい。そのフレーズも書いてくれる?」と頼んだ。帰り際にみんなから、「頑張ってね」と言われた。家でも何度も書いてもらった模範文を読み返して、かなり早めに家を出た。20分前についてしまったので、まわりをウロウロして時間を潰した。事務所は普通のアパートの1階にあった。建物自体は古かったが、1階だけはリノベーションをしたようで綺麗だった。事務所には税理士一人しかいなかったが、電話中だったようで、ちょっと待っていてください、と会議室に通された。5分ぐらいして、税理士が会議室の中に入ってきた。彼は私が送った書類をプリントアウトして手に持っていた。どんな質問が来るかとドキドキしていたが、彼はおもむろに自分の経歴を話し始めた。元々は税理士ではなく、大企業に勤めていたこと、1年間ポーランドで支社を立ち上げることに従事したのでその時にポーランド語を覚えたこと、大企業では、自分の存在は唯一無二ではないので、虚しく感じることが多かったこと、アジアには香港に展示会の仕事で行ったことがあること、世界中を飛び回る仕事で、家族との時間が取れないので、やめようと決意したこと、父親が税理士だったので自分も税理士をめざそうと思ったこと、30歳を過ぎて税理士になったこと、・・・・・・自分の話が終わると、今度は事務所の話になった。この税理士事務所は国際的な案件も扱っていて、私の国際色豊か(?)な経歴と英語力を重視してくれたようだ。現在6人の女性が彼のもとで働いているが、みんな高卒だそうだ。もちろん、専門の資格はある。大卒の私が若いしかも英語も話せない高卒の人から教えを請うのを我慢できるか、と聞かれた。私が一番ペーペーになるのだから、序列で私が一番下になるのは当たり前だと思うのだけど、そんなことを気にするのか・・とちょっと意外だった。例えば、ファイルの仕方でも、すでにこの事務所のやり方があるのだが、以前採用した人の中には「こんなやり方より、こっちのやり方のほうが合理的」と言って、勝手にファイルの仕方を自己流(その人が以前いた会社でのやり方)に変えてしまった人がいたそうだ。そういう人はこの事務所には合わないので、やめてもらった、と言った。私への質問は、「なぜ、ドイツに来たのか?」「学校ではどんなことを習っているか?」「学校で使っているソフトウェアは何か?」「Ausbildungのあとはどうしたいと考えているか?」だけだった。Ausbildung後はできればフルタイムで働きたい、と伝えたら、喜んでくれた。Ausbildungが終わったら正式に採用する方向で育てていくつもりだと言ってくれた。その後、事務所に案内してくれた。大部屋に机がコの字型に並べられていた。壁際の棚にはびっしりファイルが並んでいた。机と机の間には全く仕切りがなく、みんなが見渡せる感じ。そのとなりに税理士の部屋があった。小さい事務所だった。その分とても家族的な雰囲気なんだそうだ。来週は、15周年記念で、みんなでハンガリーに社員旅行にいくと言っていた。そのあと、この税理士事務所で使っているソフトを見せてくれた。残念ながらDATEVではなかった。私たちは学校でSKR04という勘定項目表を使っているのだが、この事務所ではSKR03が主体なので、主な項目番号は暗記してください、と言われた。ここで使っているソフトはAddisonで、「使うことになったら、1週間のコースがあるので、こちらで費用を負担するので参加してもらいます。」という話もでた。その後、また会議室に戻った。税理士は、「隣に古いアパートがあるでしょ。あそこを改装して、難民収容所にすることが決まっているんですよ。このアパートの前にはたくさんゴミ箱が並んでいるし、環境はあんまり良くないかもしれないですね。」と言った。「この研修は無料だと書いてありますが、もし気に入ったら、少額の報酬、例えば月に400ユーロほど払うのは許されるのですか?」と聞かれた。税理士事務所の中には研修生を体のいい労働力としかみていないところもあると聞いたが、ずいぶん気前がいいのだなーと思った。税理士は、「Von mir aus」(私はいいと思いますよ)と言ってくれたが、「でも、6人の中に新しい人が入った時の化学反応をみてから決めたいので、一度他の人がいるときに来てもらえますか?」と言われた。私は、「税理士は、訛のないドイツ語を話す人しか採用しないと聞いていたので、ホッとしました」と言ったら、「そういう人はいるかもしれないけど、僕はドイツ語力は二の次だと思ってます。一番必要なのは、専門知識です。もちろんドイツ語は必要ですが、家にいてはいつまでたっても向上しない。ここに来て働きながらドイツ語力を上げていってください。」と言ってくれた。「僕自身5ヶ国語話せるんですよ。だから外国語を修得する苦労は知っています。そんな僕からのアドバイスは、大きな声で話しなさい、ということです。あなたは自信がないから小さい声で話しますが、それはよくない。余計相手にできない印象を与える。僕のスペイン語はそれほどうまくはないけど、大きな声で早口でまくし立てるように話すと、文法が間違っていても、うまく話しているように聞こえるんですよ。」とアドバイスをくれた。「うちの事務所では日本語は必要ないけれども、うちでは日本語でも対応できますよ、と言えたらいいなと思ってます。」とも言っていた。最後に「Auf Wiedersehen」といったあと、「日本語ではなんていうのですか?」といきなり聞かれた。直訳すれば「さようなら」だけど、この場面で、「さようなら」というのはなんか変。とっさに言葉が浮かばなかった。「日本語では、お礼を言って別れるのが普通だと思います。」と言ったら、「お礼は日本語ではなんというのか?」と聞かれた。「ありがとうございます」と教えた。それで、ふたりとも「ありがとうございました」と言って別れた。あんなにクラスメートや先生を巻き込んで模範回答を用意していったのに、全く必要なかった。税理士は、私が日本人であること、英語ができること、大卒であること、という3つを私の履歴書から読み取って、面接前にほぼ採用を決めていたように感じた。でも、想像よりドイツ語が下手だったことに驚いたのではないかと思う。私の送ったAnschreibenを読んで、「すごくうまくかけていますよね。自分で書いたんですか?」と聞いた。私は思わず「学校の担当者に添削してもらいました」と正直に答えた。少し税理士の顔が曇った気がしたので、しまった・・・と思った。事務員がいるときに顔合わせをすることになっているが、その結果次第でまだ採用してもらえるかどうかはわからない。来週あと2つ面接がある。そのうちのひとつでAさんのいとこが働いているらしい。かなり大きな事務所で、税理士の人柄もすばらしく、待遇もすごくいいそうだ。私としては、今日の税理士事務所が自分には合うような気がする。立地条件が悪いのが難点だけど、こんな自分でも役に立てるかもしれないと思うとうれしい。