気乗りしない土曜日
閉め切ってあった研究室に入り窓を開け放つと、夏の香りがとんぼとともにやってきていた。
眼下には道路との境に植えられた夾竹桃が黒く葉を尖らせている。
わずかに南の入った西風がゆるやかに吹き込んで部屋の湿気を飛ばしてくれる。
持ち帰るべきものを作業しながら、ふと海を見たいと思った。
此処へ来るたびに海岸線の向こうに並ぶ工場群を写真したいと思うのだけれど、今日もカメラを置いてきている。
雲間が切れて陽射しが刺すように運河の表面に踊っている。
小魚たちが澱みに群れて水の透明さを遮っている。
煙草一本の時間で少し汗ばみながら重なった石の果てにある工場をぼんやり眺めた。
気乗りしない。仕事も釣りも写真も。
少し伸びた髪でも切りに行こうか。