雪解けを待ちかねて(2025年4月23~25日)
昨年の晩秋に山形県米沢市と福島県会津若松市にそれぞれ2泊3日の小旅行に出かけ、その程度の旅行ならこれからも計画できるだろうと自信(体力的にも経済的にも)を深めた。冬の間は冬眠して、冬が明けたら動き出そうと考えていた。 旅行先の次の候補は、山形県酒田市、岩手県盛岡市、青森県弘前市あたりだろうとそれとなく思っていたが、春はまた桜の季節で弘前などは観光客が多いだろうと諦めた。観光旅行に違いないが、どちらかと言えば、行ったことのない(馴染みのない)街でのんびりしたいというだけの旅行なのだ。 弘前は桜の季節が終わってからということにして、車で2時間ちょっとの酒田市に行くことにした。酒田市にも桜まつりのイベントがあるらしいが4月15日頃には終わるということだった。ただ、ネットでいくら探しても私たち夫婦がぜひ行ってみたいと思う場所がなかなか見つからないのだった。私は、ぶらぶら街並みを眺めながら歩くだけで十分楽しめるのだが、グーグルマップのストリート写真で探しても、市街中心部と思われるところも含めて似たような街並ばかりにしか見えないのである。日本海に面した平野部に広がる酒田市は、行政が行き届いて道も区画もきちんとされ(過ぎ)ているという印象である。 出発日の23日は仙台も酒田も雨降りだった。というよりも、2泊三日のほとんどが小雨模様なのだった。最終日の午後、北の空の下の方に一筋の狭い青空が見えただけだった。何をどんなふうに観光するかは、その場その場で考えようということで旅は始まったのである。 昨秋の小旅行は、いずれも食料品買い出しと日帰り温泉入浴が主目的のような観光旅行だった。今回も酒田に行く途中で2ヶ所の道の駅に立ち寄った。「道の駅 にしかわ」には温泉入浴施設があり、昼前に入浴した。この道の駅には買いたいものがけっこう並んでいた。 道の駅から見ると、低い山並みの谷あいに雪がたくさん残っている。月山山麓を越えて鶴岡、酒田に向かう山中の道からは残雪の山ばかりになる。大木の根元ばかりが雪解けが進んで、冬から春への移り変わりが印象深い。 もう一つの道の駅にも寄ったが、まだ雪深かった冬の名残が続いているようで半分ほどの施設が閉まっていた。ここで昼食をとる予定だったが諦めて、おそらく酒田ではいちばん有名な観光地の「山居倉庫」にまっすぐ向かった。 山居倉庫にも観光客はまだ少なく、出会ったのは外国人を含む10人ほどの団体だけだった。山居倉庫は明治時代に造られた12棟の巨大な木造倉庫で、「山居米」と呼ばれる米を貯蔵してここから酒田港を通じて出荷していたという。観光写真で見かける写真は倉庫の裏側で、米の出し入れなどの荷作業をする表側の方がその巨大さがよく実感できる。 山居倉庫を出て、近くの酒田ラーメンの店で遅い昼食をとった。酒田ラーメンはどの店も伝統的にワンタンメンが主力ということらしく、私たちもそれを食べた。魚介系のダシがよく効いていて、魚嫌い(だった)の私にはどうかと思ったが食べていくほどおいしくなるのだった。ラーメン店から日和山公園に行ってみたが、雨と低く垂れこめた雲で展望は一切ない。日本最古級の木造六角灯台と背景の酒田港(の一部)を記念に撮っただけでホテルに入り、しばらくゆっくりしてから、夕食は日本海の魚ということにして車で街に出て寿司を食べた。 2日目も小雨ながらやはり雨降りで、ぶらぶら歩くことは諦めて、酒田市美術館と土門拳記念館を回り、昼食は日和山公園にあるレストランでパスタの昼食とした。 土門拳の写真はじつに見ごたえがあった。「土門拳のスナップショット!」という企画展が開催されていて、戦中、戦後の子供たち(多くが私の子供時代と重なっていた)の躍動する遊びばかりではなく、その子供たちの幸不幸までも写し取っている写真に圧倒された。常設の「古寺巡礼」に含まれる写真には「黒潰れ」や「白とび」など写真では嫌われるものが、仏像の陰翳表現として用いられていた。明るいところはひたすら明るく、闇は闇のまま、そのあわいで仏像の存在感が際立っていた。高齢になってカメラを志した身には恐れ多すぎるのだが、写真集を2冊購入して少し勉強してみることにした。 昼食後は、小旅行恒例の日帰り温泉である。酒田市を出て「庄内町ギャラリー温泉 町湯」は日和山公園から20分ほどの近くだった。入浴後は、昨日と同じようにホテルで居眠りしながらのんびりと過ごした。夕食は予約していたフレンチレストランで、ワインも飲みたくてタクシーで出かけた。このフレンチは本当に満足できるフルコースだった。 3日目、何も計画していなかったが、せっかくの酒田なので日本海を見に行こうということになった。さいわい、雨は次第に小降りになり、ホテルを出るころには上がっていた。ホテルの部屋を出る直前、さっきまで雲に隠れていた月山と鳥海山が姿を現していた。7階の東向きのホテルの部屋の窓ガラス越しに二つの山の姿を撮ったことでカメラを持って行った甲斐があった、そんな気がした。 初めに「酒田北港緑地展望台」に行って、日本海ばかりか酒田の展望を見たいと思ったのだが、行ってみたら「4月の開館は11時から」という張り紙があって入ることができなかった。仙台を出る前は、ここも日和山公園も日本海に沈む夕日を撮ろうと心ひそかに決めていた場所だった。 閉館中の緑地展望台を出て、海沿いに湯野浜海水浴場に向かった。地図では海沿いの道だがずっと黒松の砂防林や人家があって海は湯野浜海水浴場についてようやく見ることができた。雨は上がったものの風が強烈に吹き始めていた。その風を利用するのか、ウインドサーフィンの帆が二つほど海面に見えた。左手には先端近くに加茂水族館があるらしい山稜が海に突き出ているように見え、右手には酒田港近辺の発電用風車の立ち並ぶ姿が遠望できる浜だった。 考えていた予定はここまでだったが、加茂水族館の看板を見た妻が行きたいということで寄ることにした。ここはクラゲの展示で有名で、嫌になるほどの数と種類のクラゲを見ることができた。水族館を出ると風はいっそう強烈に吹きまくっていて、妻とスクラムを組み、なおかつ妻は手すりにつかまってようやく車に辿りつくありさまだった。 帰り足、「道の駅 にしかわ」によって少しばかり買い出しをして、2泊3日の小旅行は終わった。雨は雨でそれなりに楽しめるという旅行だった。読書や絵画鑑賞のブログかわたれどきの頁繰り(小野寺秀也)日々のささやかなことのブログヌードルランチ、ときどき花と犬、そして