119192 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

片桐早希 おむすびころりん

片桐早希 おむすびころりん

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

片桐早希

片桐早希

Calendar

Comments

総徳@ あんれ~? もう1ヶ月! なんだ、なんだ? ど…

Favorite Blog

スター・ウォーズ/… New! ジャスティン・ヒーハーフーさん

本を読もう!!VIV… viva-bookさん
FLOWER GARDEN 2 小山千鶴さん
2009.02.16
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類
 北川理生と僕は一緒に研究室に入り、彼女は、僕にとって一番の共同研究者でした。

 長い髪を黒いゴムでまとめ、黒縁の眼鏡をかけ、化粧はほとんどせず、いつも白衣姿です。

 愛想笑いやお世辞には全く無縁で、思ったことをそのまま言うので、敵も多いのですが、

信頼されることもあるという、あまりお目にかかることのできないタイプの女性です。


 彼女は僕が、研究室を辞めて秘書になると言った時、ぽかんとしてしばらく言葉を失って

いました。そして、ふうん、そんなことを考えたんだ、と言って、それからは何も言いません

でした。


 その彼女に研究室で再会した時、僕はタイム・スリップしたような妙な感じになりました。

何故なら、彼女は全くといっていいほど、変わっていなかったのです。


 彼女は僕を見るなり、軟弱者が帰ってきた、と言って、少し笑いました。それから僕に作業

の手伝いをするように、あれこれと指示をしたのです。


 僕の研究室生活はこうして再開したのですが、彼女がいてくれたおかげで、色々なことが

スムーズに進んだことは認めざるをえません。

 僕は彼女といることに心地良さを覚えるようになりました。彼女とは何の気負いもなく

話せたのです。


 しかし、そんな時間がしばらく過ぎたある日、僕は、雪乃さんを失った淋しさを、北川理生

という女性で埋め合わせているのではないかと、思ったのでした。それは、許されないこと

でした。


 僕は彼女に、雪乃さんのことを話そうと決心しました。


 大きな実験が一段落した夜、僕は雪乃さんのことを話しました。

 それは、思っていたより長い話になりました。


 彼女は黙って聞いていました。

 僕が全てを話し終えても、黙っていました。そして、視線を窓のほうに向けると、

 尚人と結婚すれば何の不自由もない生活ができるのに、今時、そんな人もいるんだね、と

ぽつんと言いました。

 それから、自分の机の引き出しの中から、アンパンの袋を取り出すと、大きな音を立てて

袋を破り、パンにかぶりついたのです。驚いた僕が彼女を見ると、彼女は涙をこぼしながら

パンを食べ続けていました。

 アンパンを食べ終わると、今度はジャムパンを食べました。それから、せんべいも食べ、

ペットボトルの水を飲みました。こぼれる涙をふきもせずに、彼女は食べ、飲み続けました。


 どのくらい時間がたったのでしょう。

 驚く僕に、さあ、実験のまとめをするよ、と彼女は言い、何もなかったように立ち上がると

実験室に歩き始めました。


 彼女はあの夜以来、雪乃さんのことは何も言いません。

 僕達は今も、一緒に実験をしたり、時々ドライブをしたり、彼女の好きなプラネタリウムに

行ったりしています。

 僕達がこれからどうなるのか、正直なところよく分からないのです。でも、もうしばらく

今のままでいいのかな、とも思います。

 雪乃さん、僕はこんな風に過ごしています。


 僕の話を聞いてくれてありがとう。

 もう雪乃さんにこうして手紙を書くことはないでしょう。


 雪乃さん、いつまでも元気でいてください。

 そして、幸せでいてください。

 雪乃さんに出会えて、僕は幸せでした。 


                       





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.02.16 20:36:53
コメント(4) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.