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眠りの底で

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ING入賞作品 鬼羅の歌

2009.04.06
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   鬼羅の歌
  kira.JPG          

      歌声。 歌が聞こえる。 この街にふく風が 歌っている。

      ここは 山をけずって できた街。 

      百年前は山だった。 五百年前は深い山 千年前は 深い深い山だった。

      ここが 深い深い山だった頃の話。

      鬼神が 山の精気を吸うためにやってきて 樹々の間を 駆け抜けた。

      鬼神が通り過ぎた後に 小さな竜巻が 起こった。 落ち葉や木の実を 巻き上げて クルクルおどる。

      竜巻がおさまった時 そこに 鬼の子がいた。
  
      鬼羅は こうして 生まれた。


      生まれたばかりといっても鬼の子 鬼羅はすぐに地をかけまわり 樹の枝々を飛び回った。

      腹がへれば 野うさぎやヒヨドリ木の実を 食った。

      のどが渇けば地に耳をつけ 湧き水を探し のどをうるおした。
      

      ある日 冷たい湧き水に口をつけていた鬼羅の耳に 何かが聞こえてきた。

      小鳥のさえずりでもない 獣の鳴き声でもない。

      はじめて聞く音色に 体の奥を ぎゅっとつかまれたような感じがした。

      音は ゆっくりと 近づいてくる。

      怖いものなどあるはずもない鬼の子なのに 体がドクドクとなる。

      鬼羅は 樹の上に隠れ 茂る葉の間から目玉をぎょろつかせた。

   
      やってきたのは 人間の男の子だった。 年は 十かそこら。

      男の子は 澄んだ声で 歌っていた。

      鬼羅をドクドクさせたのは その歌声だった。

      鬼羅は 人の子を見たのも 人の歌を聞いたのも はじめてだった。

      男の子は 鬼羅と同じように 湧き水に口をつけると のどをならした。

      腰にぶらさげた筒にも 水を入れる。

      そして また 歌いながら遠ざかっていった。
 
      鬼羅は 樹の上で 縛り付けられたように動けないでいた。


      その夜 鬼羅の耳の奥で 男の子の歌声が響き続けた。

      体の内はドクドク鳴りつづけ カアッと熱くなったかと思うと 

      冷たい刃物のような風がふきぬけたりした。

      心の臓と腹の臓がいっしょくたに絞られ 痛んだ。

      夜が明ける頃 鬼羅は決めた。

      自分をこんな目にあわせた男の子を 探そう。

      探して食ってしまおう。

      鬼羅の腹が ぎゅるるぅと喜んだ。  
    
      鬼羅は獣のように 四つんばいになり 地に鼻をつけ 男の子の匂いをたどった。

      太陽が昇りきる頃 山のふもとに 小さな畑と小屋をみつけた。

      また あの歌声が聞こえる。

      芋の葉が広がる畑に 男の子がいた。

      腹が ぐるうっ とせかす。

      鬼羅は 男の子の背に しのびよった。


      鬼羅を 歌声が包んだ。

      歌声が 鬼羅の内へ しみこんでくる。

      馬酔木の花を食ったように からだがふわふわと頼りなくなる。

      でも 悪い気分じゃない。

      もう しばらく 聞いていたい。
       
      歌声が 止んだ。

      男の子がふりむき 鬼羅と目をあわせた。
        
      「だれだ おまえ」 と 男の子。

      「鬼の子 鬼羅」

      「ふーん おれ 耕。 なんか用か」

      おあずけをくった鬼羅の腹が ぎいっ と 怒っている。

      鬼羅は それをおさえつけた。

      もっと 欲しい物が あった。

      「おまえのさえずりが ほしい。 さえずってくれ」
       
      「さえずり? ああ 歌のことか。 歌うから 芋掘るの手伝ってくれや」

      耕は 袖口でひたいの汗を拭く。

      「ふん」

      鬼羅は うねに生い茂る芋の葉を ぎろりとにらんだ。

      それから右足で地を ズンッと 踏みたたいた。

      と 芋の葉はいっせいに飛び上がり ころころした芋が葉につられ 土の上に飛び出した。

      「へっえー たいしたもんだなぁ」

      耕は 目を丸くした。

      「歌」

      鬼羅は催促する。
         
      「おう」

      耕は 土の歌を口ずさみながら 芋を 集めた。

      鬼羅は 毎日 耕の畑を手伝った。

      耕は 毎日 鬼羅に歌った。

      「なんで 自分で歌わない?」

      そう問われて 鬼羅は驚いた。

      「あたいは 鬼。 泣いたり 歌ったり できない」

      「鳥だって 狼だって 歌う。 鬼羅だって 歌えるさ」

      「歌えない」

      「教えてやるから 歌ってみろ」

      耕は 鬼羅の目をのぞきこみながら ゆっくりと ひと節 歌った。

      ほら と つつかれて鬼羅が真似る。

      鬼羅の口からでるのは 枯れ枝をこすり合わせる音ばかり。

      鬼なんだ。 歌えっこない。 歌おうなんて 思わない。

      耕の歌があれば それで よかった。


      鬼羅は 夜は決して 耕のところへ行かなかった。

      月の光は 命の性(さが)を目覚めさせる。

      押さえ込んでいる鬼の性が目覚め 耕を食いたくなる。

      けれど その夜 山深くひそむ鬼羅の耳に 耕の悲鳴が届いた。

      むささびのように夜の樹々を飛び 耕の畑にたどりついた鬼羅に月の光が注いだ。

      凍りつくような 冬の満月。
         

          kiratuki.JPG        



      「おっかあが 死んだ」

      そういう耕の目から 涙があふれる。 

      鬼羅の全身が震える。 あの涙にぬれたほおに 喰らいつきたい。

      耕が白い息を吐き出す。

      悲しみに上下する心の臓が欲しい と 鬼羅はみつめる。

      耕 耕 おまえを喰らいたい。

      肉の一片 髪の一本 血の一滴までも 残すまい。

      骨の最後のひとかけらまで 大切にしゃぶりつくそう。

      いとおしんで いとおしんで おまえをわが身にいれたい。 

      鬼羅の目が 赤く燃え立つ。 腹が 耕喰いたさに ねじれてあばれる。

      よだれが糸を引いて 地に落ちる。 鬼の牙が ぎらりと 月光をはねかえす。

      鬼羅は ぐわりと口を 開けた。

      刹那。

      鬼羅の暗い心の奥底で 何かがはねた。

      川面に跳ねる魚のように 一瞬光って また闇へと消えた 耕の歌声の破片。

      耕を喰わせはしない。 

      鬼羅は牙を おのれの腹に突き立てた。

      腹は裏切りに怒り すさまじい痛みとなって 鬼羅を襲う。

      けれど 鬼羅はもっと怒っていた。 腹を喰いちぎり 噛み砕く。

      腹のあった場所に 大きな穴が開いた。

      さえざえとした月光を受けて 鬼羅が立っていた。

      ぽこりと開いた穴を通して 暗い山がみえた。

      鬼羅は 腰をぬかし 息もつげないでいる耕に言った。

      「どうってことない。 鬼は千年を終えるまで死なないんだ」

      そして 風をきり 山奥へもどった。  
 

      鬼羅は 丸二日を 眠りとおした。 三日目の朝 腹の穴はふさがっていた。

      鬼羅は伸びをし 新しい腹に手をあてる。

      新しい腹は 耕を喰いたがってはいなかった。

      鬼羅は 耕の畑へ行った。

      「歌ってくれ」

      耕は 歌った。

      鬼羅は 満月に夜に おのれの腹を喰っていらい 何も喰わなくなった。

      喰いたくなかった。 飲みたくもなかった。 

      耕の歌だけが 欲しかった。 耕の歌だけが 鬼羅を 満たした。

      ある日 また 耕が言った。

      「鬼羅 歌ってみろ」

      鬼羅は 怒った。

      「あたいは鬼。 千年たったって 歌えやしない」

      耕は 辛そうな顔をする。

      「おれは人の子だ。 あと五十年かそこらで おっ死んじまう。

       おまえに歌ってやるもんが おらんようになる。

       鬼羅は こんなに 歌が好きなのに。

       歌は 聞けば心があったこうなる。 歌うともっとええんだ。

       さみしい時に歌えば ひとりでなくなる。

       うれしい時に歌えば 誰かにうれしさをわけてやれる。

       悲しい時に歌えば 力がわいてくる」

            
      鬼羅は 氷柱を飲み込んだようだった。

      たったの 五十年。 それっぽっちで 耕が消える。 耕の歌を 失う。

      失う。 鬼羅は あえいだ。

      「鬼羅 おれが死んでも おれの歌忘れんな。 きっと 鬼羅は歌える。

       おれは 歌になって おまえのそばにおる」
            
      鬼羅は うなずいた。 



      時が流れた。

      耕は 畑をたがやし 種をまき 芋を作り 菜っ葉を育て

      そして 鬼羅のそばで歌い続けて 死んだ。

      鬼羅は つめたくなった耕のかたわらで 約束どおり 耕の歌を思い出し 真似た。
       
      畑の土は固くなり 山の草が茂り 山の木の芽がのびた。

      やがて 耕の体は崩れ 山の土となった。

      鬼羅は その土に根をはった一本の木のように そこを離れなかった。

      喰うことも飲むこともせず ただ 耕の歌を繰り返した。

      さらに 長い長い時が 過ぎた。

      鬼羅は 耕が土にかえった同じ場所で 一陣の風にもどった。



      この街に 吹く風は 鬼羅の風。

      澄んだ男の子の声で 歌う。

      鬼羅が覚えた 耕の歌。

      千年をかけて 歌えるようになった。

      あの歌を聞くと どんないさかいをしている者だって

      胸がきゅーんとして けんかを続けられなくなる。

      ほら 鬼羅が歌ってる。
           

                                    完
        

                      (1997年)ING童話コンテスト審査委員長特別賞受賞作 (審査員長は小椋佳さん)
       
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   写真byげこる「げこるでつくる」


            
               







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Last updated  2012.05.21 20:42:21
2008.05.11
  
   鬼羅の歌
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              時が流れた。

              耕は 畑をたがやし 種をまき 芋を作り 菜っ葉を育て

              そして 鬼羅のそばで歌い続けて 死んだ。

              鬼羅は つめたくなった耕のかたわらで 約束どおり 耕の歌を思い出し 真似た。

         
            

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              畑の土は固くなり 山の草が茂り 山の木の芽がのびた。

              やがて 耕の体は崩れ 山の土となった。

              鬼羅は その土に根をはった一本の木のように そこを離れなかった。

              喰うことも飲むこともせず ただ 耕の歌を繰り返した。

              さらに 長い長い時が 過ぎた。

              鬼羅は 耕が土にかえった同じ場所で 一陣の風にもどった。





                        この街に 吹く風は 鬼羅の風。

                        澄んだ男の子の声で 歌う。

                        鬼羅が覚えた 耕の歌。

                        千年をかけて 歌えるようになった。

                        あの歌を聞くと どんないさかいをしている者だって

                        胸がきゅーんとして けんかを続けられなくなる。

                        ほら 鬼羅が歌ってる。
           

                              終
                               鬼羅の歌  終
        



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Last updated  2008.05.11 06:19:10
2008.05.10
  
   鬼羅の歌
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               鬼羅は 満月に夜に おのれの腹を喰っていらい 何も喰わなくなった。

               喰いたくなかった。 飲みたくもなかった。 

               耕の歌だけが 欲しかった。

               耕の歌だけが 鬼羅を 満たした。


               ある日 また 耕が言った。

               「鬼羅 歌ってみろ」

               鬼羅は 怒った。

               「あたいは鬼。 千年たったって 歌えやしない」

               耕は 辛そうな顔をする。

               「おれは人の子だ。 あと五十年かそこらで おっ死んじまう。

                おまえに歌ってやるもんが おらんようになる。

                鬼羅は こんなに 歌が好きなのに。

                歌は 聞けば心があったこうなる。 歌うともっとええんだ。

                さみしい時に歌えば ひとりでなくなる。

                うれしい時に歌えば 誰かにうれしさをわけてやれる。

                悲しい時に歌えば 力がわいてくる」

            
               鬼羅は 氷柱を飲み込んだようだった。

               たったの 五十年。

               それっぽっちで 耕が消える。

               耕の歌を 失う。

               失う。 

               鬼羅は あえいだ。


               「鬼羅 おれが死んでも おれの歌忘れんな。

                きっと 鬼羅は歌える。

                おれは 歌になって おまえのそばにおる」

            
               鬼羅は うなずいた。 

                

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Last updated  2008.05.10 06:16:51
2008.05.09
  
   鬼羅の歌
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          刹那。

          鬼羅の暗い心の奥底で 何かがはねた。

          川面に跳ねる魚のように 一瞬光って また闇へと消えた 耕の歌声の破片。


          耕を喰わせはしない。 

          鬼羅は牙を おのれの腹に突き立てた。

          腹は裏切りに怒り すさまじい痛みとなって 鬼羅を襲う。

          けれど 鬼羅はもっと怒っていた。

          腹を喰いちぎり 噛み砕く。

          腹のあった場所に 大きな穴が開いた。


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          さえざえとした月光を受けて 鬼羅が立っていた。

          ぽこりと開いた穴を通して 暗い山がみえた。

          鬼羅は 腰をぬかし 息もつげないでいる耕に言った。

          「どうってことない。 鬼は千年を終えるまで死なないんだ」

          そして 風をきり 山奥へもどった。  

      

          鬼羅は 丸二日を 眠りとおした。

          三日目の朝 腹の穴はふさがっていた。

          鬼羅は伸びをし 新しい腹に手をあてる。

          新しい腹は 耕を喰いたがってはいなかった。

          鬼羅は 耕の畑へ行った。

          「歌ってくれ」

          耕は 歌った。



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Last updated  2008.05.09 05:30:40
2008.05.08
   鬼羅の歌
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          鬼羅は 夜は決して 耕のところへ行かなかった。

          月の光は 命の性(さが)を目覚めさせる。

          押さえ込んでいる鬼の性が目覚め 耕を食いたくなる。


          けれど その夜 山深くひそむ鬼羅の耳に 耕の悲鳴が届いた。

          むささびのように夜の樹々を飛び 耕の畑にたどりついた鬼羅に月の光が注いだ。

          凍りつくような 冬の満月。

         

          kiratuki.JPG        



          「おっかあが 死んだ」

          そういう耕の目から 涙があふれる。

          鬼羅の全身が震える。

          あの涙にぬれたほおに 喰らいつきたい。

          耕が白い息を吐き出す。

          悲しみに上下する心の臓が欲しい と 鬼羅はみつめる。

          耕 耕 おまえを喰らいたい。

          肉の一片 髪の一本 血の一滴までも 残すまい。

          骨の最後のひとかけらまで 大切にしゃぶりつくそう。

          いとおしんで いとおしんで おまえをわが身にいれたい。 


          鬼羅の目が 赤く燃え立つ。

          腹が 耕喰いたさに ねじれてあばれる。

          よだれが糸を引いて 地に落ちる。

          鬼の牙が ぎらりと 月光をはねかえす。

          鬼羅は ぐわりと口を 開けた。

        



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Last updated  2008.05.08 06:35:52
2008.05.07

  
   鬼羅の歌
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              鬼羅は 毎日 耕の畑を手伝った。

              耕は 毎日 鬼羅に歌った。

              「なんで 自分で歌わない?」

              そう問われて 鬼羅は驚いた。

              「あたいは 鬼。 泣いたり 歌ったり できない」

              「鳥だって 狼だって 歌う。 鬼羅だって 歌えるさ」

              「歌えない」

              「教えてやるから 歌ってみろ」

              耕は 鬼羅の目をのぞきこみながら ゆっくりと ひと節 歌った。

              ほら と つつかれて鬼羅が真似る。

              鬼羅の口からでるのは 枯れ枝をこすり合わせる音ばかり。


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              鬼なんだ。

              歌えっこない。

              歌おうなんて 思わない。

              耕の歌があれば それで よかった。

             
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Last updated  2008.05.07 06:35:11
2008.05.06
   
   鬼羅の歌  
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          男の子にしのびよった鬼羅を 歌声が包んだ。

          歌声が 鬼羅の内へ しみこんでくる。

          馬酔木の花を食ったように からだがふわふわと頼りなくなる。

          でも 悪い気分じゃない。

          もう しばらく 聞いていたい。

          
          歌声が 止んだ。

          男の子がふりむき 鬼羅と目をあわせた。
        
          「だれだ おまえ」 と 男の子。

          「鬼の子 鬼羅」

          「ふーん おれ 耕。 なんか用か」

          おあずけをくった鬼羅の腹が ぎいっ と 怒っている。

          鬼羅は それをおさえつけた。

          もっと 欲しい物が あった。

          「おまえのさえずりが ほしい。 さえずってくれ」
       
          「さえずり? ああ 歌のことか。 歌うから 芋掘るの手伝ってくれや」

          耕は 袖口でひたいの汗を拭く。

          「ふん」

          鬼羅は うねに生い茂る芋の葉を ぎろりとにらんだ。

          それから右足で地を ズンッと 踏みたたいた。

          と 芋の葉はいっせいに飛び上がり ころころした芋が葉につられ 土の上に飛び出した。

          「へっえー たいしたもんだなぁ」

          耕は 目を丸くした。

          「歌」

          鬼羅は催促する。
         
          「おう」

          耕は 土の歌を口ずさみながら 芋を 集めた。


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2008.05.05
   
   鬼羅の歌  
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          その夜 鬼羅の耳の奥で 男の子の歌声が響き続けた。

          体の内はドクドク鳴りつづけ カアッと熱くなったかと思うと 

          冷たい刃物のような風がふきぬけたりした。

          心の臓と腹の臓がいっしょくたに絞られ 痛んだ。

          夜が明ける頃 鬼羅は決めた。

          自分をこんな目にあわせた男の子を 探そう。

          探して食ってしまおう。

          鬼羅の腹が ぎゅるるぅと喜んだ。



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          鬼羅は獣のように 四つんばいになり 地に鼻をつけ 男の子の匂いをたどった。

          太陽が昇りきる頃 山のふもとに 小さな畑と小屋をみつけた。


          また あの歌声が聞こえる。

          芋の葉が広がる畑に 男の子がいた。

          腹が ぐるうっ とせかす。

          鬼羅は 男の子の背に しのびよった。


       

       
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   写真byげこる「げこるでつくる」






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Last updated  2008.05.05 07:09:54
2008.05.04
  鬼羅の歌
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            ある日 冷たい湧き水に口をつけていた鬼羅の耳に 何かが聞こえてきた。

            小鳥のさえずりでもない 獣の鳴き声でもない。

            はじめて聞く音色に 体の奥を ぎゅっとつかまれたような感じがした。

            音は ゆっくりと 近づいてくる。

            怖いものなどあるはずもない鬼の子なのに 体がドクドクとなる。

            鬼羅は 樹の上に隠れ 茂る葉の間から目玉をぎょろつかせた。

   
            やってきたのは 人間の男の子だった。 年は 十かそこら。

            男の子は 澄んだ声で 歌っていた。

            鬼羅をドクドクさせたのは その歌声だった。

            鬼羅は 人の子を見たのも 人の歌を聞いたのも はじめてだった。

            男の子は 鬼羅と同じように 湧き水に口をつけると のどをならした。

            腰にぶらさげた筒にも 水を入れる。

            そして また 歌いながら遠ざかっていった。
 
            鬼羅は 樹の上で 縛り付けられたように動けないでいた。



            
               
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Last updated  2008.05.04 00:29:15
2008.05.03
INGLIFEが行っていた童話コンテスト入賞作。著作権はINGLIFEにあります。許諾を得て 掲載するものです。


   鬼羅の歌
  kira.JPG          

      歌声。

      歌が聞こえる。

      この街にふく風が 歌っている。

      ここは 山をけずって できた街。 

      百年前は山だった。 五百年前は深い山 千年前は 深い深い山だった。


      ここが 深い深い山だった頃の話。

      鬼神が 山の精気を吸うためにやってきて 樹々の間を 駆け抜けた。

      鬼神が通り過ぎた後に 小さな竜巻が 起こった。

      落ち葉や木の実を 巻き上げて クルクルおどる。

      竜巻がおさまった時 そこに 鬼の子がいた。
  
      鬼羅は こうして 生まれた。


      生まれたばかりといっても鬼の子 鬼羅はすぐに地をかけまわり 樹の枝々を飛び回った。

      腹がへれば 野うさぎやヒヨドリ木の実を 食った。

      のどが渇けば地に耳をつけ 湧き水を探し のどをうるおした。



                      2008-04-29 23:45:46

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Last updated  2008.05.03 07:05:05

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