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お茶かけごはん と ねこまんま

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オバサンの逆襲

オバサンの逆襲


「残念なのは―」

国センの担当者は悔しげに言った。

「片桐さんが何のために、はるばる東京まで電話をかけてきたのかという事です。クーリングオフをしようと思っていたのでしょう?」

「はい。それが、向こうのペースに巻き込まれてしまって。」

「相手と直接話をしてはいけないんですよ。こういう事になるから。」

「すみません。どうにかならないでしょうか。」

受話器から溜め息が聞こえた。

「この国民生活センターというのは、あくまでも消費者のお手伝いをするところなんですね。だから、本人が解約に同意したとなると、それ以上こちらが『いいえ、クーリングオフします』ということはできません。残念ながら、ここでこの話は終わりです。」

「そうなんですか…。」


電話を切って自分の浅はかさに更に腹を立てながらも、なんとかならないかと未練がましく頭をひねった。
そして、ひらめいた。
何のことはない。もう一度業者に電話をするのだ。

「先ほどお電話いただいた、片桐ですが。」

相手の男がすぐに出て、朗らかな返事が返ってきた。

「ああ、先ほどはどうも。」

「どうも。ご面倒をおかけしております。あの、ちょっと確認したいことがあってお電話したのですが。」

「はい?どうぞ。」

「先ほどのお話は、“クーリングオフ”で、ということですよね?」

確認もなにもあったもんじゃない。さっきの話は“解約”だった。分かった上でとぼけたのだ。

「…いえ。クーリングオフではありません。」

「えっ、そうなんですか?では申しわけありませんが、先ほどのお話はやはりお受けいたしかねます。私はこれ以上お話しすることはできませんので、これから先は国民生活センターの担当者とお話いただくようにお願いいたします。」

まるで会社の事務員のように、ビジネスライクな口調で私は言った。

「そうですね。そうしたほうがよさそうですね。」

「なんども話が行き違いまして、申しわけありません。」

「いえ、いえ。」

相手はあきらめて、気持ちを切り替えたようだ。話の分からない馬鹿と話しても、時間の無駄だと思ったのだろう。

すぐさま国センに電話をかける。

「クーリングオフに話をもどしました!」
「え?業者に電話されたんですか?」
「はい。馬鹿のふりして…。」

いきさつを話すと、担当者はあっけに取られた様子だったが、

「では、こちらから業者に連絡をとります。」

と言ってくれた。

自分がちゃんとオバサンに“進化”していたことを確認しながら、受話器を握ったまま私はにやりと笑った。


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