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山行・水行・書筺 (小野寺秀也)

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2013.03.18
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カテゴリ:犬のいる生活

呼吸(いき)合はせ歩きゐるなり人と犬犬たちは皆尻尾をあげて
                                                               河野裕子 [1]

  イオが2才から3才になる頃、「サブちゃん」という同い年の牡犬、「コロ」という牡の老犬に朝の散歩で出会うようになった。仙台城址近くの民家から離れたている広場に、3方向から集まるように、その広場をそれぞれの散歩コースに組み込んでいた。

  コロは飼い主も含め、「コロ」と呼んだり「コロちゃん」と呼んだりするのでコロという名前だと知れたが、サブちゃんは誰もが「サブちゃん」と呼ぶので、「サブ」、「サブ××」なのか、「サブちゃん」そのものが名前なのか、じつは今でも分からないのである。

  コロは泰然自若としているやや大型の柴犬で、大人というものはこういうものだということを振る舞いで示しているような犬だった。サブちゃんとイオは、出会えばはしゃぎ回るような挨拶をするのだが、コロは鼻面をちょっと近づけておしまいである。

  koro-01
  コロのお父さんにおねだり(遠慮して前肢を触れないように)。 (2003/8/23)

   subu-01
      サブちゃんのお母さんにお愛想。 (2003/9/4) 

  コロよりずっと若いサブちゃんとイオは大はしゃぎでじゃれ合っている。しばらくは追いかけっこをし、時々は山の端の藪に2匹で突っ込んでいく。コロはしばらく静かに2匹を眺めてから先に引き上げていく。

  2匹の藪遊びは、ある程度の時間がたてば終わるのだが、時にはイオだけが帰ってくることがある。サブちゃんは藪中の遊びが好きなようで、お母さんが呼んでも出てこないことがあった。お母さんが怒ってしまって、先に自宅に戻ってしまったことは1度だけではない。その広場からは山裾伝いに自宅に戻れるので、お母さんは心配していないようなのだ。

  sabu-02
              激しく絡み合って。 (2003/10/19) 

朝光を走る磨かれた凡な犬     金子兜太 [2]

  サブちゃんとイオの遊びは、全力疾走しながら絡み合い、転げ回り、また全力疾走なのである。サブちゃんと出会って挨拶を交わしているうちに、イオに突然スイッチが入って駆け出すのが合図のように遊びが始まる。
  遊びのきっかけはイオが作り、遊びが始まればサブちゃんが遊び場を決めているようで、結局は藪遊びに誘われるのだった。

  subu03
       元旦に出会って、行儀良く待つ。 (2004/1/1) 

  イオはとにかくサブちゃんに夢中だったのである。サブちゃんはといえば、激しい遊びにもつきあってくれるが、藪の中へイオを引き連れて入って行ったあと、イオが飼い主を気遣って藪から戻ってきても平気で一人遊びをしているらしかった。もしかすると、遊ぶのが好きなだけでイオには淡々としていたのかも知れない。
  それでも私としては、あれはイオの恋だったと思いたいのである。あの切実な表情はそんなに見られる訳ではなかったのだ。

  サブちゃんの自宅は、太平洋戦争後に仙台空襲の被災者や外地からの引き揚げ者のための住宅地として仙台市の公有地である仙台城址の麓に造られた住宅街である。戦後、50年ほど過ぎてから公園用地とするために市が立ち退きを迫っていて、ぽつぽつと引っ越しが始まっていた。サブちゃんの家でも近いうちに引っ越すのだと聞いていた。

  出会いから1年ほど過ぎて、しばらく会えなくなった。サブちゃんのお母さんも仕事を持っていて、たぶん散歩の時間帯が変わったのだろう。久しぶりに出会ったのは、ある年の元旦である。まずは、お年玉だよと言って、サブちゃんのお母さんがおやつを振る舞う (写真) 。
  それから近くの広場に移動して、いつものように遊ぶ。ところが、絡み合って遊んでいるうちに異様に興奮したイオは、全力疾走したままサブちゃんに体当たりをしてしまった。当然のように強打したサブちゃんは甲高い悲鳴を上げて逃げてしまった。それっきりイオに近づこうとしない。恐れをなしてしまったのだ。

  2、3日後にまた会ったが、サブちゃんはイオから微妙に距離をとっている。イオは不満そうに鼻を鳴らすのだが、じゃれ合って遊ぶ様子はさらさら見せない。イオの暴力遊戯がトラウマになって、イオはふられてしまったらしいのだ。

  いつか元に戻るでしょうね、などとサブちゃんのお母さんと笑いながら話していたのだったが、激突事件から3週間ほどでサブちゃんは引っ越して行ってしまった。

  突然のお別れで、イオの恋は終ったのである。

おもひ栄え大暑無言の別れかな    佐藤鬼房 [3]

    

[1] 河野裕子「季(とき)の栞 河野裕子歌集」(雁書館 2004年)p. 157。
[2]「金子兜太集 第一巻」(筑摩書房 平成14年)p. 147。
[3]「現代俳人文庫10 佐藤鬼房句集」(砂子屋書房 1999年)p. 70。

 






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Last updated  2013.03.22 11:03:11
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