この国 石持浅海
日本が一党独裁の管理国家だったら・・・民主国家を標榜しながらも、その実、管理社会で、国家反逆罪は重罪で、人材育成を重要視し、小学校卒業時に児童の将来が決められ、非戦平和を掲げているため、士官学校は単なる公務員養成所となっている。そんな「この国」を切り取った短編連作集。うーん。視点がケルベロス(管理・取り締まり側のとある人物)に置かれることが多いので、管理社会で生きにくいであろう「この国」にたいする反発が起きるような起きないような。確かに体制の仕組みは気持ち悪いと思うのだけれども。気持ちの置き所が定まらず、なんだかしっくりこなかった。おそらく作者が伝えたいことがあったんだろうけど、設定や、視点の置き所などの無理がたたってわかりにくくなっているような。というか、石持作品でこう感じることが多いってことは、私が石持作品と相性悪いのかも?--------------------------Phase 1 公開処刑 ハンギング・ゲーム ケルベロスともいわれる番匠少佐は死刑囚の菱田の公開処刑に立ち会う。 在野の活動家で、一党独裁政権を打倒すべく結成された反政府組織の一体感に カリスマ性を発揮している菱田を救おうとするであろう 奪還メンバーのいぶりだしが任務の一つでもある。 容姿は知らぬが、マークしているのは松浦、菊池の二人。 番匠は次々仕掛けられる罠を巧妙にかわし、反政府組織のメンバーを返り討ちにしていく。 一度死刑から逃れたら(生き残ることができたら)無罪放免になるという制度を利用し、 自分の命と引き換えに菊池は菱田を救う。 すべてを仕掛けた松浦にしてやられた番匠は、彼の破滅を誓い、 松浦は菊池の妹に兄の敵を取ると誓う。Phase 2 教育 ドロッピング・ゲーム 小学校卒業直前に発表される児童の進路。 それにより、この後歩むレールはおのずと決まってしまう。 その評価は成績だけでなく、周囲への聞き取り調査も反映された。 エリートコースを目指していた金崎啓介と宮村翔一の少年二人の進路は、 エリートコースの啓介とと普通コースの翔一に分かれてしまった。 はじめは意気消沈する翔一だったが仲間と、 同じコースに通うことになった少女・奈津美の励ましによって復活する。 しかし、直後、自殺に見える死を迎える。 気持ちを切り替えた翔一の姿を堕落と取った啓介が、 エリートコースに行けなかったのは同じコースに進みたかった奈津美が、 翔一のことを悪く言ったからだったと入れ知恵したのだった。 翔一はそれを信じ、絶望。校舎屋上から飛び降りた。 前回の責任を取らされて左遷中の番匠が治安警察の大尉として登場。 完全犯罪ともいえる啓介の行為(決断力と行動力、必要ならば親友をも切って捨てられる冷酷さ)を 番匠はエリートなら賞賛すべき行動と容認。 この話が一番、訴えられるものがあってよかったかな。 合理性と、慎重さが招いた悲劇というか、合理的非情さに見る歪みとか。 のちに啓介は外務大臣になる。 視点は当時の担任教師(外国人)。Phase 3 軍隊 ディフェンディング・ゲーム 士官学校に通う生徒に治安警察から依頼された防犯のための見まわり命令が出される。 だが、それは国防実習(ディフェンディング・ゲーム)だった。 実習の協力者として治安警察の番匠少佐登場。(地位は少佐に戻っている) 士官学校でありながら、たんなる公務員の一種ととらえる生徒が多くなった時代に 戦争をしない国の軍人はどうあるべきか、戦わずに国民を守る手段を常に考える必要があると 思考法の提示の意味もあって組まれた実習だった。 Phase 4 出稼ぎ エレグレイティング・ゲーム この国では売春婦は外国人が期間限定で雇われる。 表向きには認めてないが、国営である。 起こった連続殺人事件の被害者は、すべてサタの客だった。 犯人はサタの同郷で、出稼ぎに来ていた青年・サジ。 サジを利用した人間(=松浦)がいると読んだ番匠中佐登場。 Phase 5 表現の自由 エクスプレッシング・ゲーム 反政府主義者が狙っているという、表現庁が企画した「カワイイ博」の警備をすることになった番匠中佐。 参加者のほとんどが反政府主義者メンバーで、番匠は松浦の計画を読み、 何度も窮地を切り抜ける。 だが、最後の最後で記者に成りすましていた松浦と相討ちとなる。両者ともこの国のためにという思いで対立(攻防を繰り替え)していた。一度、話し合ってみることができたら、何か変わっていたのだろうか?この国の体制に何の不満があるのかとずっと主張していた番匠が、死ぬ間際に松浦に対し、愛するこの国について話そう(この国をもっとよくするプランがあれば聞いてやる)と思う、この最後のオチ?で、一気に中途半端になった気がする。どうしても相容れない同志だったはずなのに、相手の言い分を聞く気があったとしたら少しは揺らがなかったのか?と。自分が死ぬからそう思えたのかもしれないけれど、なんだかなぁ。