|
カテゴリ:カテゴリ未分類
昨日とはうって変わって冷え込んだ朝、僕はいつもの時間に目覚めた。
自慢ではないが、僕は寝つきも目覚めもとても快調だ。あっという間に眠ってしまうし、 目覚めと共に即行動に移れる。10年間の秘書生活の賜物だ。 研究室は春休みに入っていたが、僕は今日も行く予定にしていた。理生もきっと来る だろう。 家を出る前に、僕は棚から小さな箱を取り出した。中にはお雛様が入っている。 兄の二番目の子どもが女の子だと分かったとき、両親は大喜びした。兄と僕の男だけの 兄弟なので、両親はお雛様を飾って楽しむことができなかったのだ。 長年の夢がかなった母は、僕に車を運転させお雛様を買いに行った。義姉の実家から もお雛様は届くことになっていたが、母は自分達でも買ったのだった。 その日、きらびやかなお雛様がたくさん飾られているその店で、僕は素朴な表情をした そのお雛様を見つけたのだった。 研究室に着いた時、理生はソファーに座って何やら熱心に本を読んでいた。 僕は、箱からお雛様を出すと、中庭に面した棚の上に置いた。 古い棚の上に置かれたそのお雛様は、優しげな顔をして僕を見ている。 「わっ、どうしたの?」 理生が近づいてくる。 「尚人が持ってきたの?」 「ああ。」 「へえ~~、どうしたの・・・・。」 理生は、かわいいねえ、と言いながらそのお雛様を見ていたが、僕を見て、にっと笑った。 「尚人、このお雛様、雪乃さんという人に似ているんじゃない?」 僕は理生をしげしげと見る。 理生、僕は君のその勘の鋭さには、ほんと、心から脱帽するよ・・・・。 そうなのだ、そのお雛様は、僕が求婚して、そして、断られた雪乃という人に、とても よく似ていたのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|